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連載すでに始まっている! AIと暮らす未来

Interview 1

MUSIC ENCOUNTERS AI GENERATES

AIが音楽との出会いを変える!? ——徳井直生(Qosmo)が語るAI BGMの可能性

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11月19日(火)より、森美術館にて「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命——人はどう生きるのか」が開幕します。100点を超える展示作品の中から浮かび上がってくるキーワードのひとつが「AI」。そこで、私たちのごく身近にある4つの事例を通して、AIをめぐる現状と課題について考えてみます。1回目は、新虎通りCORE 1Fの「THE CORE KITCHEN/SPACE」で進められているUSEN、Qosmo、森ビルの3社による「AI BGM」の実証実験について、Qosmoの徳井直生に伺います。

Photo Courtesy: Qosmo
Portrait by Koutarou Washizaki
text by Fumihisa Miyata

お話をうかがった「Qosmo」代表取締役 / 慶應義塾大学准教授 /Dentsu Craft Tokyo Head of Technologyの徳井直生さん。AIと創造性についての研究の傍ら、アーティストとしても活動する。

——「AI BGM」のサービスとは?

徳井 「THE CORE KITCHEN/SPACE」という飲食店兼イベントスペースのBGMを、季節や天気、時間によってAIがリアルタイムに選曲を変化させる、というものです。たとえば、開店したばかりの朝だったら爽やかな雰囲気の曲、そこからランチのピークタイムには明るくアップテンポになって、夜にはしっとりとした曲がかかる、というようなことですね。

AIが抽出するもとになるのは、USENNEXT GROUPのUSENが配信する膨大な数の楽曲です。元来、USENの専門家の方々が多くの楽曲に、メランコリックだとか、夏っぽいといったような情報の「タグ」をつけていました。それをAIにディープラーニングさせて、人力ではできない数の楽曲の音=データに対して、特性を推定するモデルをつくったんです。興味深いのは、AIによるタグづけは、「メランコリーだけど、爽やかでもある」というような、人間だとなかなか定量化しづらい“中間”の領域まで入っていくという点です。そうやって学習・抽出された楽曲データを、雨が降っていたり、晴れていたりといった天候によっても、異なった曲・曲順で選曲していくんですね。

「AI BGM」はUSENとQosmo、森ビルの3社が、森ビルが運営する「THE CORE KITCHEN/SPACE」にて7月1日より開始した実証実験。ぜひ現地で体験してみてください ●住所:港区新橋4-1-1 新虎通りCORE 1F ●営業時間:11:00~23:00 ●定休日:なし ●電話:03(6402)5229

——夏の夕暮れなど繊細なニュアンスの時間帯にもしっくりくる曲を流してくれそうですね。

徳井 まさに、そういうことなんです。ここからさらに、インテリアも含めた店舗の雰囲気や、お客さんの数や様子といったパラメータを追加しながら選曲するシステムの開発も進めています。その人にピッタリの洋服を仕立てるテーラーメイドのような「AI BGM」を目指しています。僕が「AI BGM」で一番面白いと思うのは、人間だと思いつかないような、ジャンルや年代を飛び越えた選曲をしてくれる瞬間がある、ということです。

人間が選曲するときは、どうしても特定のジャンルや年代に偏ってしまうことがある。しかし僕が先日現地に行ったときの「AI BGM」は、80年代のロックの次に、70年代のボサノヴァっぽい曲を流し、そこからつい最近のネオソウルのような音楽をかけていました。音楽専門の人間には驚く選曲なのですが(笑)、冷静に聞いてみると、たしかに使っている楽器の構成が似ていたり、グルーヴ(リズムのノリ)がしっかりつながっていたりするんですね。これは、本当に面白いところなんです。

新しい音楽ジャンルを生み出したい
Create Completely New Genres of Music

——徳井さんご自身も長年、ダンスフロアを相手に選曲するDJとして活動され、今回の「AI BGM」につながる「AI DJ」というプロジェクトも手がけてきていらっしゃいますね。

徳井 僕自身は学生の頃からずっとDJをやってきていて、ここ4年ほどは「AI DJ」というプロジェクトを続けています。僕とAIが一曲ずつ交互にかけていくというスタイルでパフォーマンスするんです。やはり最もコアになっているのは、選曲のメカニズムです。DJはフロア=場の雰囲気をキープしながら徐々に盛り上げていって、気持ちよく踊ってもらうというのがタスク。気持ちよくつながっていくような曲を選んで、一時間なら一時間、一晩なら一晩の、場にあわせた「ストーリー」を描くんですね。「AI DJ」ではディープラーニングを使って、そのための仕組みや技術を開発してきました。それを商業的に応用できないか、と考えていたことが、今回の「AI BGM」につながったんです。

選曲中のAIDJで処理されているデータの様子を可視化

実は、定量化しづらい「場」に対して「ストーリー」を描いていくということは、従来のAIやコンピュータには難しいとされていたことなんです。それがディープラーニングの発展によって、感覚的なところまで扱えるようになり、違和感のない「ストーリー」が描けるようになってきた。この自然さを楽しんでいただく、ということが第一にあります。その上で、「新しい音楽との出会い」が起こりえるんじゃないか、と考えています。

これまでも店内のBGMに興味を惹かれることは皆さんあったと思うのですが、「AI BGM」による、人間ではありえない選曲や並べ方によって、知らなかった楽曲との新鮮な出会いがあるのではないかな、と。今は音楽も情報としてフラットになっていて、検索したらすぐに出てくる時代です。類似した情報のリコメンドによって、有名な楽曲ばかり聴いてしまう、ということもありえる。そこで「AI BGM」は、ジャンルも年代も飛び越えながら一連の流れをもって音楽を届けてくれる。背景の情報というよりは、音そのものの情報の類似によって、逆説的に音楽との新たな出会いが生まれるはずです。

——人に寄り添いつつ、新鮮な感覚も与えてくれる「未来のAI」のひとつの姿がありますね。

徳井 決して、人間をAIで置き換えようとしているわけではないですし、よくいわれるような、AIが代替することによって人件費をコストカットしよう、という話ともまったく違うんです。実は「AI DJ」は当初、DJブースに人が立たず、AIが全自動で楽曲をかけていたんですが、これが不思議と盛り上がらないんですよ(笑)。やっぱり人間がもつ音楽への愛やエナジーといったものが伝わらないと、面白くなかった。 要するに、AIに人のまねをさせるということではなく、AIによって人間の人間たるところが見えてくるとか、人間の常識からは考えられない気づきを与えてくれる、ということをやってみたいんです。この距離感が、AIを使うときのポイントだと思います。AIを使うことで「人間の発想の外側を探索してみる」というのが面白いのではないか、と。

——そうしたAIのあり方を人々の生活の中に実装する、意義あるワンステップなんですね。

徳井 はい。僕が教鞭をとっている慶應大学SFCの研究室では、AIによって「新たな音楽ジャンル」を生み出す、というテーマに取り組んでいます。誰も聞いたことのないようなリズムや音色の使い方などによって、新しい音楽ジャンルをAIがつくるためにはどうしたらいいのか、ということを考えているんです。そうしたAIの未来を切り拓く上でも、定量化しづらかった選曲を実現できる「AI BGM」に取り組んでいますし、お店に来てくださる方々にも楽しんでいただけたら、とても嬉しいですね。

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