ROLAND BERGER: CREATING NEW VALUE

コンサルティングファーム「ローランド・ベルガー」が人と人の繋がりから、異業種と共創する新しい価値

ローランド・ベルガーは、1967年にドイツで設立された大手グローバル経営戦略コンサルティングファーム。日本のオフィスは1991年にアジア初のローランド・ベルガーオフィスとして設立。以来30年以上にわたり日本企業や外資系企業の変革支援の実績を持つ、勢いのある会社だ。企業理念に根付く多様な個性・文化・価値の尊重をしながら将来への課題を克服し、「新しい価値」を模索していくという。ローランド・ベルガー日本オフィス代表の大橋譲が、TOKYO NODEにて蜷川実花展やPerfume展のクリエイティブディレクターを担当した桑名 功に興味を持ち、対談することに。異文化かと思いきや、垣根を越えての「新しい価値」論に終始した。

PHOTO BY MASANORI KANESHITA
TEXT BY YOSHINAO YAMADA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO

2024年2月に虎ノ門ヒルズ ステーションタワーに移転したローランド・ベルガーのオフィス。働き手もゲストも自然と会話がうまれる空間となっている。

こちらはTOKYO NODE LABのオフィススペース。共創の場としてさまざまな企業のワーカーやクリエイターなどが訪れる。

——対談の前にそれぞれのオフィスを訪問されましたが、感想を教えてください。

桑名 まず自己紹介をしますと、僕は虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの施設〈TOKYO NODE〉にて展覧会などの企画を担当しています。企画を立ち上げ、さまざまなクリエイターと制作し、事業化する仕事です。僕自身が森ビルに入社したのは2023年10月と最近ですが、以前から蜷川実花さんとともに、クリエイティブチーム、アーティストチームとして活動をしていました。2023年に開催された「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」では、アーティストとしての立場と森ビルの立場の両面から関わっています。今年は「Perfume Disco-Graphy 25年の軌跡と奇跡」を終え、いまは次の企画の準備を進めています。ローランド・ベルガーのオフィスにお邪魔し、事業内容やスケールに違いがありながら、共創を背景に開かれた場所を作ろうという意識が共通しているように感じました。思想の根底にある部分が同じなのかもしれません。

大橋 桑名さんの働くTOKYO NODE LABはアートやデザインの現場にいる方々の仕事場であるという先入観をいい意味で裏切られました。おっしゃる通り、我々はこの虎ノ門ヒルズ ステーションタワーでの新しいオフィスのあり方として、お客様へより高い価値を提供するために優れたコラボレーションが起こる場を目指しました。お話を伺って、我々はお客様の経営支援が仕事ですが、提供価値の表現という意味で違いはないと気づきました。

大橋 譲|Yuzuru Ohashi ローランド・ベルガー日本オフィス代表取締役。カリフォルニア大学サンディエゴ校情報工学部卒業。外資IT企業を経てローランド・ベルガーに参画。製造業、ハイテク、石油、化学、IT企業など幅広い業種で、企業改革や事業再生、クロスボーダーを伴う成長戦略や企業買収の検討・統合など多くの支援実績を有する。

桑名 功|Isao Kuwana 森ビル 新領域事業部 TOKYO NODE運営室。2023年森ビル入社。2023年の「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」、2024年「Perfume Disco-Graphy 25年の軌跡と奇跡」のクリエイティブディレクションを担当。デザイン、設計、製作の橋渡し役として多くのクリエイターから信頼をおかれる。

——両者ともに開放的なオフィスですが、ローランド・ベルガーはコンフィデンシャルな情報管理が求められる面もあるかと。

大橋 今回、私たちは開放的な空間と機密性を守る空間という二つの真逆な性向を持つ空間で、全社員が業務に応じて選べる環境を追求しました。プロフェッショナルファームの特性上、閉じられた空間で限られたメンバーのみで情報を共有してお客様を支援する必要があります。他方、ローランド・ベルガーの特徴のひとつに「繋がり」があり、それは絶対に譲れないポイントでもあったのです。世界には多くの経営コンサルティングファームがありますが、私たちは共創することを重視する企業だと自負しています。たとえば他社と大きく違うのは、ドイツ・ミュンヘンの本社と世界各国のオフィスの間で、本社が絶対という上下関係はなく、みなで繋がり、ともに価値を提供していくスタイルのファームです。私はいま代表職にありますが、経営陣はいわゆる文鎮構造で、私だけがわずかに取っ手の分だけ飛び出している程度。スタッフ間の関係も役職ありきではありません。役職ごとに責任の重さには段階がありますが、極めてフラットです。役職や役割を超えて手を取り合い、いろいろなことを議論し合いながら価値を作る。だからこそ、やはり歓談スペースに留まらない仕事をするためのオープンな空間が必要でした。空間づくりに加え、社内システムの刷新、就業規則の改訂もしながら、完全フリーシート、フルフレックス勤務、完全裁量リモート勤務を導入し、全席にPC・モニター使用体制を完備することで、真に人主体の流動的な働き方を可能にできたと思います。プロフェッショナルファームでここまで徹底して職場を作り変えたファームはまだ少ないのではないでしょうか。

ローランド・ベルガーのエントランス。この壁の向こうはオープンな空間として社内外のミーティングや日常業務の場となっている。

テーブルの四隅にアールを取り入れるなど、緊張感を伴う業務だからこそ、わずかなデザインからも空間の居心地の良さに配慮されている。

桑名 TOKYO NODE LABは、さまざまな分野の企業やクリエイターとの共創の場です。テクノロジー、サービス、アート、エンターテインメントなどの既存の領域に捉われない「新しい都市体験」を創出することを目的に空間構成を考えました。ローランド・ベルガーのオフィスも、そんな「繋がり」を意識したオフィスなのですね。

人との対話が、新しい表現の価値を磨く

——クリエイティブにおいて重視されるものはなんでしょう。

桑名 僕はクリエイティブディレクターの役割として、前職では何かしら課題に対し、どのようなソリューションを提供するのかを仕事としていました。たとえば自動車メーカーのマツダとは、モーターショー、広島本社のミュージアムなどに携わりました。ミュージアムでは、マツダの歴代の社員を長期にわたってインタビューをするなど、寄り添いながら幅広く仕事をしました。僕がこれまで重要視してきたのは、話を聞くことです。実現したいことを深掘りするのに多くの時間をかけたい。企業であればなおのこと、誰がなぜ、それを言い始めたのかを掘り下げて考えていくことが必要です。表層的な言葉にない要素を見つけ、それを掘り下げながら仮説を立て、質問でさらに掘り下げる。根本的なテーマ、言語化されてない問題を探し出すことを重視します。また、制作では身体性を伴う体験的なクリエーションを重視しています。視覚情報だけでなく、実際に身体で情報を取り込むと記憶に強く刻まれるものですから。

大橋 我々にも似たところがあります。私がよく例えに出すのが、プロフェッショナルという言葉の語源。これはラテン語の「professus(プロフェス)」を基にしており、「pro=前に」「fessus=言う」という言葉に分けることができます。つまり、先に言うという意味があり、誰よりも一歩先を行くということに本分があると言えます。私たち経営コンサルタントがプロフェッショナルを極めるのであれば、やはりお客様が見たことも考えたこともない次の手を実現できるように、考え続けていかなければなりません。アートのクリエイティブとは違うかもしれませんが、私にとってこれは非常にクリエイティブな活動です。

ローランド・ベルガーのオフィスには大きな江戸時代の扉が。日本オフィスの創業時、“日本市場への扉を拓く存在”として飾られて以来、今も日本と海外市場を繋ぐファームの意義を象徴し続けている。

——クライアントの潜在的なニーズはどのように引き出すのでしょう。

大橋 岡本太郎は「芸術は爆発だ」と言いましたが、なにかを生み出すのに方程式はなく、爆発するような熱量をもって考え続けることが唯一のできることだと思います。我々はそれを一人で実現するのではなく、さまざまな交流から新しい発想を生み出します。ですから議論が必要ですし、そのための場所として開かれた場をオフィスに設けました。議論を密にするほど、爆発に近づける。私は、そこから必ず一歩先が生まれると信じています。そして方程式から外れた方との交流こそ非常に重要です。

オープンエリアでは、打ち合わせテーブルは壁で隔てるのではなく、五感の一部だけ例えばカーテンで仕切るなど、「コミュニケーションの漏れ」を残している。

桑名 少し違った視点からの回答ですが、物を作るとき、何かを考えるとき、僕にとってもっとも根源的な欲求は人を喜ばせたいということ。ここでいう人とは誰か。新しいという言葉は、誰の目線からの新しさかを留意しなければなりません。新旧というのであれば、それは誰の視点であるかを深く考えることが大切です。その人を取り巻く環境を知ることで、考えを広げられる。なにか面白い表現をするにも、人を見極めることで飛距離を測れます。テクノロジーは特に顕著ですが、新しすぎると人に受け入れてもらえない。社会に馴染ませる時間が必要なことも多く、具体的な実装のステップを図るためにも、基準となる誰かをイメージします。その繰り返しでプロジェクトを進めますが、僕もさまざまな人と対話を重ね、チームビルディングとともにプロジェクトを進めます。

大橋 一歩先に新しくと思いますが、同時にまったく新しくなくてもいい。桑名さんのいう「人」とは、我々にとってはお客様である「経営者」。多くの経営者はいろいろなことをやって、いまがあるわけです。しかしそれでも、その発想はなかったということがある。その発想自体がこの世になかったというだけではなく、我々の支援があって、お客様が一歩踏み出せなかったところを踏み出した。そこに本質があるのではないでしょうか。桑名さんが携わられたお仕事を拝見し、体験としての新しさがある。それこそ一歩先を考えての表現でしょう。

オフィス内にはSOLSOによるグリーンを採用。ビル内ながら緑と近く、ウェルビーイングを尊重した環境で仕事に向かえる。

桑名 ここでいう新しさとは、体験であり、視点だと思っています。クリエイティブディレクターの立場上、僕自身が絵を描くこともあるのですが、どちらかというといろいろな人たちと一緒に絵を作る立場にあります。ですからチームビルディングが大前提にある。先ほど大橋さんがお話されたことにとても共感したのは、蜷川実花さん、宮田裕章さんとともに作った展覧会において、彼らがまさに文鎮構造のつまみにあたるということ。わたしたちはチームとして、さまざまなプロフェッショナルとチームを編成して展覧会を構成することに意味を見出していました。その後もこのチームでのプロジェクトでは内容によってチームが編成され、幅広い表現を可能にしている。これからはよりチームビルディングが重要になっていくだろうと感じています。

大橋 同様に、時代とともに経営コンサルティングのあり方も変化しています。経営に役立つ調査機関と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは前時代的な考え。いまは企業と併走していく存在として私たちがあります。かつての日本には世界をリードする企業も少なくありませんでしたが、いまは企業体質の更新がうまくできておらずに困っている会社が多い印象です。たとえば近年よく見るDXやAIなども、実は自社経営の全体中でどのように位置付ければいいかわからないと悩んでいる企業がたくさんあります。経営の本質的な課題に対して価値を生んでいなければいけません。そのためには、新規事業、企業買収、企業変革といった経営判断から、戦略を実行していくにあたり社員が日々の業務で抱える課題の克服まで、導入することやプログラムの実行がゴールではないからこそ、やるべきことは多岐にわたり、私たちもいっしょにチームとして併走します。組織として成果を上げるためには、最終的に人と人のお付き合いですから、社内のそれぞれの人々が納得感をもって新しいことに取り組んでいる状態になっている必要があります。

左から大橋さん、桑名さん。異なる分野ながら、互いの共通点で話が盛り上がった。

相手のストーリーを共有することで、領域を超えた共創が生まれていく

——クライアントとどのように長い関係性を構築するのでしょう。

大橋 実はそこも我々は共通しているように思います。桑名さんがご一緒されていたマツダは、自動車のわくわく感を実現するために社員全員が一丸となって会社を運営している。つまりマツダが考える物語をしっかり社員と共有できています。先ほどもチームにおけるクリエーションという話がありましたが、それはパズルの1ピースだけを見るのではなく、完成図を共有することに意味がある。ただその共有こそ非常に難しく、隅々まで伝わるかはわからない。ですから私たちは企業とともにストーリーを磨き、お客様の社内外に伝えることを重要な経営業務のひとつとして捉えています。

桑名 これは国内外問わずですが、ビジネスディナーで大抵の人は強い熱量で仕事の話をします。僕はある企業とのプロジェクトの際、その熱量を展示しましょうと話しました。展示ブースではパーツの一部を作る職人さんに自慢をしてもらい、そこを訪れるとブランド自体を好きになる。僕はクリエイティブの長い関係を作るときに、相手のことをとことん知ることを大切にします。効率が悪くても、インプットに長い時間を使う努力を怠ってはいけないと思います。

大橋 短期的に効率が悪いと感じても、結果としてやはり長いお付き合いになり、一体感を得られますね。

桑名 大橋さんのおっしゃるように、第三者として距離感があるままで無邪気なことは言えません。彼らが抱えている課題に当事者の気持ちで向き合う。僕の場合はコンサルティングよりもはるかにライトな課題ではありますが、ただクライアントが大切にしているブランドを次の時代に残していくためには同じ視点で向き合う必要がありますね。

大橋 先ほど企業や経営のストーリーの重要性をお話ししましたが、同時に言葉や数字の羅列だけではなにも伝わりません。私たちもまたチームとして一丸になって、お客様に信頼頂かないといけない。お客様の不安、漠然とした目標などを経営コンサルタントとして見える化し、実現のためにできることをすべてやる必要があります。経営コンサルティングだから、アート、建築、デザインではないのだと切り分けるのではなく、むしろそういうクリエイターとの共創でこれまでにない実現の手法や新しい発想が生まれるかもしれない。そういう取り組みは、今後もっと考えていきたいと思っています。

桑名 そのお話には大賛成です。まさにこれからは「越境」や互いへのリスペクトが重要な時代になるでしょう。それぞれの領域ではないところに踏み込み、やれることの意識を広げることも一つのやり方だと思います。相手のプロフェッショナルをしっかり尊敬しながら、自分たちの領域も超えていく。この気持ちの繋がりが異業種を繋ぐ一番大事なポイントだと思います。

TOKYO NODE LABを訪れた大橋さんを案内する桑名さん。可変性の高い空間に魅力を感じると大橋さんはいう。

——それぞれのオフィスはスタッフからどのように受け止められていますか。

大橋 実はローランド・ベルガー日本オフィスは設立して今回が初めてのオフィス移転。新しいオフィスのコンセプトは社内でも評判がいいです。毎月の職場サーベイで、移転後はワークライフへの満足度が大きく向上しました。同時に、今までの働き方を変えるという側面もありますので、慣れないという声があるのも確かです。我々は常にいろいろな議論を重ねていくのですが、別で動いているプロジェクトのメンバーと交流を重ねることでいい結果を生み出すこともあるように思います。この交流を活発にしていくことは我々の課題と言えるでしょうか。私含め経営陣も全員自室は廃止し、固定メンバーとの固定の働き方が存在しなくなったことで、すでに日々のあらゆる場面で新しい考え方や視点が取り込まれるようになったと思っています。

桑名 僕たちは共創のパートナーと空間をシェアしていますが、いまはみなが開かれていることにずいぶんと慣れてきたように感じます。いろいろな会社の人たちが、いろいろなコミュニティを作り、仕事を超えた付き合いも生まれています。一方でエンジニアも多く、集中するために個の時間を必要とすることが多いことは予想外でした。こうしたことはコミュニケーションを重ねながら運用をしていく必要がありそうです。

大橋 私たちのスタッフもキュービクルな空間はうまく使いますが、開いた空間にはもっともっと可能性があるだろうという印象もあります。新しいオフィスに入居した日から、私はすでにいくつもの次にやりたいことが思い浮かんでいます。普遍的な価値は大切にしながら、現状に満足せず、次のチャレンジを考えていく姿勢は大切にしたい。オフィスも働き方も、次なるチャレンジは続けていかねばなりません。

Roland Berger|ローランド・ベルガー

ヨーロッパ発祥の唯一のグローバル経営戦略コンサルティングファーム。クライアントが本質的に成長できる変革を支援する。住所=東京都港区虎ノ門2-6-1 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 35階問い合わせ=03-4564-6660