自然の素材と人の技が合わさるモノづくりの現場こそ、その土地の風土・魅力が詰まっているに違いない。そんな想いから、菰野ばんこのつくり手に会いに行きました。
Text by Dai Nagae / Photo by Daisuke Abe
連載旅する新虎マーケット Ⅲ期
Exhibitor 2-1
Text by Dai Nagae / Photo by Daisuke Abe
江戸時代中期に陶芸家・沼波弄山(ぬなみろうざん/2018年で生誕300年)が現在の三重郡朝日町にて開窯し、途中衰退した歴史があるものの、明治期は海外輸出に力を入れるなど、三重県から上質の器を世界へと広げています。土にペタライト=葉長石を混ぜ込むことで、陶器と磁器双方の性質を持ち、熱に強く、普段づかいのできる汎用性が特徴。
ここ菰野町では現在、萬古焼の窯元7人衆が「菰野ばんこ会」を立ち上げ、それぞれの強みを生かしながら、「菰野ばんこ」のブランド化を模索しています。
「次の世代へ胸を張ってモノづくりの心を伝えられるよう、菰野ばんこを持続可能な産業にしていきたい」と語るのは、ばんこ会を引っ張る若手のひとり、「山口陶器」2代目・山口典宏さん。今回特別に、広い工場の中を案内いただきました。
つくる器によって、素材も道具も異なります。工程はどの窯元もほぼ同じく、土の成形にはじまり、型や機械によってできたバリを取り調整、乾燥させたのち800℃ほどで素焼き。釉薬を塗り、1200℃以上の高温で13〜14時間ほど本焼きします。山口陶器は、自社でさまざまな器を開発・製造できるように、ほぼすべての機材を揃えているものの、全体生産数の半分は産地へ外注しているのだとか。
かつては、それぞれの工程を職人が分業制で担っていたのが、産業の縮小によって担い手が減り、技術伝達しにくくなっている現状。山口さんは、その状況をふまえ「つくり手のつくる環境も変わりつつあるなか、小さなコミュニティで経済を循環してゆくべく模索しています。
ひとつの窯元ですべての工程を完結させるのではなく、得意なところへ外注していくことで産業自体をまわす体制も整えていかないと」と、大きな視点で萬古焼を捉えていました。
そこでは、自社商品はもちろん、ほかの窯元の器やデザイナーとのコラボ商品、グッズなどを販売。繊維の切れない生姜おろし器、1人用の土鍋、目の詰まらない胡麻すり器……などなど、実用性とシンプルなデザインを兼ね揃えた、一癖も二癖もある焼物が並びます。
器一つひとつを丁寧に説明する山口さんの真摯な態度から、「職人はつくるだけではなく、使い手への届け方、伝え方も考えていかないといけない」そんな想いをもって、産業自体の構造にまで目を向け、活動されているのだと感じました。
御堂の前に大小さまざまな石像が500体弱並ぶ光景は圧巻です。
羅漢だけでなく閻魔大王、七福神、菩薩など、神仏混合も珍しい。お世話をする近隣の方々のご厚意もあって、本堂にある貴重な一対の「大日如来像」を拝観することができました。ここは住職がいないため、地元の人が自分たちで管理し、毎週日曜にはご開帳しているのだとか。
夏はやっぱりこれ!というあの可愛らしい形のものから、顔の表情が豊かなもの、豚ではないものまで大小さまざま。「絵柄についても、いろいろと実験しながらつくっているんよ」と嬉しそうに語る松尾さん。
事務所の2階には、実験的につくってみたという蚊遣り豚や器、急須などがところせましと置かれていました。
10年前から菰野町にある小学校5校へ出講し、土の扱い方から器の成形方法まで、授業の中でも教えるそう。
「大変だけどな。2時間くらいで、俺には考えもつかん、すごいのつくりよる。びっくりするし、おもしろい。明日も午前中から学校や」と終始笑顔の松尾さん。
地元の人たちへ向けて、萬古焼を身近に感じてもらい、子どもたちの創造する力を引き出す、そんな役割を楽しみながら引き受けている印象でした。
奥さんと2人、時々娘さんが手伝う体制で、依頼主の要望にデザインで応えていく、個人経営の強みを生かした小回りのきく働き方をしています。「もともと別の窯元で働いていたのを、25年前に独立。私らがやっているのは『たたらづくり』と言って、石膏の上に土をかぶせて叩きながら成形していく工法です」と石川さん。
土や釉薬の質感を生かした素朴な器は、生活にそっと寄り添う、魅力あるたたずまいをしています。
馴れ合うのではなく、同じつくり手としてライバルでもある。改善したら良いことはすぐ実行できるし、個々でできないことは適材適所に振り合えるような良い関係が築けているように思います」。
萬古焼を通して、異なる世代のモノづくりの担い手が、それぞれの立ち位置から地域の未来を考える、そんな姿をこの旅では垣間見ることができました。彼らが日々模索し、行動へと移していくことで、変化し続ける伝統産業「菰野ばんこ」を、今後も見ていきたいと素直に思います。
今秋も、ばんこ会主催の「窯出市」が三滝川河川敷で開催されるようです。ぜひ、つくり手の言葉に直接触れてみてください。
かもしか道具店
山口陶器のオリジナルブランド兼ショップ。「たのしく、しっかりとした生活文化」を発信する拠点として、陶器はもちろん、各地の伝統産業を生かした雑貨も販売。週末には萬古焼の体験ワークショップも。
竹成 五百羅漢、大日堂
竹成地区の中心に位置し、全国的にも珍しい2体の大日如来坐像が安置されているお寺。境内には、樹齢100年以上の藤の木と、土山に設置された469体の石像群「五百羅漢」が。三重県指定史跡に指定されています。
松尾製陶所
200年以上にわたって、夏の風物詩「蚊遣り豚」をつくる窯元。胴体に金魚が泳ぐ涼しげな品や、頰に日の丸と富士山をあしらった愛らしい品など、毎年遊び心のある新作を発表しています。
クラフト石川
土や釉薬によって表れるぬくもりを大切にし、暮らしに馴染む器をつくる陶芸工房。作品販売のほか、1日体験の陶芸教室も開講しており、作家指導のもと自分好みの器をつくることができます。
SHARE