XR WILL CHANGE OUR CITYSCAPE AND REALITY

XR表現の先端を走るKDDI下桐希が、都市に仕掛ける実験のゆくえ

5Gという高速ネットワークを活用しデジタルツイン環境の整備などデジタルとリアルの融合を進めるKDDI。そこでXRの開発を牽引する下桐希が、今夏世界初のXRファッションショーへ技術を提供した。通信環境のみならずスマートグラスなどデバイスの発展も進み続々と新たな表現生まれていくなかで、XRは都市の風景をも変えていく存在になるのかもしれない。果たして下桐は、都市を舞台にこの新たなテクノロジーをいかに活用しようと目論んでいるのだろうか。

interview by Ou Sugiyama
text by Syunta Ishigami
photo by Kaori Nishida

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1/4プレス発表会では、ボリュメトリック撮影コンテンツを背景にヴァイオリニストの服部百音氏が演奏を披露した。
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2/4本プロジェクトには、従来の「ファッションモデル」像に留まらない多様なモデルたちが参加した。
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3/4発表会の会場となったのは虎ノ門ヒルズ 森タワー アトリウム。映像も投影され、日が暮れるにつれ幻想的なムードも高まっていった。
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4/4来場者はその場でスマートフォンを使いながらこのプロジェクトの解説を受けるとともに、映像を楽しんだ。

世界初のXRファッションショーへ向けて

——今日はまず、先日KDDIさんがXR技術を提供されたファッションショー「ユニコーンファッションアワード」についてお話を伺いたいんです。このファッションショーはVR/AR/MRすべてを取り入れた世界初のXRファッションショーとして期待されていますが、なぜKDDIさんがファッションショーに参加されることになったのでしょうか。

下桐 コロナ禍によってこれまでと同じようにファッションショーを行うことが難しくなるなかで、XRやボリュメトリックビデオを使ったいままでにないファッションショーをミラノファッションウィークで行えないかと相談があったんです。ちょうどぼくたちがXRに取り組んでいたこともあり、その技術を活かせるのではないか、と。今回虎ノ門ヒルズで行なったイベントはモデルオーディションの日本予選で、ぼくたちは国内予選を勝ち抜いた20数名のモデルの方々を撮影し、最終審査としてボリュメトリックで鑑賞できるコンテンツをつくりました。ファッションショーは9月21日に行われるので、現在は本番に向けた最終選考が進んでいます。

下桐 希|Nozomu Shimogiri  KDDI株式会社 パーソナル事業本部 サービス統括本部5G・XRサービス企画開発部 事業開発マネージャー/2019年KDDI入社。5Gを活用したXR/AI領域の事業開発やアライアンス、組織作りを担当。前職では、大手IT企業にてB2B2C領域における、ポイント・電子マネーやデータ分析などの会員サービス事業の立上、グローバル企業提携によるAIを活用した訪日客向けサービス構築などを担当、また、共同出資によるEC事業開発や先端技術開発ベンチャーの創業など、20年以上に渡り、幅広く事業開発に従事。

——ぼくも実際に体験したんですが、現場でARグラスをかけるとまるでモデルさんがその場で歩いているような映像を見られて驚きました。これまでARというとCGなどコンピュータがつくった映像を観る印象がありましたが、3Dスキャンされた実写の人間が等身大で目の前に浮かび上がる体験が新鮮で。技術的には難しいものだったんでしょうか?

下桐 洋服の素材によってはうまく撮影できない懸念があったのですが、結果的にはほぼトラブルなく撮影を終えられました。普段ボリュメトリックビデオをつくるときは衣装を来た方を撮影することが多いのですが、今回はファッションショーですから肌の露出が多い人もいればシースルーの洋服を着た人もいる。さまざまな服装の方に対応できたことはわれわれとしても嬉しい発見でした。

——制作を通じて得られたものも多そうですね。

下桐 きちんとこの技術を使う意味が感じられたのは有意義でした。XRやボリュメトリックビデオを使うときって自由に視点を移動できるようにすることが多いのですが、その機能を活かせていないケースも多いんです。今回は視点を変えてモデルの背後に回り込めることでその人の雰囲気がよりわかりやすくなるし、写真には映らない角度からその人のことを捉えられる。実際に映像をつくっていくなかで、たしかにXRを使う意味があるプロジェクトだなと感じさせられました。

——今回森ビルは虎ノ門ヒルズを会場として提供させていただいたのですが、なぜ閉じた空間ではなく街の中でイベントを行なったのでしょうか?

下桐 森ビルさんの建物は場所自体がすでにいい雰囲気をもっているので、XRのコンテンツと周囲の環境がマッチするような絵をつくりたかったんです。実際に明るい時間帯から暗い時間帯まで、見え方が変わりつつも映えるコンテンツになって面白かったですね。
 

KDDI下桐希さんと虎ノ門ヒルズのもうひとつのARの試み

大きく変わろうとしている虎ノ門の街をARで体感しよう!
 
2014年に開業した「虎ノ門ヒルズ 森タワー」を皮切りに、2020年に「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」が開業。さらに2022年に「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」が、2023年には「(仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が完成する予定です。この4棟を中心に、「グローバルビジネスセンター」というコンセプトを実現するひとつの「街」が生まれます。虎ノ門ヒルズという街の完成イメージがあなたの手元にARで出現します。/企画・制作:KDDI・atali

  

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デジタルとリアルはどう融合するのか

——下桐さんはただ最先端の技術に取り組んでいるだけではなく、もともとご自身でVFXもつくられていてクリエイティブな表現を理解されているからこそより効果的な見せ方を考えられるんでしょうね。いまいらっしゃる部署では、XRを活用して新しい表現を開発されているんですよね?

下桐 そうですね。5Gが広がり始めたことによってXRのようにこれまでデータ容量が大きく普及しづらかったコンテンツを体験してもらいやすい状況になったため、5Gを活用したコンシューマ向けのコンテンツやUXを開発しています。

——5Gの普及やXRの進化によって、さらに表現の幅が広がっていくように感じました。ぼくら森ビルとしては街とテクノロジーがどう融合していくのか気になっているのですが、今後XRと街はどうつながっていくと思われますか?

下桐 ぼくらとしては、実際の街や建物をバーチャル空間にもっていく取り組みを先行させていて、その環境が整備されるとつぎのフェーズへ移っていくように思います。どこからでも街を体験できるようになった状態から、バーチャルじゃないとできないことをするのか、再びリアルに戻ってくるのか。いまはまだデジタルツインなどリアルな空間の再現に取り組んでいますが、これからバーチャルなコンテンツが発展していくことを考えるとワクワクしますね。

——リアルとデジタルが一体化すると、たとえば一人ひとりのユーザが自分だけの物語を体験できるなど、これまでとはまったく異なる体験が生まれてきそうです。

下桐 XRも最初はスマートフォンをかざして鑑賞するところから始まり、スマホでは腕がだるくなるのでスマートグラスが使われるようになった。スマホの普及率が上がったことで世の中が変わったように、スマートグラフが普及すると再び大きな変化が起きるはずです。いまはみんなスマホの四角い画面を見ていますが、これからは建物や机の上にモノが表示されるかもしれないし、画面が必要ならいくらでも目の前に表示させられる時代が来るでしょう。

——インターネットによってウェブサイトが、スマホによってアプリが増えていったように、環境が変わるとクリエイターやアーティストの表現の場所も広がりますよね。今後はスマートグラスならではのコンテンツが増えていくのかもしれません。

下桐 これまではスマホの描画性能しか使えませんでしたが、5Gを通じてクラウドレンダリングが可能になるとフォトリアルな映像などより高度な表現が増えていくでしょう。コンテンツの可能性はさらに広がっていくんじゃないでしょうか。

——下桐さんのチームはバーチャルヒューマンの研究も進められています。スマートグラスやXRが普及すると、バーチャルヒューマンの位置づけも変わるんでしょうか。

下桐 いろいろな考え方があると思いますが、たとえばナビゲーションやガイドの役割を担う可能性はありますね。ARがあれば説明書がなくても問題ないと考えられることもありますが、人間はわからないことがあると結局人間に相談するものだとも思うんです。十分な知識があり違和感なくコミュニケーションをとれるようなバーチャルヒューマンが実現すればかなり便利になりそうです。

表現の洗練が技術の可能性を広げる

——最先端のテクノロジーに日ごろから触れられている下桐さんですが、最近どんなものに注目されているんでしょうか。

下桐 KDDIも出資している「Mojo Vision」という企業はスマートコンタクトレンズをつくっているのですが、いろいろお話を伺っていると想像以上に技術が進んでいて驚かされました。商品化され市場投入するハードルはまだ高いのですが、これが普及すれば面白そうだなと。

——いよいよSFの世界ですね。世の中も変わっていきそうです。ただ他方で、VRやメタバースのように現実と切り離された世界が充実していくとリアルの空間が物足りなく思えてしまう気もします。リアルな世界の魅力ってなんなんでしょうか。

下桐 たしかにデジタルテクノロジーはどんどん発達していきますが、たとえばZ世代はアナログ回帰を強めているように、リアルなものの魅力が失われているわけではありません。個人的には、テクノロジーでなんでもできるようにするのではなく、制約が設けられている方が面白い気がしています。TiktokやTwitter、Snapchatなどを見ればわかるように、制約があることで表現も洗練されていく。日本の禅にも通ずるものがありますよね。

——俳句の5・7・5もそうですよね。なんでもありではなく、条件があるからこそ面白い、と。リアルな空間のもつ制約も面白さにつながっていくのかもしれません。

下桐 制限されるがゆえの面白さはなくならないでしょうし、むしろスキームとして秀逸になっていくような気がしています。

——他方で、視聴覚だけでなく五感へアプローチするテクノロジーも増えている気がします。触覚や味覚とテクノロジーの関わりはどう見られていますか?

下桐 いろいろな技術が出てきているものの、まだ感覚を再現するには至ってません。単に技術的に実現されるだけでなく、きちんと触覚や味覚を使う意味があるコンテンツが増えていくことで環境も変わっていきそうです。段階的にさまざまなコンテンツが増えていくことで、体験全体がリッチになっていくんじゃないでしょうか。

——表現のフィールドが広がっていくなかで、ぼく自身としては街で遊ぶ人が自らコンテンツをつくるような流れが生まれていくと面白いなと思っています。そういうふうに技術が解放されていく動きはどうすればつくれるでしょうか。

下桐 VPS(Visual Positioning Service)のように空間を認識できる技術を使って体験をつくっていけるようになると面白そうだなと。今回ファッションショーを行なったときも感じたのですが、ARコンテンツはそれを観る環境がよくなければ面白くならない。森ビルさんの施設と組み合わせていくことで、よりユーザを動かしていけるような体験がつくれるかもしれません。

——森ビルとしても、デジタルとリアルを融合させながらリアルな空間の価値を高めていきたいと思っています。ぼくらの施設を実験場としながら、これからも新たな挑戦に取り組めるといいですね。

下桐 ぜひお願いします!XRのような技術を考えるうえでも、やはり実験は重要です。アートのような表現を通じて技術は高められていくし、極限まで磨かれていくはず。アーティストの方々と一緒でなければ、XRの技術も磨かれていかないでしょう。同時に、ただすごい表現をめざすだけではビジネス上のインパクトは生まれにくいのも事実です。アーティストの方々とともに技術を磨きながらも、さまざまな企業とともにコラボレーションしながら世の中に送り込んでいくことでより多くの人にサービスを使ってもらえるような環境をつくっていきたいですね。
 

杉山 央|Ou Sugiyama
森ビル株式会社 新領域企画部。学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品サービス賞 最優秀賞等を受賞。 現在は、新領域企画部にて未来の豊かな都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO 理事。