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バウハウス最後の目撃者、〈TECTA〉の家具の秘密。——アクタス・ブランドストーリーvol.1

ヨーロッパ家具の輸入販売からオリジナル家具、インテリア小物の提供までライフスタイル全般をサポートする〈アクタス〉。提携する数多くのブランドの中から、とっておきのブランドストーリーと家具の魅力を紹介する3話シリーズ。第1回はドイツの〈TECTA〉にスポットを当てます。

TEXT BY Mari Matsubara
All photo ©︎ ACTUS

バウハウス・デザインの正当な後継者

ドイツの家具メーカー〈TECTA〉の名前を知らずとも、〈バウハウス〉の名を聞いたことがある人は多いだろう。1919年にヴァルター・グロピウスが中心となってドイツのワイマールに設立した美術と建築の総合教育機関〈バウハウス〉。学校として存続したのはわずか14年間だったが、ここから数多くのデザイナーが輩出され、その後の建築・デザイン史に大きな影響を及ぼした。グロピウスほか、〈バウハウス〉に関係のあったマルセル・ブロイヤー、ぺーター・ケラー、ミース・ファン・デル・ローエらの家具に並々ならぬ興味を抱いたのが〈TECTA〉の創業者、アクセル・ブロッホイザーだ。〈バウハウス〉の家具製造の権利を譲り受けて自身の工場で次々と復刻させ、現在は椅子、テーブル、ソファなど約20点を製造し、その魅力を世界中に広めている。
 

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1/5「D40」。オリジナルはマルセル・ブロイヤーが1928年にデザインした。ブロイヤーは自転車のスチールパイプの強度と軽さに着目し、家具デザインに取り入れた。
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2/5「F40」。オリジナルはマルセル・ブロイヤーによる1931年のデザイン。しかし強度不足で製品化せず、のちに〈TECTA〉の特許技術「チューブ・アプラティ」により実現した。
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3/5「F51」。1920年にヴァルター・グロピウスが〈バウハウス〉の自らの校長室のためにデザインした。ミニマルな建築に呼応する直線的な形が特徴。
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4/5「D1」。オリジナルは1925年にペーター・ケラーがデザインしたアームチェア。最初のプロトタイプは赤いレザー貼りで、現在〈TECTA〉本社にあるミュージアムに収蔵。
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5/5「B42」。オリジナルは1920年、ミース・ファン・デル・ローエのデザイン。スチールパイプをこれ以上ないほどシンプルで優雅に曲げたフォルムに、ラタン編みの座面を組み合わせた。

日本でも認知度が高い〈バウハウス〉の、「形態は機能に従う」というモットーのもとに作られた家具。その正当な後継者として認められているのが〈TECTA〉だ。社会主義体制の東ドイツにおいて忘れ去られようとしていた名作家具に惚れ込んだ一人の男、アクセル・ブロッホイザーの数奇な物語と、美しく機能的な家具が生まれる制作現場の環境に〈TECTA〉のプロダクトの秘密があるようだ。まずはドイツ中部ローウェンホルデにある〈TECTA〉本社を訪ねてみよう。

いい環境がいい家具を生む

フランクフルトから車で約2時間。人口3,000人ほどの小さな町ローウェンホルデに〈TECTA〉本社がある。しかしそこを訪れても、家具メーカーの工場とオフィスがあるとは信じられないだろう。近隣に建物などがまったく見えない、見渡す限り林と草原が広がる中に、ミースのファンズワース邸を彷彿とさせる平べったい建物がたたずむ。それが〈TECTA〉のオフィスと工場だ。別棟にガラス張りのミュージアムがあり、〈バウハウス〉のオリジナルチェアをはじめ、ブロッホイザーが収集してきた様々なデザイナーの名作椅子を展示している。生産性や効率などとは無縁の、静謐で牧歌的ですらある環境で、美しく機能的な家具が一つ一つ手作りで制作されているのだ。
 

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1/11〈TECTA〉本社の外観。平屋の建物が草原にぽつんと建っている。
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2/11森の木々のあいまからガラス張りのオフィスが見える。
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3/11赤いグリッドが特徴的な「クラーグ・シュトゥール・ムゼウム」は、ブロッホイザーが蒐集した椅子とテーブルを展示している。設計は英国の建築家アリソン&ピーター・スミッソン。
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4/11ミュージアムにはジャン・プルーヴェの《スタンダード・チェア》やミースの《バルセロナ・チェア》など名作を数多く展示。「なぜ、私たちがミュージアムをつくるのか。最大の要因はモダニズムの本質が未だ正しく伝わっていない、という危惧にある。ここはモダニズムの考えを知るための教科書であり、伝える場所にしたいんだ」ーーアクセル・ブロッホイザー(『TECTA バウハウス、最後の目撃者』山田泰巨著)
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5/11ブロッホイザーの執務室。建築家ハンス・ケーネッケがデザインし、50年代に〈TECTA〉で量産されたデスクチェア《D49》を復刻し愛用している。
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6/11オフィス内のミーティングルームとは思えないほどの明るさと開放感。黄色い脚のテーブルは、ブロッホイザーの甥で事業を引き継ぐクリスチャン・ドレッシャーがドイツ人デザイナーのアンドレ・ヴァイザーと共に2013年に発表した《M36》。椅子はミースがデザインした《B42》。
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7/11すべてのプロダクトはゴミ1つ落ちていない整然とした空間で製造されている。
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8/11メタルワークの作業。
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9/11木工部門のアトリエ。
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10/11ミースの椅子《B42》のラタン編みも職人の手仕事による。
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11/11座面ファブリックのカットと縫製を担うアトリエ。

「いい環境でこそ、いい家具は作られる」という信念のもと、ブロッホイザーは周囲の敷地を買い占めて、会社からの眺望に目障りな建物が建てられないようにした。自然の中に身を置き、思索に集中することで、真に機能的で美しいデザインが生まれるということを、〈バウハウス〉を通じて学んだという。今年78歳になるブロッホイザーは今も毎日出社して、大きな窓から森を望む執務室で働いている。

現在は会長職となったブロッホイザー。大きな窓のある部屋で机に向かう。

亡命して叶えた〈バウハウス〉復刻家具の夢

アクセル・ブロッホイザーは1943年、東ドイツで生まれた。父は家具職人だった。もともと彫刻家志望だったが、26歳の時に《カンディンスキーのゆりかご》のスケッチを、読みあさった本の中にたまたま発見し、大いに感銘を受けた。この作品は〈バウハウス〉でカンディンスキーのもと学び、後に自身も教鞭をとったペーター・ケラーがデザインしたものだ。

26歳のブロッホイザー青年が初めて出会ったバウハウス家具が、この《カンディンスキーのゆりかご》だった。丸・三角・四角で構成された斬新なデザインに衝撃を受けた。

これをきっかけにブロッホイザーは〈バウハウス〉に興味を持ち、調べていくうちにその思想にのめり込んでいく。機能性とアートが完全に一体化したプロダクトを真似て、実家の家具工場で制作しようと試みたが、当時、社会主義体制化の東ドイツでは〈バウハウス〉は危険思想とみなされ、父が経営していた工場はなんと没収されてしまった。従業員は全員離散し、ブロッホイザーは父と叔父と共に西ドイツへ亡命。トランクひとつで命からがらたどり着いた新天地で、人生とビジネスをゼロから始めなければならなかったのだ。

紆余曲折の末、ブロッホイザー親子は1972年、たまたま売りに出されていた小さな家具会社を買い取ることになった。それがローウェンホルデにあった〈TECTA〉社で、名前をそのまま引き継ぎ、現在に至っている。拠点となる工場を持ったことで、ブロッホイザーは温めてきた自身の夢、バウハウス家具の復刻に着手した。

アクセル・ブロッホイザーが最初に取り組んだのが、ヴァルター・グロピウスの椅子《D51》だ。〈TECTA〉に資金援助をしてくれた靴型工場の片隅にあった椅子に一目惚れし、それがグロピウスのデザインであることを突き止めた。しかしグロピウスはすでに他界していたので、その妻に手紙を送り、この椅子を製造する許可を取り付けた。この件を皮切りに、復刻したい家具を見出しては、生存する〈バウハウス〉出身のマイスターたちに会いに行き、あるいは親族へ手紙を送り、復刻への思いを情熱を込めて訴え、次々と製造ライセンス許可を取得していった。

オフィスの廊下には、ブロッホイザー氏が集めた様々な家具のスケッチ画や模型、復刻製造の許可を記したデザイナーからの手紙などが飾られている。

まだインターネットはおろか通信手段も限られていた時代に、デザイナーやその親族の居場所をひとつひとつ調べて連絡をとることは、非常に骨の折れる作業だったに違いない。しかし困難をものともせず、家具の復刻に邁進するブロッホイザーは、その理由をこう述べている。

「私がバウハウスのデザインに見出した主義とは、理性的に導かれた優れた生産性が美しい機能と普遍性を生み出していること。だからこそ彼らの家具はアートであり、デザインであり、モダンでありつづける。今日性をこれだけもった家具は他にないんだ」(『TECTA バウハウス、最後の目撃者』山田泰巨著)

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1/2ブロッホイザーにとって初のバウハウス家具の復刻例となったのが、グロピウスがデザインした椅子《D51》。
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2/2のちに2人がけ、3人がけも製造。

もう一人の巨匠、ジャン・プルーヴェ

ブロッホイザーに、〈バウハウス〉と共に極めて重要な影響を及ぼしたもう一つの要素が、鉄工職人から立身し建築家・デザイナーとなったフランスの巨匠ジャン・プルーヴェだ。

ブロッホイザーは、ジャン・プルーヴェの書籍に残されていた製品化されていないアームチェアのスケッチをもとに、実際に試作品を制作。これをどうしても巨匠に見せたくなった彼は、なんとドイツからフランス・パリまで8時間車を飛ばして、アポなしの面会を果たした。言葉が通じずとも、実際に手を動かしものづくりに従事する二人は心の奥深いところで理解し合い、プルーヴェはアームチェアの製造を快諾、細かい技術面での助言を授けた。そのやりとりを経て、〈TECTA〉が特許を持つ「チューブ・アプラティ」という技術が開発された。「チューブ・アプラティ」とは、円管のスチールパイプを押しつぶして、正円の断面を歪めることで強度が高まるというものだ。これによって、強度が不十分で製品化が見送られていた〈バウハウス〉のキャンティレバーチェアの数々を製造することが可能になったのだ。

ミースがデザインしたキャンティ レバー構造のアームチェア「D42」。絶妙なS字を描くスチールパイプが弾むような座り心地を与えてくれる。

プルーヴェ・デザインの家具は残念ながら現在〈TECTA〉では製造されていないが、その精神を受け継いでいるのがロングセラーのテーブル《M21》だ。

テーブル《M21》。不定形な天板の形はジャン・プルーヴェのデザイン。

直線の一辺と、異なる弧を描く3つの曲線で囲まれた不定形の天板。この形はジャン・プルーヴェがスケッチに描いたものだが、脚部のデッサンは残されていなかった。そのためブロッホイザーがプルーヴェの自宅の暖炉のデザインをヒントに、脚部をデザインした。ガラス板を挟んで向かい合う板状の脚部には穴が開けられている。これはプルーヴェがデザインしたアルミニウム製のドアにあったものと同寸で、巨匠へのオマージュが込められている。

不定形なテーブルは座る人数を限定せず、テーブルを囲む者同士の視線をうまく逸らすような効果もあり、ダイニングテーブルとして日本でも人気がある。
 

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1/3《M21》テーブルを愛用する〈アクタス〉社員の自宅インテリア3例。部屋の中央に置くことも、壁付けして使うことも可能。
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サステナブルな世界に貢献する普遍的なデザイン

歴史に埋没しそうになった〈バウハウス〉の思想とデザインを掘り起こし、またジャン・プルーヴェの価値を正しく理解し、そのプロダクトを復刻させ現代によみがえらせた〈TECTA〉は、モダニズムを今日まで伝道した立役者ともいえるだろう。真に機能的で美しいデザインを追求し続けた男、ブロッホイザーの精神は、愛猫と一緒に住む彼の自宅にも如実に息づいている。森の中にガラスと木で作られた、魔女の館「ヘクソンハウス」のような住まいには、プルーヴェやシャルロット・ペリアンなどお気に入りの家具や、アイデアソースとなるアート作品が所狭しと飾られている。自然と共生し、人間的で豊かな居住空間を生きる人のスピリットが貫かれているからこそ、〈TECTA〉の家具は国境も時代も超えて、普遍的な魅力を放っているのだろう。

また、毎年新しいデザインを発表し続けることで需要を促し、無駄の多い消費を加速させてきた従来の経済活動のあり方とは対照的に、〈TECTA〉は1世紀近く経ってもなおデザインの古さを感じさせない製品を厳選し、提供し続けている。「デザインは経済活動のために使い捨てるものではない」というブロッホイザーの精神は、環境負荷を最小限に抑えたサステナブルな行動が求められる現代社会において、とても意義深いものとして心に迫る。
 

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1/4マルセル・ブロイヤーの《F40》でくつろぐブロッホイザー。壁面にはカラフルな引き戸のついたシャルロット・ペリアンとプルーヴェ共作のブックシェルフ。
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2/4ジグザグの木枠が特徴的なガラス窓の外には森が広がる。壁面や天井にも椅子やアート作品を飾るブロッホイザーのユニークなインテリア術。
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3/4森と一体化するような素材を用いた建築。折れ線の木枠の出窓がユニーク。
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4/4傾斜地の森に建てられた母屋と、空中通路でつながるツリーハウス。ブロッホイザーと長年交流のあった建築家アリソン&ピーター・スミッソン夫妻が20年の歳月をかけてゆっくり完成させた。

読者プレゼント

「バウハウス」のデザインスピリットを、家具の形を通じて継承しているドイツ・TECTA社。そのTECTAを今日まで育て上げた伝説のバウハウスラー、アクセル・ブロッホイザー社長と巨匠たちとの奇跡のコラボレーションや、今日まで作り続けられている名作家具が誕生した背景など、TECTAのエピソードがまとめられた一冊を先着50名様にプレゼント致します。ご希望の方は以下のURLよりご応募ください。
 
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