EVERYONE CAN BE CREATIVE

異能のアーティスト・大西拓磨が語る「創作」への姿勢

東京藝術大学に主席で合格し半年で懲戒退学、4つの高域IQテストで世界記録を更新、現在は家をもたずに生活しながら孫正義財団に所属し活動を続けるアーティスト、大西拓磨。折り紙・絵画・建築・グラフィック・詩・インスタレーション・彫刻・パズル——「ギフテッド」と呼ばれるほどさまざまな領域の才能をもつ大西の素顔は、謎に包まれている。「惰性だけで生きている」と語る大西のインタビューからはしかし、自らを特権化せずすべての人に創作を開こうとする姿勢が見えてきた。

interview by Ou Sugiyama
Text by Shunta Ishigami
Photo by Kaori Nishida

創作は一番楽しい「暇つぶし」

——先日Media Ambition Tokyoで行われた大西さんと会田寅次郎さんと丹原健翔さんとのトークイベント、すごい才能が集結していて面白かったです。大西さんはIQコンテストで世界記録を4つも出したり東京藝大の建築科に主席で入っていきなり退学されたり、いい意味でめちゃくちゃな人だと感じるのですが、いまはどんな生活を送られているんでしょうか。

大西拓磨|Takuma Onishi 1999年横浜生まれ。東京藝大建築科中退後、生活保護、ホームレスを経て孫正義育英財団4期生。2019年、4つのハイレンジIQテストの世界記録を更新、NHKのドキュメンタリー「素顔のギフテッド」に出演。2020年、半生を綴ったネット記事「僕のしょうもない人生を紹介します」が170万PVを超える反響を呼び、TBS「林先生の初耳学」で林修と対談。日常的な文脈をハックする「いたずら」のような作品やパフォーマンスをはじめ、近年はWeb上で遊べる体験型コンテンツを自主制作している。おもな作品に、アート系IQパズル『欠片』、3Dなぞなぞ『SPACE』、フリーゲーム『テトリオ』など。

大西 いまはネカフェに住んでますね。渋谷の個室ビデオのようなところにこもってるんですが、友達の家に泊まることもあります。

——かなり自由な生活ですね。

大西 ぼくはものぐさで面倒くさがりなので、部屋を借りて定住するとそこから出られなくなってしまうんですよね。そして心も病んでしまう。中2くらいから引きこもっていたので、昔からそんな感じで。

——そもそもなぜ藝大に進学されたんですか?

大西 大学に入って学びたいことがあったわけでもなく、とりあえず大学に行くという流れのなかで自分は絵が描けるから美大に行こうかな、みたいな。美術の先生に勧められたんです。べつに計画していたわけではなかったんですよね。当時は自暴自棄でしたし……。

——絵は好きだったんですか?

大西 そんなに好きじゃなかったんですが、描けたので。コンクールで全国一位をとったので先生から目をつけられた感じです。

——いまのお話を聞いていると、けっこう冷めているというか。いま楽しいことってあるんですか?

大西 あんまりないですね。ぼくはほんとに惰性だけで生きてるんですよ。

——普段はどんな一日を過ごしてるんですか?

大西 ネカフェは毎日契約を更新しなきゃいけないので、まずは受付に行くために起きます。それがめっちゃ大事なんですよ。毎日起こしてくれるからネカフェにいるくらいです。

——Twitterを見てるとめちゃくちゃ面白いゲームをつくられたりしてますよね。あれはなぜ? 絵に限らず建築やプログラミングなど大西さんはいろいろな分野の才能をおもちですよね。

大西 自分ではどの分野も中途半端だなと思ってます。ゲームは暇だったので、独学でつくったんです。創作って一番楽しい暇つぶしだと思うんですよね。消費だけで満ち足りる人もいますが、ぼくは生産の方が好きで。消費は虚無感があるけど、生産は何かしている気分になれるから虚しさを感じないんです。

——どれもすごくて暇つぶしのレベルを超えてますよ(笑)。大西さんは根っからのアーティストなのだなと。アーティストってお金儲けとかのためではなく何かを生み出したい欲求があって表現するじゃないですか。

大西 表現したいことがあるわけでもないんですよ(笑)。寂しかったころは自己顕示欲があったんですが、いまはTwitterのフォロワーも増えて満たされてしまったので、最近は惰性になっている気がします。悔しさみたいなものもあまりなくなってしまって、悪い変化かもしれません。

網膜的な美しさではなく概念的な美しさ

——大西さんは高校や大学で校舎を舞台にいたずらとも受け取られそうなインスタレーション表現を行っていましたよね。学生のころは、人をびっくりさせたいような気持ちがあったんでしょうか。

大西 自己顕示欲ドリブンで動いていましたね。自分も世界に影響を与えなければと思っていました。

——これまでつくったもののなかで手応えのあったものはありましたか?

大西 TwitterのRT数でランク付けできるものでもないですし、わからないですね。バズった記事を書いたあとにリリースした、「SPACE」というウェブの謎解きみたいな作品は自分のなかで大きな作品をつくれた感覚がありました。最後まで消費しきるのにすごく労力がかかるので、あまりSNSでは伸びてないんですけど。ほんとにがんばってつくったし、ちゃんと美しいものになっていると思っています。

——物語も参加性もあって面白かったです。

大西 知らない方のために説明すると、「SPACE」はウェブ画面に表示される彫刻的・記号的な3Dオブジェクトが何を表しているのか英単語ひとつで答えるもので、全部で23問用意されています。じつは最後の23問目に8〜9割の時間をかけてつくっていて、伏線を回収するためにめちゃくちゃ心血を注いでいました。ビジュアルのような網膜的な美しさではなくて、アイデアの概念的な美しさを実現できた作品でした。

——最後でこれまでの問題を回収していたんですね。

大西 そこにたどり着くまでがけっこう難しいんですが、伏線が回収されて鳥肌が立ったと感想を書いていた人は多かったです。「お前は世の中の人をみんな馬鹿だと思っている」とか言われることもあるんですが、自分しかたどり着けないところにたどり着けたときは楽しくて。事前の知識もいらないですし、いろいろな人にやってもらいたいです。

——大西さんはビジュアルをつくる能力もすばらしいけど、コンセプトをつくったり世界の見え方を変えたりすることも得意ですよね。いま大西さんは孫正義財団に入られてますが、そこではどんな活動をされているんですか。あまり情報がオープンにされていないから、謎めいている印象があるんです。

大西 財団の施設が渋谷にあるんですが、そこに行くとご飯がタダで食べられるので、通ってますね。ネカフェで起きて、パソコンを持って財団のところに行くんですよ。ご飯を食べると目が覚めてくるのでコワーキングスペースのようなところに電源もあるしWiFiもあるので、最高の空間ですね。さっきの「SPACE」もそこでコーディングを行なっていました。

機能と見た目を両立させる

——大西さんは「ビジネス」に興味はないんですか?

大西 ないですね。お金を稼ぐことに何の興味もなくて。Twitterのフォロワーが5万人いるならパトロンを見つければいいとかインフルエンサー的な動きをすればお金を落としてくれる人がいるとか言われるんですが、めんどくさくてできてないんです。ぼくは自分のやりたいことしかできないんでしょうね。働こうとした時期もあったんですけど、ちょっとでも気に入らないことがあると嫌になってしまって……。

——お金そのものに興味がないんですか?

大西 そうですね。興味の幅がめちゃくちゃ狭いんだと思います。以前京都に1年住んでいたことがあったんですけど、街の違いもぜんぜんわからないし、お店とか商業施設にも興味がない。抽象的なことにしか興味がないのかもしれないです。

——大西さんは人からいろいろな見られ方をすると思うんですよね。IQがすごく高いことでも話題になりましたし。人からの見られ方について何か感じますか?

大西 ぼくは「ぼく」を20年くらいやっているので、これが普通なんですよね。頭がいいと言われてもその人はそう思うんだなというだけで、ぼく自身は自分が頭悪いなと思うことも多いですから。

——他人からの見られ方とズレがあって面白いですね。ぼくから見ると、数学的な脳も芸術的な脳ももっているように思えます。

大西 いやいや、数学も芸術もぼくはわからないですよ(笑)。ぼくは心を病んだときや切羽詰まったときはアーティストで、健康なときはデザイナーになるというか、基本的にはアーティストよりデザイナーに近いんだろうなと思っていますし。ある時点から網膜的なものをつくることに興味がなくなったんです。藝大の建築科を受けるために美術予備校で入試の対策をしたんですが、そのときに建築はきれいな絵を描くことが目的ではなく自分の思考や思考の表現が見られているのだなとわかって、面白いなと思うようになりました。建築ではいくつもの条件をアイデアによって解決することが求められますが、その考え方が自分にも合っているのだと気づいたんです。「SPACE」も見た目でつくったわけではなくて、自分が課した条件をぎりぎり満たすものをつくって最小限の美しさを実現しようとしたものでした。機能と見た目、どちらかに偏ってしまうのではなく噛み合っているのが美しい。世間を見るとどちらかのことが多くて。きれいな写真が配されているのに情報量がぜんぜんないサイトとか、逆に情報量はあるのに“ガワ”がしょぼいものばかりですよね。

——建築的な思考の到達点として「SPACE」ができたわけですね。

大西 パッと見は彫刻っぽいんですけど、それしかない形になっているんですよね。自分の心の赴くままにモデリングしたものではなく、必然性の塊としてつくられた形になっている。

創作は誰だってできるもの

——大西さんはいま22歳ですよね。これからどんな人間になりたいとか考えることはありますか? 大西さんからすれば、一番嫌な質問だとは思うんですけど(笑)

大西 嫌ではないですよ(笑)。ただ、昔から将来の夢とか聞かれるんですが、ぜんぜんないんですよね。だって将来何が起きるかわからないし、人間のキャリアの8割くらいは偶然からつくられると言うじゃないですか。積極的に偶発性を受け入れていくような、出会いを探していくほうが重要だと思っています。

——個人で作品をつくられる機会が多いと思うのですが、今後創作活動で共同作業をすることはないんですか?

大西 したいんですけど、性格的にたぶんできないですね。「SPACE」もエンジニアの子と一緒につくったのですが、途中から関係性が悪化してしまって……。自分のことは自分でこき使えるからいいんですが、他人に仕事を割り振るのがうまくないみたいで、やめたほうがいいなと思いました。わがままなんでしょうね。気になることがあると冷めてしまうし。ダメですよね。

——誰かとコラボレーションしてもらいたいですけどね。建築とかつくってほしいんですよ。

大西 マジで難しいですね。考えるのは寝ながらできるからいいんですけど、手を動かすのが面倒くさくなってしまう。財団の施設も工房ではないので専らプログラミングでウェブ作品ばかりつくってしまうんですよね。プログラミングを覚えたからパソコンだけでもある程度楽しめるようになってしまって、手を動かさなくなってきてるのはまずいですね。

——建築に関わることをしたい気持ちはないんですか?

大西 手を動かすことが苦手すぎるので、やりたいことはいろいろあるんですが、実際に行動する十分な体力がない気がします。ぼくの創作は全部適当にやってるんですよ。気づいたらできてると言うと天才っぽいですけど、自然の成り行きでそうなったとしか言えないです。

——大西さんはいろいろなことに興味がなさそうでしたが、一貫して創作活動にはやはり面白さを見出してることがわかって安心しました。

大西 みんな創作しようって言いたいですね。創作とか芸術とか言うと崇高で自分にはできないと思う人がいますけど、そんなわけがないんですよ。絵だって誰でも描ける。もちろんうまく描くには技術が必要ですが、写真みたいに描けばいいものじゃないし、描くこと自体は誰だってできるはず。自分の世界の見え方をモノに起こしていく作業はみんなやったほうがいいし、もっと一般化すればいいのになと思っています。
 

杉山 央|Ou Sugiyama
森ビル株式会社 新領域企画部。学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品サービス賞 最優秀賞等を受賞。 現在は、新領域企画部にて未来の豊かな都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO 理事。