LEARNING

連載みんなでつくろう! あたらしい学びのカタチ

Report 1

Tinker to Learn

自分の手を動かして探求する——Exploratorium|San Francisco

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従来の学びのあり方に限界を感じる人たちがいま、世界のあちこちであらたな提案をしはじめている。たとえば、サンフランシスコのExploratorium、ニューヨークのSchool for Poetic Computation、そして山口県の山口情報芸術センター[YCAM]。メソッドは違えども、共通するのは「Hands-on」、つまりより実践的かつ実験的なスタイルだ。ニューヨーク在住のジャーナリスト、佐久間裕美子がそれぞれの現場に携わるスタッフとの対話を通して新しい学びのカタチに触れる──。

photo by Damien Maloney
text by Yumiko Sakuma
cooperation with YCAM

エクスプロラトリアム|Exploratorium
物理学者のフランク・オッペンハイマーが1969年にサンフランシスコに創立した学びのためのミュージアム。2013年に、数十年間放置されていたピア15(1934年建設)を改築した現在のロケーションに移転した。改装を担当したのは建築事務所EHDD。

試行錯誤のプロセスをいかに楽しませるか
To Create Inquiry-based Experiences

おそらく想像していたのは科学系の博物館のような場所だ。ところが足を踏み入れた瞬間に、方々に置かれているおびただしい数の「展示」に圧倒される。ひとつひとつの展示に夢中になっている人たちがいる。遊んだり、触ったり、乗っかったりしている。博物館というより遊び場と呼ぶのがふさわしい場所に並んでいるのは、展示というより、遊び道具なのだ。

様々な科学現象、機械のメカニズムや動植物の不思議、視覚や聴覚といった人間の五感の働きなどを示す展示はひとつひとつクリエイティブで刺激的だ。ショーケースのなかで昆虫たちが死んだネズミを食べている。屋上に設置されたピンホール・カメラから、サンフランシスコ湾の上空を羽ばたくかもめたちの姿が見える。へーと感心しながら、足を進めてしまう。そしてちょっと待てよ、とはっとする。

さっき通り過ぎた「Listening Vessels(聞いている器たち)」という展示にはシンプルな説明が書かれていただけ。自分は仕組みを理解し切れないまま通り過ぎてしまった。なるほど、ここは「Up to You(あなた次第)」な場所なのだ。そう思い至った瞬間、展示についた懇切丁寧な説明を読んで理解したような気持ちになる、という受動的な「学び」の方法にすっかり慣れてしまっていた自分に気づかされる。

館内にはあらゆるタイプの機械がひしめく「ショップ」と呼ばれる工房があって、展示のスペシャリストたちが、何かのアイディアが展示として形になるかどうかリアルタイムで実験している。

松本亮子|Ryoko Matsumoto 
英語教師を経て、大学院で教育心理学を専攻したが、学校教育以外の学びの場に可能性を感じ、子供のためのミュージアムCAMPで子供のためのワークショップなどを手がける。その後、米国に移住してエクスプロラトリアムへ。

まずは好奇心の赴くままに手を動かしてみよう
Playful Invention, Investigation, and Collaboration

「誰でも作れるよ、ということを示すために、わざとホームセンターで買える素材を使ったり、仕組みがわかるように配線をむき出しにしたり。ここでは作られるものすべてがプロトタイプなんです」。そう教えてくれたのは日本人スタッフの松本亮子さん。

肩書は「ティンカリング・スタジオ」の「ラーニング・デザイナー」だ。手を動かして試してみる、という意のTinkerという言葉にエクスプロラトリアムの真髄がある。スタッフたちがそれぞれの思いつきをあれこれ試し、素材を組み合わせていく。ショップではそのプロセスが見えるし、それを見てムズムズすれば、「ティンカリング・スタジオ」にはビジターが好きに使える素材やツールが揃っている。

「人は子供のときに一番ティンカリングするんですよね」という松本さんの言葉が心に響く。近年、好奇心の赴くままに何かに触れて、自分の手を通して考えることがあっただろうか。エクスプロラトリアムの展示が、私たちの生活のなかに存在する自然現象や物事の仕組みを示す「結果」なのだとしたら、なぜそれがそうなっているかの道筋を理解するためには自分の手で探求してみなければならない。答えはある、でもそこにたどり着くのは自分なのだ。そのプロセスは楽しい。だってここエクスプロラトリアムでは、展示という名の遊び道具が「触ってごらん、楽しいよ」と呼びかけてくるから。

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Peer to Peer Learning

みんなで教えあい、みんなで学びあう——School for Poetic Computation|NY