


麻布台ヒルズでは、全体のランドスケープや植栽のプラン、低層部の建築や大屋根からキオスクまで、多岐に渡るデザインを手掛けるトーマス・ヘザウィック。その型破りな発想は、彼のスタジオがあるロンドンに点在する作品からも見ることができる。排気筒、キオスク、2階建バス、橋、ショッピングセンター、そして建設中のグーグル本社ビルまで。そこに共通するのは機能、構造、フォルムを合体させた独自のスタイルであり、また、街を活性化を目指す姿勢だ。ロンドンに行くなら、ここで紹介するヘザウィック作品を巡ってみたい。
TEXT BY Megumi Yamashita
PHOTO BY Yuki Sugiura
illustration (MAP) by Hattaro Shinano
illustration by Geoff McFetridge

★地図内に相番打つ(竹内作業中)
❶ 機能と構造を彫刻的フォルムに合体


パトノスター・ヴェント|Paternoster Vents(2002)
彫刻を兼ねた地下にある変電所換気設備の排気筒。セントポール大聖堂のそば、金融街の真ん中にあるパトノスター・スクエアの再開発時に設置されたもの。そのフォルムから「エンジェルズ・ウィング」の異名を持つ。当初、地上に設置される予定だった給気用設備を地下に移すことで設備の縮小化を実現。それによって2本の彫刻的な排気塔の設置が可能になった。高さは各11メートルあり、フォルムは学生時代にA4用紙を細かく三角状に折って作った作品がベースに。こちらは63枚の二等辺三角形のスチール板を溶接して製作されたもので、骨組みなどはなく、これだけで自立する構造になっている。
——Paternoster Lane, London EC4M 7BQ
❷ クルンと丸まる! 演技派のブリッジ

Photo by Steve Speller

Photo by Steve Speller
ローリング・ブリッジ|Rolling Bridge(2004)
パディントンの運河に沿った再開発エリアにある跳ね橋。全長12メートルという短い橋だが、船が停泊する時など、必要に応じてにクルンと丸まるというデザイン。三角のスチール製フレームが8つ連なった構造で、デッキの部分はウッド製。油圧によってゆっくりと端の方から持ち上がり、次第に八角形にくるりと丸まっていくというもの。映画『ジュラシック・パーク』のアニマトロニクス恐竜にインスパイアされたとのことで、橋は命を宿しているかのようにゆっくりと開閉する。とはいえ、実際には丸まる必然性はほぼなく、プレースメイキングのための動く彫刻といった作品だ。現在、橋の「パフォーマンス」は、金曜の正午に定期的に行われている。橋の状態だと見逃しやすいので要注意。
——Merchant Square, London W21AS
❸ 30メートルに及ぶ、巨大なガラス工芸

Photo: Left by Steve Speller / Right by Norbert Schoerner
ブライギーセン|Bleigiessen(2005)
医学研究支援団体の本部ロビーにある巨大彫刻。〈ウェルカム・トラスト〉本部ビルの30メートルあるロビーのアトリウムに設置された作品。15万個の丸いガラス玉に2,700本のワイヤーを通したものが、上から吊られている。「ブライギーセン」とはドイツ語圏で行われる新年占いのことで、スプーンの上で溶かした鉛を水の中に落とし、固まった鉛の形で占うというもの。アトリウムの下に水盤があり、全体のフォルムはこれと同じ手法で製作した鉛のミニ彫刻。わずか5センチほどのものを3Dスキャンし、拡大したものになる。ガラス玉には特殊フィルムが仕込まれており、光を反射してさまざまな色に光る。全英ビーズ協会創設者でビーズ専門家であるヘザウィックの母へのトリビュートとも言える、言わば巨大なビーズ工芸だ。一般には公開されていないが、ガラス越しにチラリと見える。ツアーがあることも。
——Wellcome Trust 215 Euston Road London WC1E 6BP
❹ ワイヤー編み上げた、病院のファサード


ガイズ・ホスピタル|Guy’s Hospital(2007)
ロンドンブリッジ駅の横にある病院エントランス部の改善プロジェクト。1970年代に建てられた〈ガイズ・ホスピタル〉は度重なる改装で元通用口が正面口となっており、使い勝手も見た目も悪かった。そこで歩道の拡張など全体の見直しのほか、エントランス横にあるボイラー設備の「目隠し」としてメッシュ状のパネルを設置。低予算で効果的に外観を改善した。108枚あるモデュラー式のパネルのフレームは1辺が2.5メートル。立体的に波打ったフレームに、スチールワイヤーを編んだテープでバスケット状に編み上げたものになる。ボイラー設備の通気もよく、必要に応じて取り外しもできる。夜のライトアップも波状パネルに表情を与え、正面エントランスの目印にもなっている。
——Great Maze Pond London SE1 9RT
❺ 機能もデザインもいい、街角のキオスク


ペーパーハウス|Paperhouse(2009)
区からの依頼でデザインした街角のキオスク。景観にも映える街中のキオスクをと、ケンジントン・チェルシー区からの発注で製作。従来のキオスクは開店準備に小一時間掛かるところを、10分で準備ができるようにと各所に工夫が凝らされている。雑誌などをディスプレイする階段状の棚はそのまま外観のデザインに反映。シャッターならず外側のシェルのようなカーブした引き戸を開閉す%
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