SOU FUJIMOTO

圧巻の個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」@森美術館(7/2〜)を体験しよう|❷ 解説編

建築家・藤本壮介の初の大規模個展が開幕した。前回の「❶予習編」に続き、実際の展示会場を巡ってのリポートです。

PHOTO BY MIE MORIMOTO
TEXT BY MARI MATSUBARA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO

模型の森をさまよう

最初の展示室「思考の森」では1,000個を超える模型や図面、アイディアの断片が展示され、来場者を圧倒する。これらは藤本がこれまで手がけてきた100以上のプロジェクトに関係するものだ。完成形ばかりでなく、アイディアソースとなったオブジェや中途段階の模型、バリエーション違いなども含まれ、それぞれのプロジェクトで藤本がどのように思考を醸成させていったのかが垣間見られる。中にはつぶれたペットボトルや、ナイロンスポンジ、マッチ箱を積み上げたものなども展示され、手近な日用品さえも建築のヒントになっていることが分かる。

藤本壮介|Sou Fujimoto 1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立。個人住宅から大学、商業施設、複合施設、ホテルまで世界各地でさまざまなプロジェクトを展開。2025年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める。2014年にフランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞のほか、世界各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。最初の展示室「思考の森」にて。高低差のある展示台に置かれたり、天井から吊り下げられた模型の間を縫うように歩いて回れる。子どもの目線でも発見がありそう。

1つのプロジェクトの完成に至るまで、いくつもの試作を重ねていることがわかる。

《(仮称)海島》の模型。瀬戸内海に浮かぶ新しい船舶の提案で、現在進行中のプロジェクト。船そのものを一つの島と捉え、緑や地形を備えた移動する環境として設計するという画期的なアイディア。

藤本 あまりに数が多いので、なんとなく3つの系譜に分けています。「たくさんのたくさん」は多数の部分が集まって一つの建築を構成するタイプ。「ひらかれ かこわれ」は「❶ 予習編」でお話したように、閉じている円環が外部に開かれている建築群です。「未分化」は空間の用途や性質が曖昧なものや、家具と建築が区分されていないようなタイプの建築です。もちろん、1つの建築が2つや3つの系譜に当てはまることもあります。

ぐしゃりとつぶれたペットボトルの形状さえも、建築のヒントに。

中東のプロジェクトの試案。無数のグリッドとアーチで構成された空間。長さ約1㎞、高さ100m以上の都市施設を設計した。

本と本、人と人、空間と家具のあわい(間)を楽しむ

唯一、窓があって東京の街並みを見下ろす展示室は「あわいの図書室」と題されたブックラウンジだ。40脚の椅子の背に1冊ずつの本が挿してあり、来場者が自由に座って読むことができる。

藤本 展示室のどこかに本を読める空間が欲しいと思っていました。椅子はいろんな方向に向いていて、腰かけると隣の人と向き合ったり、背中合わせになったりする。これも「森」のメタファーになっています。選書はブック・ディレクターの幅允孝さんが「森 自然と都市」「混沌と秩序」などいくつかのテーマを掲げて選んでくださいました。

「あわいの図書室」。椅子の背に1冊ずつ本が置かれ、自由に取り出して読める。

話題の「大屋根リング」5分の1模型を体感

手前が模型の上に人の動きをプロジェクションした展示。奥に《大屋根リング》の5分の1模型が。

「ゆらめきの森」のセクションでは、《UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店》や《エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター》(フランス、サクレー)など、特に人々の往来が建築に面白さを与えている例を選び、その模型の上に人の動きのアニメーションを投影した展示になっている。その背後には次のセクション「開かれた円環」の、2025年大阪・関西万博《大屋根リング》の5分の1模型が控えている。

藤本 《大屋根リング》の5分の1模型は一部、来場者が通り抜けられるようになっています。通り抜けた先の壁には、3〜4カ月かけて描いた無数のスケッチを展示しています。そのほか図面や工事中の写真なども展示してあるので、完成までの軌跡を感じていただけると思います。

2025年大阪・関西万博《大屋根リング》5分の1模型。

数限りないスタディを重ねたことがわかる、藤本による《大屋根リング》や万博会場全体のスケッチ。

工事中の写真や図面も展示。

建築を擬人化したぬいぐるみたちがおしゃべり談義?!

ぬいぐるみの「大屋根リング」!

藤本建築を擬人化したぬいぐるみがしゃべる!? ある意味、この展覧会の最もアバンギャルドな展示がセクション6「ぬいぐるみたちの森のざわめき」だ。「大屋根リング」、「ブダペスト」(《ハンガリー音楽の家》2021)、「白井屋ホテル」(2020)、「スーク・ミラージュ」(《スーク・ミラージュ/光の粒子》2013構想)、「深圳博物館」(《深圳博物館新館(深圳改革開放展覧館)2025-進行中》)などの名札をつけた可愛いぬいぐるみたちがテーブルを囲んで座り、からだを揺らしながらたわいもない内容のおしゃべりを展開。ときどき建築にまつわる深い発言をしたりする。おしゃべりはかなり長いのだが、思わず聞き入ってしまう。

藤本 実は、うちの事務所の所員さんでぬいぐるみ作りが上手な人がいまして、その人が全部作ったんです。おしゃべりのシナリオもチームで考えました。発言しているぬいぐるみにスポットが当たり、話す内容は日本語と英語でテーブルの上に映し出されます。結構、好評みたいです(笑)

からだを揺すりながらしゃべる様子がかわいい! 冗談も言います。

左)ぬいぐるみの「モンペリエ」は、フランス・モンペリエの集合住宅《ラルブル・ブラン(白い樹)》を擬人化。右)《ラルブル・ブラン(白い樹)》2019年 フランス、モンペリエ 撮影:イワン・バーン

左)「太宰府」は《太宰府天満宮 仮殿》を擬人化。頭が木々でモリモリ。右)《太宰府天満宮 仮殿》2023年 福岡 撮影:前田 景

ぬいぐるみたちのゆる〜いおしゃべりの後ろに、藤本が学生時代からずっと描き続けているスケッチの展示がある。約140冊ものノートに気になった言葉や文章、アイディア、建築のデッサンなどを書き留めたもので、こちらも必見。

現在進行中の音楽ホール兼震災メモリアル《仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設》(2031年竣工予定 / 2024年提案版)15分の1模型。

未来の都市は球体?!

《未来の森 原初の森──共鳴都市2025》の模型。壁2面に投影されたCG動画で、未来都市の暮らしの様子を体感できる。

最後のセクションは「未来の森 原初の森──共鳴都市2025」。ここではデータサイエンティストの宮田裕章とのコラボレーションで、架空の未来都市像を提案している。空中移動が可能になり、自然エネルギーによる暮らしが実現し、ARやAIが進化した時代に、大小様々な球体状の構造体が組み合わさった未来都市を構想している。

藤本 「❶ 予告編」でお話しした通り、これまでは平面の床の積層をエレベーターでつないだ超高層ビルなど、近代建築を当たり前のように受け入れてきましたが、その先の建築を考えなければならない時が来ていると思います。垂直・水平のグリッドによる街づくりなどは人間活動を類型化・標準化し、それゆえに社会が硬直化したともいえます。従来の幾何学グリッドから有機的なグリッドへ、さらにそれが細胞分裂のようにつながっていくイメージで仮想したのが《共鳴都市2025》です。

《未来の森 原初の森──共鳴都市2025》スタディ模型(Arupと藤本壮介建築設計事務所による構造形態の検討)。垂直・水平のグリッドが有機的に変容し、球体となり、内側にヴォイドを内包し……という藤本の「脱・幾何学グリッド」の構想をパネルで図示。

将来的には書籍にまとめる予定の論文の一部も公開。

藤本 未来を大真面目に語ることって、なんだか恥ずかしいとか、馬鹿馬鹿しいと捉える世間の風潮がありますよね。万博自体も時代遅れだと言う声もありました。でも、より良い未来を夢想することって実は大事なんじゃないかな。閉塞感のある時代だからこそ、文句ばかり言っているのではなく、多くの人が未来を自分なりに想像し始めたら、面白いことが起きるのではないかと思います。批判よりは創造のほうがはるかに面白いんですから。展覧会をご覧になった方には、ぜひポジティブにチャレンジすることをメッセージとして伝えたいですね。

「❶ 予習編」はこちらより!

「藤本壮介の建築:原初・未来・森」


会期=開催中〜11月9日(日)会期中無休
開館時間=10:00〜22:00(火のみ17:00まで)
※ ※ただし8月27日(水)は17:00まで、9月23日(火・祝)は22:00まで(最終入館は閉館時間の30分前まで)
会場=森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
お問い合わせ=050-5541-8600(ハローダイヤル)