NEW FORMAT OF THEATER TOWARD POST Covid-19 AGE

劇団ノーミーツ主宰・広屋佑規は、「演劇」でオンラインとオフラインを架橋する

緊急事態宣言下において旗揚げし「オンライン演劇」という新たなスタイルの可能性を追求する「劇団ノーミーツ」。同劇団主宰の広屋佑規は、まちなかで上演するミュージカルなど日常空間へエンタメをもちこむ取り組みをつづけてきた。リアルに価値を見出していたはずの広屋はなぜオンライン演劇へ挑戦したのか? 劇団ノーミーツの活動を通じて、オンラインかオフラインの二者択一ではないこれからのエンタメの可能性を考える。

interview by Ou Sugiyama
text by Shunta Ishigami
photo by Kaori Nishida

「オンライン演劇」という新たな興行の可能性

——広屋さん、このたびはACCのゴールド賞受賞[編注:劇団ノーミーツとしてACC TOKYO CREATIVITY AWARDSのクリエイティブイノベーション部門ACCゴールドを受賞]、おめでとうございます!

広屋 ありがとうございます。まさか本当に賞をいただけるなんてぜんぜん思ってなくて……。

——劇団ノーミーツさんが注目されていることの表れですよね。今日は、受賞のきっかけのひとつとなった作品『門外不出モラトリアム』についてまずはお聞きしたいんです。ぼく自身もあの作品を観て衝撃を受けたのですが、どのように生まれたものだったのかなと。

広屋 『門外不出モラトリアム』は、劇団ノーミーツ初の長編作品でした。そもそも劇団ノーミーツが旗揚げしたのは4月9日で、緊急事態宣言発令の2日後。新型コロナウイルスの渦中で旗揚げした劇団として、当初はZoomを使った短編作品をTwitter上で発信していました。そのなかにはかなりバズった作品もあり、コロナ禍でもテクノロジーを駆使すれば自宅から表現できることがわかってきて。つぎは何に挑戦するか考えたときに、演劇というからには生配信かつ有料で長編作品をつくってみよう、と。Twitterでたくさんの方に観ていただいてもマネタイズができなかったこともあり、継続的に作品をつくる仕組みをつくりたい気持ちもありました。

広屋佑規|Yuki Hiroya フルリモート劇団「劇団ノーミーツ」主宰、株式会社Meets代表、没入型ライブエンタメカンパニー「Out Of Theater」代表 /1991年生まれ。プロデューサー。浅草の街並みを舞台としたエンタメ観光バスツアー「サムライ&忍者サファリ」、高円寺全体を映画の世界に見立てた体験参加型イベント「ROLE PLAYING CINEMA」、お洒落なストリートを歩きながらミュージカル体験ができる「STREET THE MUSICAL」など、都市空間を活用したエンターテイメントのプロデュースに従事。コロナ禍で全ての仕事が中止となったなか、フルリモート劇団「劇団ノーミーツ」を旗揚げ。

——累計どれくらいの方が鑑賞されたんでしょうか? 演劇ってふつうは座席数が決まっていますが、オンラインだと制限がなくなりますよね。ふだん劇場に足を運ばない人も観ていたような印象を受けました。

広屋 むしろふだん演劇を観ない方がたくさん観てくださっていましたね。SNSを中心に活動していることもあり、エンタメ好きな20〜30代の方やIT、マーケティング、広告業界の方がまず反応してくださった。そこから徐々に演劇業界にも広まっていったのかなと。全部で約5,000人の方が観てくださったのは、ぼくらにとっても驚きでした。

——ぼくのまわりでも話題になって、どんどん観る人が増えていった気がします。

広屋 じつは初日までは1,000人だったのですが、公演期間中に口コミで広がって、4日間で4,000人増えたんです。これはオンライン演劇の強みで、キャパがないからこそ評価されたら際限なくお客さんを受け止められる。後ろのほうの席だとか舞台が遠くて見えないなんてこともないですし、どのキャストの表情もフラットに見える。興行としての可能性を感じましたし、ぼく自身、オンライン演劇の面白さに気づけた公演でした。

「ブーム」ではなく新たな「スタイル」

——初めての試みで苦労も多かったんじゃないでしょうか。

広屋 『門外不出モラトリアム』はすべてが大変でした(笑)。前例がないので正解がないし、手探りで進めるしかない。2分くらいの短編なら勢いでできる部分もありましたが、長編をつくるうえではZoomのラグを考慮しないと会話の間がおかしくなってしまって。ふつうの演劇とは異なる間を求められるので、演者側もかなり大変そうでした。それぞれの自宅から配信していたので、衣装チェンジもすべて自分でやらなければいけないわけですし。

——本当にみなさんのご自宅から配信されていたんですね! 昼の公演も夜の公演も時間帯を感じさせないつくりになっていて驚きました。

広屋 演者さんの自宅に照明機材を送っていて、夜でも昼でも同じ環境に見える照明を設計していました。Zoomの画角のなかでどうシーンを見せていくのか、絵作りの工夫も苦労した点のひとつです。

——一方で、クオリティが上がれば上がるほど、生配信ではなく事前に収録されている映像を観る体験と近づいてしまうというジレンマもありそうです。

広屋 まさにそういう反応も多かったです。こだわればこだわるほどドラマや映画に近づいてしまう懸念はありますね。やはり生配信の面白さはありますし、演劇であることの必然性や意味合いをもっと意識していかなければと思っています。『門外不出モラトリアム』ではチャットのコメントに演者さんが返答したりアドリブを入れたり、“生”感を出す努力はしていたのですが、あまり変わったことはできていなくて。そのつぎに上演した『むこうのくに』ではお客さんの投票によってセリフが変わる仕組みを導入したのですが、まだまだ足りないなと思っています。劇団ノーミーツはコロナ禍でもオンラインでさまざまな表現ができることを証明しましたが、アフターコロナにおいてもオンライン演劇というジャンルを残していけるのか挑戦したいですね。

——コロナ禍に立ち上がった新しい形式の演劇を、ブームではなく新しいスタイルとして定着させたい、と。

広屋 まだブームにすらなっていない気もしています。もっとマネする人が増えるかと思っていたんですが、意外と増えなくて(笑)。いま進めている全国学生オンライン演劇祭ではぼくらのつくり方をすべて公開していて、学生の子たちに作品を応募してもらえるようになっています。ぼくらはオンラインでも諦めずに表現の形を探ったことで、人とは会ってないけど会うより濃密な時間をつくれたわけで、この貴重な時間を学生の子たちにも味わってほしいんです。

日常空間にエンターテインメントを!

——広屋さんのこれまでの活動についてもお聞きしたくて。まちなかをミュージカルにしたり、レストランに演劇的な演出を入れたり、リアルの空間にエンターテインメントを入れるような活動をされていたと思うのですが、劇団ノーミーツはそういった活動の延長線上にあるのでしょうか。

広屋 延長線上にあるんだなと最近気づきました。もともとぼくは“三密”こそが好きだったので、オンラインでなにかつくろうとは思っていなかったんです。「Out Of Theater」という企画でも、役者の方が劇場以外で表現できる場をつくるために、数年前から半年に一度、500メートルの商店街をミュージカルの舞台にする作品を発表していました。ぼくはまちなかにエンタメがある状態や非日常的な景色が好きだったのですが、日本人はシャイだから恥ずかしがるし、街なかで何かすると炎上してしまうことも多く、新しいエンタメを提供できる仕組みはないのかずっと考えていて。まちなかにいっさい出られなくなったときに、Zoomが新しい表現の場になると気付いたというか。場所がリアルからオンラインになっただけで、やろうとしていることは変わらないのかもしれません。

——日常空間のなかにエンタメを置くという意味では、たしかにZoomもぼくらの日常空間になっていますよね。劇団ノーミーツは今後どう進化していくんでしょうか?

広屋 オンライン演劇という形式を使ってまだできていない挑戦がいくつもあるので、これからも引き続き挑戦したいことはあります。たとえば『問題不出モラトリアム』では博多から出演されている方もいましたし、場所の制約がないからこそ国境も越えられるかもしれないですよね。いまは喜ばしいことに世の中全体がリアルの側に戻っていきつつあるので、そのうえでオンラインの視聴体験の可能性を広げる必要もあるなと。来年はリアルとオンラインの組み合わせにも挑戦したいですし、ジャンルももっと広げていきたくて。オンライン演劇をもっと多くの人に楽しんでもらうために、劇団ノーミーツとして「オンライン劇場」も設立しようと思っています。

——え、「オンライン劇場」ですか!? いったいどういうものなんでしょう?

広屋 ぼくたちも「どういうものなんだろう」と思いながらつくっています(笑)。オンラインに劇場があるとはどういうことなのか、劇場の機能をオンライン化するとどうなるのか考えていて。まだ構想段階ですが、今後の自主公演はそのオンライン劇場で上演できたらと思っていて、ZoomのUIだけでなく舞台美術をカスタマイズできるような空間をつくりたいんです。オンライン演劇ってチケットサービスは増えましたがビジュアル自体は無機質なままじゃないですか。将来的にはほかの劇団にも公演を行なってもらえる場をつくれたらなと。

リアルとオンラインが共存する道

——すごく刺激的ですね。新しいプラットフォームをつくろうとされているわけですよね。

広屋 でも、ただのプラットフォームをつくりたいわけではないんです。本多劇場やシアタークリエをはじめ、劇場ってそれぞれが固有の文脈をもっているものですよね。上演できるならどこでもいいわけではないし、劇場自体が意味をもっている。劇場のもつ神聖な空気をオンラインに立ち上げられないか考えています。

——たしかに、劇場に行くときってその前からワクワクしますし、演劇を観るマインドセットに切り替わっていきますよね。ただZoomの画面を観るのではなく、これからオンライン劇場に観に行くんだという気持ちになれると面白そうです。

広屋 これまでの作品でも、開場から開演までの時間をつくったことで観劇の感覚が生まれたという反響がありました。リアルの舞台と同じような演出を入れることで、観劇体験をつくっていけるのかなと。ただ、ぼくらとしてもリアルの劇場をすべてなくしてオンラインへ移行すべきだと言いたいわけではありません。リアルの観劇のほうが緊張感や迫力はあるし、演劇を観る醍醐味もありますから。オンラインとオフラインが共存できる道を探っていきたいというか。だから既存の演劇業界の方々とも協力していきたいんです。

——ぜひ広屋さんにはリアルとデジタルが融合したものをつくってほしいですね。いまはイマーシブシアターのように新たな形式も増えていますから。

広屋 そうですね。イマーシブシアターについてはぼく自身ずっと関心があります。リアルとオンラインの共存を探るべくこの前も実験的な企画をつくってみたのですが、単純に作品をふたつつくるのと同じ労力がかかるので、考えなければいけないことも多いなと実感しました。もっとも、ふたつを同時に上演するのではなくリアル/オンラインのつづきをオンライン/リアルで見せていくこともできると思いますし、やり方はいろいろありそうです。ライブ表現って音楽の領域ではどんどん新たなものが生まれている一方で演劇ではあまり挑戦が進んでいないので、演劇としてのライブ体験をどう更新できるのかこれからも考えていきたいと思っています。
 

対談後の、広屋さん関連の動き

・対談の中で触れられたオンライン劇場『ZA』が完成!

・その『ZA』にて、劇団ノーミーツ第三回長編公演「それでも笑えれば」が12月26日(土)〜30日(水)まで生配信上演されます。
 

杉山 央|Ou Sugiyama
森ビル株式会社 新領域企画部。学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品サービス賞 最優秀賞等を受賞。 現在は、新領域企画部にて未来の豊かな都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO 理事。