INNOVATIVE CITY FORUM 2020

哲学者 マルクス・ガブリエル教授に訊く、コロナ禍の時代をどう生きるか?——Innovative City Forum 2020 登壇決定(11/27)!

「20年後、私達はどのように生きるのか?」をテーマに、毎年世界中から多彩なスピーカーを招待し、都市の未来について多角的な議論を展開してきた国際会議「Innovative City Forum」。コロナ禍の今年は、哲学者のマルクス・ガブリエル教授らを交えて、オンラインで実施される予定です。そこで11月の議論に先立ち、斎藤幸平・大阪市立大学経済学研究科准教授を聞き手に、パンデミックの時代を生きる指針をめぐって、ガブリエル教授にお話をうかがいました。

interview by Kohei Saito
translation by Yuki Itai
photo by Yuri Manabe
Portrait © Photographer Christoph Hardt
of Future Image & Geisler.

マルクス・ガブリエル|Markus Gabriel ボン大学教授・哲学者/1980年生まれ。史上最年少の29歳で200年以上の伝統を誇るボン大学の正教授に就任。ポストモダニズム以降の「新実在論(new realism)」の旗手として注目される。2013年に刊行された『なぜ世界は存在しないのか(原題:Why the World Does Not Exist)』は、哲学書としては異例の世界的ベストセラーとなった。

——コロナ禍の際に、哲学というのはどのように役立つのでしょうか? ロックダウンの時あなたが読んだ哲学書は何でしたか?

ガブリエル 哲学は、私たちが物事をどう考えるかの枠組みを提示します。個人レベルや制度の中でどんな行動をとるかは、その人の思考の表出であり、体現されたものなのです。考え方が間違っていたり、物の見方が誤った方向に導かれていたりすると、行動も見当違いのものになります。

今日の状況において、哲学はラディカルで新たな国境を超えた連帯を築く役割を担うことができると考えています。科学、経済、政治、さらには文化といった複雑なシステムが相互作用し協力することで、新たな人間社会を見いだすことができるでしょう。物質的な富の獲得を人生の目的と考えるネオリベラリズムは、歴史的な出来事によって反証されました。

今回のパンデミックは、すべての大陸のあらゆる人が同じ難題を突きつけられるという点で、人類史上初めての出来事だと言えます。パンデミック・ショックという目に見えない横断幕のもと、人々は連帯し、そのことが人間は理性的な動物であるという認識を問い直すことになるかもしれません。そのプロセスにおいて、哲学が必要となるのです。

ロックダウン(都市封鎖)の間に、『Moral Progress in Dark Times(訳者訳:苦悩の時代の道徳的進歩)』を上梓しました。読んだ本の中で強く印象に残っているのは、サステイナブルな農業技術に長けたコロンビアの先住民コギ族について書かれた、ルーカス・バックホルツの著書です。私は、地球上にある様々な地方文化を同期させ、グローバルでコスモポリタンな人類像を見出す必要があると考えています。アジアの多様な伝統はもちろん、アフリカも含めてです。
 

 

——ニュースやSNSを見ていても、政府、専門家や医師たちの見解がバラバラで何を信じていいのか、素人にはわかりません。信頼にたる情報はどうやって手に入れられるのでしょうか?

ガブリエル 現時点におけるSNSのあり方はむしろ問題を悪化させていて、解決の手立てにはなっていません。コロナ禍の中、何人かの衛生の専門家、政治家、経済学者と定期的に話をしていますが、彼らの話を聞くほどに、ウィルスに関する流言がいかに危険であるかを実感しています。

端的にいうと、TwitterをはじめとするSNSは早急に、理性的で科学的な議論が助長される別のプラットフォームに取って代わられる必要があります。専門家ではないユーザーが、現在のメジャーなSNSにおいて、パンデミックに関する虚偽情報と正しい情報を見分けるのは不可能です。そのことが、陰謀説や極左派や極右派の急進化を生じさせています。その事実に対して、SNS企業は責任を持つべきだと思います。
 

 
——パンデミックのせいで帰省もできないし、家族や友達とも会えない。大学はずっとオンラインで、孤独だという声もあります。科学者たちは、パンデミックを抑えるためには、それが必要だといいます。科学者に従って、耐え忍ぶのが倫理的な生き方なのでしょうか?

ガブリエル 人々を孤立させ、オンラインでの活動のみを強制するのは間違っています。もちろん、ウィルスの拡散を抑制するために、責任ある行動をとる必要があることは言うまでもありません。ウィルスを野放しにするのは危険すぎます。一方で、倫理的な選択には、なるべく早くデジタルではない現実環境で会うことができるように、社会を再構築することや学校を再編することなどが含まれます。

コロナウィルスが、ポリオや根絶された他の病原菌のように、いつの日かなくなるとは考えない方がいいでしょう。HIVや未だに終わりのない他のパンデミック同様、共存していくしかないのです。学校のオンライン授業を長期化させるのは、無責任すぎます。オンラインで本質的な学びをサステイナブルに行うには、無理があるからです。

※初出=プリント版 2020年10月1日号

 

斎藤幸平|Kohei Saito
大阪市立大学大学院経済学研究科准教授/1987年生まれ。『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』でカール・マルクス研究界最高峰の賞、ドイッチャー記念賞を日本人初・歴代最年少で受賞。編著にマルクス・ガブリエル教授らとの対談集『未来への大分岐』など。

INNOVATIVE CITY FORUM 2020|パンデミックとイノベーティブシティ 期間 11月16日(月)~ 27日(金)——今年の ICFは、2週にわたり今起きている変化の先にある「ポスト・コロナの時代の都市の在り方やライフスタイル」について、アート・サイエンス・ソーシャルなど多様な視点から議論をします。オンラインで議論に参加も頂けます。マルクス・ガブリエル教授は最終日 11/27(金)に登壇予定です。