特集麻布台ヒルズ

Heatherwick Studio

〈麻布台ヒルズ〉の波打つ独特なデザインはいかに実現したのか?

〈麻布台ヒルズ〉の低層棟の設計とランドスケープデザインを担ったイギリスの〈ヘザウィック・スタジオ〉。その代表トーマス・ヘザウィックと、グループ・リーダーのニール・ハバードが2023年3月に来日した。なぜ、グリッドが波打つような独特の建造物を提案したのか、彼らの思いを建設中の現場を視察しながらインタビュー。また前代未聞の形状を実現化させるための挑戦と忍耐の裏話を、「協力事務所」の一つである〈山下設計〉の仲田康雄氏に伺った。

TEXT BY Mari Matsubara
PHOTO BY Kenshu Shintsubo
illustration by Geoff McFetridge

麻布台ヒルズの建設現場に立つトーマス・ヘザウィック。

〈麻布台ヒルズ〉は大まかに説明すると3棟の超高層タワーと低層部、それらをつなぐランドスケープで構成されている。このうち低層部とランドスケープのデザインを担当したのが〈ヘザウィック・スタジオ〉だ。超高層棟は64階建が2棟と53階建が1棟、最高330mの高さを誇るのに対し、C街区と呼ばれる低層部は最も高い場所で8階建・41mとなっている。

INTO THE CONSTRUCTION SITE|工事現場の中へ

ふつう超高層ビルの足元には人々を街区から招き入れる基壇のような建物“ポディウム”を連結させ、その中に商業施設や広場などを集結させる。これが、高層ビル建築における一般的な常套手段だ。ところが〈ヘザウィック・スタジオ〉はこれにNOを突きつける。四角い箱である“ポディウム”の上に超高層ビルを乗っけたところで、結局はストリートを歩く人々の目の前に“ポディウム”の無機質な壁が見えるだけではないか、そんなのはつまらない!と……。

これまでにもあっと驚くようなアイデアで、世界各地の街や共同住宅や複合施設を人間らしい感情に訴える、自然と共存する建物にコンバートしてきた彼らが、その思想をどのように〈麻布台ヒルズ〉に落とし込んだのか? 実際に工事現場を歩きながら、じっくり話を聞いた。

——地表レベルから工事現場の中の階段を降りてきましたが、ここはどこですか?!

ハバード ここは地下鉄・神谷町駅と地下で接続する、〈麻布台ヒルズ〉のいくつかのゲイトウェイの一つです。改札を抜けると広場になっていて、ここからエスカレーターで地上へと上がっていく。駅の利用客が初めて〈麻布台ヒルズ〉と出逢う場所です。そして、まさに僕たちが腰掛けているこの部分が、低層部全体に広がっていくグニャグニャとした格子状のフレーム(以下、ネットフレーム)の起点なんです。

ヘザウィック ここに植えた一粒の種から植物が芽を出し、四方八方に枝葉を伸ばして巨大化し、ついには麻布台ヒルズ全体を覆うように繁茂する、そんなイメージです。だからここが麻布台ヒルズの“オリジン”なのですよ。

Non-podium|脱ポディウムを目指して

——低層部の独特な形、つまりネットフレーム状の屋根をたわめたり、波打たせたりしたようなデザインは、どのような考えから編み出されたのですか?

ハバード 〈麻布台ヒルズ〉の3つの超高層ビルの下に単純な四角いポディウムを作るのではなく、ビルとビルを結びつけるストーリーが欲しいと考えました。桜田通り沿いにある再開発エリアのゲートから奥の高層ビルエリアにたどり着くまでのアプローチを、歩きがいのある、発見に満ちたものにするということです。そのため、建物は道路に対して直角ではなく、少し角度をつけて配置しています。そのことで、そこにいる人がもうすでに中へ招き入れられるような気持ちを抱くと思います。

ネットフレームが高い場所から地表付近へと波打つような形状は、奥に控える高層ビルと地面レベルをなだらかに結びつける役目を果たしています。また谷のように高低差のある元々の土地の形状と相乗効果も生んでいます。森ビルといえば「ヒルズ」ですが、これは「ヴァレー(谷)プロジェクトだね」と冗談を言っていたんですよ。

左) トーマス・ヘザウィック|Thomas Heatherwick イギリス・ロンドン出身。1994年に「ヘザウィック・スタジオ」を設立。建築・都市計画・プロダクトデザイン・インテリアの分野で活躍。2023年3月〜6月には森美術館・東京シティービューにて「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」が開催された。 右) ニール・ハバード|Neil Hubbard 2005年「ヘザウィック・スタジオ」に入社。香港の商業施設「パシフィック・プレイス」やロンドンの新型バス「ルートマスター」など数々の案件で革新的なデザインを提供、重要な役割を果たした。現在、同スタジオのパートナー兼グループリーダー。

ヘザウィック 当初は従来型のショッピングモール的な考え方、つまり中庭を核として四方に通路と商業施設が広がるというアイデアもあったのですが、森ビルは当初から「ビルを建てるというより、人々が歩き回る街区を作る」という明確なビジョンを持っていました。そこに共感を覚えました。“ポディウム”は、いろんなものを押し除けてただ人々を中に引き込めばいいというだけの発想と結びつきがちでした。しかし現在ではパブリックスペースに関心を寄せることが重要であると認識され始めています。ビルは街やストリートから何かを奪取するばかりではなく、何を寄与できるか、を考えなければなりません。

Street-first|ストリートが大事

ヘザウィック これまで長い間、インテリアに多くの関心が寄せられる時代が続いてきましたが、しかし本来、アウトサイドにも同じぐらいの注意を払うべきだと思うのです。内側は凝っていても、外観はひどくのっぺりとして無表情すぎるビルが多かった。しかし外の世界はもっと面白く、人々を惹きつけるものであるべきだと思います。なぜならパブリックスペースやストリートはみんなのものだからです。“ポディウム”や“街並み”は、それ単体で収益の上がるものではないので軽視されてきました。街並みのデザインなんて、どうでもいいと思われていたのです。でも、私自身が住みたい、行ってみたいと思う街は、豊かな人もそうでない人も平等に受け入れる街です。だから、“ストリート・ファースト”で考えました。〈麻布台ヒルズ〉にはオフィスがあり、レジデンスがあり、ホテルやショップ、レストラン、ミュージアム、スパ、学校、お寺まであります。いろんな機能の建物が集まった複雑で面白い場所ですよね。だからこそ、通り抜ける間にいろんな発見があるような場所にしたかったのです。

——〈ヘザウィック・スタジオ〉の思想を、今回のプロジェクトに落とし込むにあたって、どのような作業が必要でしたか?

ハバード 大事なのは「東京らしさ」をどう解釈するか、ということでした。マンハッタンはとにかく高層ビルばかり。ロンドンは密集した低層部からビルが立ち上がっていくイメージ。パリは低く抑えた水平線に2、3の高層ビルが立っています。これらの三都市に比べると東京の街並みはとてもユニークです。古いものと新しいもの、高層ビルと低層の住宅や商店がごちゃ混ぜに存在しており、横から見ると心電図のようにアップ&ダウンを繰り返しています。起伏の激しい土地であることも一つの原因ですが。この東京らしい街並みの特徴を今回のプロジェクトに取り入れてみようと思いました。高層ビルの足元にありがちなポディウムを小さく分解して、それぞれのスケールを変えて並べ、様々な高さのビルが組み合わさった“ミニシティ”みたいに見えるようにしたのです。

Complexity|入り組んだ街並み

ヘザウィック 「旧市街と新市街、どっちが好きですか?」と尋ねると、どの国でも人々の答えは同じです。「古い街区の方が好き」だと。なぜ旧市街が愛されるのかと言うと、複雑に入り組んでいるからです。曲がりくねった路地があり、大小の建物が軒を連ね、角を曲がるごとに視覚的な発見がある。立ち止まったり、振り返ったり、後戻りして面白いものが見つかるでしょう。しかし20世紀全般のモダニズム建築は、この“複雑性”が充分に足りていなかったと思います。論理的で合理的でシンプルであろうとする思想が、複雑性を失わせてしまったのです。充分に複雑性が備わっていない環境にいると、人間は感情を失くしてしまうそうです。これは私の個人的な意見ではなく、科学的なリサーチで明らかになっています。

だからここでも、格子状の斜めの壁面やてっぺんに木々が生い茂る、小高い丘のような建物を見ながら、一歩進むごとに発見があるような街にしようと考えました。私たちは影を作り、触れたくなるようなテクスチャーの素材を選びました。こうした要素が人々を居心地良くさせるのです。

Humanize|人間らしい街と建物

ヘザウィック 人々はみんな高層ビルのトップの部分だけを見て、ボトムにはあまり注目しないものです。しかし人々の感情はストリートレベルで発生するわけです。何千人もの人が日々行き交う下層部分にヴァリューを持たせるべきだし、そこにこそお金をかけるべきです。ビルの中にいる人間の数より、外を往来する人数の方が圧倒的に多いのですから。全世界の都市に言えることですが、旧市街以外の場所ではストリートが無視されています。

私たちのパッションは、カーブのある建物を作るとか、木を植えるとか、四角くないものを建てるとかそんな断片にあるのではなく、「人間らしいもの」を作るということにあります。街を、ビルを「ヒューマナイズ(人間化)」する、これは我々がつねに自分たちに問いかける命題でもありますし、今回のプロジェクトにも反映させています。

——「人間化する」ということを、もう少し詳しく説明してください。

ヘザウィック 1,000年前、人間が作る建造物はとても小さかったでしょう。しかし1,000年後の今、何もかもが巨大化しています。私たち人間のサイズはさして変わらないのに。左目と右目の間の距離も変わりませんし、呼吸のしかたや耳の聞こえかたも同じですよね。高層化によって密度をかせぐ一方で、地表に緑地面積を増やすにしても、そのプロセスにおいて人間的側面を失わないようにしたいのです。これまで私たちが過去のプロジェクトで行ってきた「人間化」の試みは、一部の人たちから「オーバーデザインだ」とか「コストがかかりすぎる」と言われましたが、私はそうは思いません。短期間にスクラップ&ビルトを繰り返すことのほうがずっと無駄遣いだと思います。効率優先であっという間に作り、壊されるものには人間性など宿りません。人々が愛着を持てない建物はすぐに取り壊されるのです。我々は、そこに集う人々の感情を沸き起こし、愛される建物や街並みを作るべきなのです。それが取り壊されず永く保たれる秘訣です。

——「人間化」には、ヘザウィックさんがよくおっしゃる「手触り感」の大切さも含まれるのではないかと思います。それはグリッドの外装素材にも表れているのでしょうか?

ハバード これはガラス繊維を入れて強化したコンクリートの中に様々な色の小さな石粒を混ぜ込み、洗い出し仕上げをしたものです。近くに寄ってみると、いろんな石のつぶつぶが見えるでしょう。〈ヘザウィック・スタジオ〉ではいつも素材のテクスチャーに注意を払っています。凸凹とした表面は、思わず触りたくなるような魅力に満ちています。

ヘザウィック 我々のロンドンのスタジオのコンクリート天井があまりにもフラットでつまらなかったので、あるときサンドブラストをかけたんです。そうしたらミューズリやグラノーラみたいなつぶつぶとしたテクスチャーになり、「あ、これいいね!」と喜んだのです。この時の印象を取り入れました。建造物の人間化という意味において、このグリッドとネットフレームの表面がナチュラルな石であり、石の色が視覚を喜ばせ、手で触れるとつぶつぶとした触わり心地も楽しいということはとても重要でした。

ハバード 石を混ぜたコンクリートは、経年変化によって必ずや味わいが増していくでしょう。そういう意味でもこの建物は1,000年先を見据えたサステナブルな建物なのです。竣工第1日目からキャラクターを持たせるように考えられています。雨が降って植栽の土が少し漏れ出たとしても、石入りのコンクリートならそれをうまく紛らせてくれるでしょう。これがフラットに磨かれたコンクリートなら、雨の跡が汚れのように目立って見栄えが良くないでしょうね。時間が経つごとにグリッドに植えられた木々はモジャモジャと生い茂り、低層部全体が丘のようになり、季節に応じて様相が変化していくでしょう。

ヘザウィック コンクリートに石を混ぜるなんてことに、普通のディベロッパーならお金をかけないでしょう。メタルの一枚板で仕上げる方が工法としてもずっと簡単ですし、圧倒的に安いコストで済みますから。しかし、私たちの提案を受け入れてくださった森ビルは勇敢なディベロッパーだと思います。たいていのプロジェクトでは効率と予算のためにイージーなやり方に流れがちですし、他国の施工者または業者なら「こんなの無理だ」と言って断るでしょう。人間の感覚に訴える石粒入りの外装グリッドが実現化できたのは、ひとえに森ビルとの強いパートナーシップの賜物であると思って感謝しています。と同時に、日本の技術者や職人の方々の技術力の高さ、忍耐強さ、難工事をなんとしても完遂するのだという誇り高い魂に感銘を受けました。

私たちはもう9年間、このプロジェクトに携わってきましたが、今日は完成しつつある建物を確認できた最高の一日になりました。ずっと心配が絶えなかったのですが、今日見たところ、かなり心配事項は減りました(笑)。私たちはもちろん、この建設に携わるエンジニアなど全ての人が心の中では「前例のないことに挑戦したい」と思っているはずです。非常に難しいけれど、完成したものはお子さんやお孫さんに自慢できるものになります。心のこもったものに人々は反応するのです。ですから、ここを建設するために払った努力、注ぎ込んだ技術、心配りに、この土地に代々住まわれてきた地権者の方たちや新しい居住者たち、ここを訪れる人たち皆さんが共感してくれるでしょう。

Realization|ヘザウィックの思想を実際の形にすること

左から、トーマス・へザウィック、仲田康雄、ニール・ハバード

ここからは〈ヘザウィック・スタジオ〉とプロジェクト発足時から綿密にやりとりを繰り返し、日本側で設計のサポートをした〈山下設計〉のシニアアーキテクトであり虎麻プロジェクト室長の仲田康雄氏に話を聞こう。

——これまで誰も見たことがない建造物を実現化するにあたって、どんなご苦労があったのでしょうか?

仲田 単純な四角いビルを造るのであれば、どこを切り取っても切断面は同じ形をしています。ところが〈ヘザウィック・スタジオ〉の設計は7.2mグリッドに立つ柱の上にグニャグニャとしたネットフレームが覆いかぶさる形です。すると、柱とネットフレーム、床の関係が切断面を少し移動するだけで全く変わってしまうのです。例えば、防水をどう納めるかは建築にとって非常に重要なことなのですが、ある部分で通用していたやり方が、そのすぐ隣では全く通用しなくなります。つまり、7.2m四方のグリッド1つ1つに対して通常の何倍もの労力をかけて検討を進めなければなりませんでした。1つのグリッドが解決すると、やっと次のグリッドへ進むことができ、新たな条件のもとで解決案を模索する。どこかでエラーが出たら、また一からやり直し。こんな地道な作業が延々と続く、そんな3年間でした。

——パースや模型をご覧になった時、どんな思いでしたか?

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1/3ネットフレーム(鉄骨建方 - C1街区東側) 写真提供:山下設計
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2/3ネットフレーム(配筋 - C1街区東側) 写真提供:山下設計
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3/3ネットフレーム(コンクリート打設) 写真提供:山下設計

仲田 日本ではまだ少ないですが、世界に目を向ければ有機的な形状の建築物は数多くありますので、技術的には解決できるだろうと楽観的に考えていました。神谷町駅と接続する広場部分のネットフレームに〈ヘザウィック・スタジオ〉によるデザインの特徴が最も現れているのですが、建物内外の形状が同じで、一枚の薄い板状になっています。この中に構造や設備等を内包するためには、施工者を巻き込んで根気よく調整を行うしかないと覚悟したことを思い出します。

DIFFICULTY|難工事の連続

——施工に関しても相当なご苦労があったのではないですか?

仲田 あのグニャグニャの形状を構成する鉄骨とそれを覆うGRC(ガラス繊維補強コンクリート)は、一つとして同じ形がないのです。ジョイント部分も一つ一つ角度や形状が違います。まずそれらを施工者と共有し、誤差なく製造するだけでも大変な労力を要します。同時にそのGRCをどのように鉄骨に留めつけるかをあらかじめ検討しておかなければなりません。その部分は構造担当者と施工者、鉄骨やGRCメーカーが一丸となり2年にわたりずっと考え続けてきました。

ネットフレーム(鉄骨詳細) 写真提供:山下設計

——同じ形のパーツが一つもないとは驚きました。まるで精巧な工芸品を作るような作業が、この大規模なスケールで行われたのですね。

仲田 しかし最も難しかったのは、ネットフレームやグリッド状の柱と地面との接点でした。というのも、建物を上から見ると、グリッド自体はわりと整然と並んでいるように見えますよね? しかし実際には敷地に1/15程度の勾配があります。傾斜のある地面の上に、ひらひらとした布がかぶさっているような状態ですから、地面とうまく接地させるのは施工上も非常に難しかったのではないでしょうか。

GRC(取付用鉄骨ピース) 写真提供:山下設計

でも、こうして建物がだんだん出来上がってきて、実際に歩いてみると図面上では想像していなかった風景に出会い、毎回新鮮な驚きがあります。そこはヘザウィックさんたちがまさに狙っていたことなのでしょう。

——ネットフレームの外装は、従来のビルにはあまり見ない独特の仕上げですね。これについてご説明いただけますか?

仲田 GRCの中に直径8〜12ミリの玉石を入れて「洗い出し仕上げ」をほどこしています。コンクリートが完全に乾ききる前にホースで水をかけてブラシでこすることで、表層部分を洗い流し、石を露出させる仕上です。この仕上自体は別段新しいものではありませんが、GRCの洗い出しというのは実例が非常に少ないと思います。

——この外装のテクスチャーは、ヘザウィック・スタジオからのリクエストだったのですか?

仲田 そうです。ヘザウィックさんは他のプロジェクトでも素材を非常に大切にされています。近くに寄った時のザラザラ感は彼らが求めたもので、その要求に合致したのが「洗い出し仕上げ」でした。

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1/5GRC(洗出仕上 - 種石採掘) 写真提供:山下設計
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2/5GRC(洗出仕上 - 種石採掘詳細1) 写真提供:山下設計
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3/5GRC(洗出仕上 - 種石ストックヤード(篩分け状況) 写真提供:山下設計
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4/5GRC(洗出仕上 - 種石ストックヤード(篩分け後) 写真提供:山下設計
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5/5GRC(洗出仕上 - 混ぜ合わせた種石) 写真提供:山下設計

中に入れる石には、中国の南京市で採れる4種の石を使っています。ベージュ系、茶色系、ブラック系、グレー系が混じっているのですが、採掘場所により微妙に石の色が違っています。GRCの色調がなるべく均質になるように現地メーカーと協議し、各所から採石したものを少しずつブレンドすることにしました。メーカーの努力もあり、C街区の中で色の差はほとんどないと思います。石の大きさがあまり大きいと経年劣化により脱落の恐れもありますし、小さすぎるとつぶつぶ感が出ず、遠くから見ると無地のペンキ仕上げに見えてしまいます。だいたい8〜12ミリが適しているという結論になりました。

——ヘザウィックさんは日本の職人や技術者の仕事のクオリティの高さに感銘を受けていたようですが。

仲田 実際に彼らの言葉を聞いたわけではありませんが、GRCを取り付ける際の施工管理には感心されていたのではないでしょうか。約2mの長さの複雑な形状のGRCパーツを鉄骨に取り付けるのは、相当の技術力がないとうまくいきません。

単純な形をしたビルであっても、カーテンウォール(建物の構造体である梁や柱に外壁や窓ガラスを張り架ける方法、またその外壁のこと)を取り付けるのはなかなかうまくいかないものです。しかし、今回はGRCの製作精度の高さや取付を行う職人達の技術力の高さにより、一つとして同じ形がない何千ものパーツが、ほとんどの場合、やり直しがなく一発で取り付けられたのです。最終形を見据え、設計者、施工者、メーカー各社が一丸となり、協力しあってより良いものを目指すという日本の技術者の姿勢にヘザウィックさんは感心しておられたのではないかと思います。

profile

仲田康雄|Yasuo Nakata
株式会社山下設計 シニアアーキテクト
テレビ朝日(六本木ヒルズ)・メディアコープ(シンガポール)・東京電機大学東京千住キャンパス/槇総合計画事務所、ねぶたの家 ワ・ラッセ/ディーディーティー、JWマリオットホテル奈良・砂防会館/山下設計などのプロジェクトを担当。現在は、設計本部 虎麻プロジェクト室 室長として、森ビルと協働し、麻布台ヒルズC街区の設計監理に従事。