DIGITAL CREATIVE as COMMUNICATION

バスキュール代表・朴正義が、人類史に残る“記念日”を宇宙でつくろうとする理由

インターネット黎明期よりデジタルクリエイティブのトップを走りつづけてきたクリエイティブカンパニー「バスキュール」。今年で20周年を迎えた同社は、ウェブから始まってスマートフォン、テレビと表現の領域を広げ、現在は「宇宙」へ飛び出しつつある。「次の世代に残るものをつくりたい」と語るバスキュール代表・朴正義はなぜ宇宙を目指すのか? 同社の20年を振り返りながら、次なるクリエイティブのかたちについて考える。

Interview by Ou Sugiyama
Text by Shunta Ishigami
Photo by Kaori Nishida

デジタルクリエイティブの勃興

——まずはバスキュール20周年、おめでとうございます! 20年間デジタルクリエイティブのトップを走りつづけているのはすごいですよね。ぼくがバスキュールを知ったタイミングは相当早かったと思うんですが、当時から一番オシャレなウェブサイトをつくる会社だなと思っていました。

 ありがとうございます。FLASHを使ったウェブに力を入れていたのは十数年前くらいでしょうか……いま当時のサイトを開いてみたんですが、重いですね。いまだに重いってすごくないですか?(笑)

——ハハハ、でもいま見ても面白いですよ。

 バスキュールを始める前にはポリゴン・ピクチュアズというCGの会社にいたんですが、当時はCG用のマシンて高価だったし作業も時間かかるし、ぼくみたいな若手は何もできなかったんですよね。でも1999年ころから徐々にインターネットが広がってきて、じゃあネットを使えばいいじゃんと思ったんです。

——ウェブを発表の場として捉えたわけだ。

 当時のウェブってカタログを24時間いつでも見られるとか紙媒体の置き換えとして考えられてたんですけど、ぼくは最初からコンテンツをつくりたかったのでスタートが違ったかも知れません。その結果、ありがたいことに広告賞もいただけていろいろなプロジェクトにアサインされるようになり、2010年くらいまではウェブのクリエイティブが非常に盛り上がっていたように思います。ただ、2009年にiPhoneが発売されてヤバいなと思ったんです。もうみんなウェブサイトなんて見なくなるから、これまでのようなリッチなウェブ広告は成り立たなくなるなと。

朴正義|Masayoshi Boku 1967年、東京生まれ。立教大学卒業。2000年にバスキュールを設立し、広告企画制作、サービス開発、空間演出など、メディアやフォーマットにとらわれないアイデアで、これまでに国内外のクリエイティブ賞を数多く受賞。2020年にはクリエイション活動の領域を宇宙に広げ、国際宇宙ステーションにスタジオを開設し、世界初のライブ双方向配信「KIBO宇宙放送局」の開局を予定している。

——iPhoneの登場でルールが変わってしまったというか。

 だから新しいことをしなくちゃいけないと思って。もともと広告をつくりたかったというより新しいコンテンツをつくりたかったので、テレビ業界に挑戦したんです。スマートフォンの小さい画面で見たことのない圧倒的なクリエイティブを表現するのは本質的じゃないと思ったので、スマホを機能と割り切ってコントローラーにしたら新しいテレビの楽しみ方が見つけられるんじゃないかと。当時はテレビなんて「オワコン」と言われていましたけどね(笑)

——たしかにテレビってインターネット以降は「過去のメディア」とされていますが、ネットとくっつけるという発想は面白いですね。

 ネットの本質は異なるものをつなげることですから。ぼくらの仕事は「つなげること」だと解釈し、これまでつながっていなかったもの同士をつなげて、これまでにないスケールや解像度での双方向コミュニケーションを生み出すことがインタラクティブクリエイションの最先端だと再定義するようになりました。そういった意味で、テレビはまだつながっていない未開の地で、とんでもないスケールのインタラクションを生み出せるぞと考えたんです。

テレビは“オワコン”なんかじゃない

——ネットからテレビへ移ると仕事のやり方も変わると思うんですが、いかがでしたか?

 テレビってみんな基本的にリモコンで操作するので、スマホの普及が十分でなかった当時は「スマホを持っていない人はどうするんだ」とめちゃくちゃ言われましたね(笑)。試行錯誤する手前で、そもそもストップがかけられていました。

——普通はスマホと連携させるためにテレビを観るわけじゃないですもんね。どうされたんですか?

 まず最初は、番組を1時間買いきったんです。

——えっ!? 一社で!?

 バスキュールプレゼンツの番組です。この番組はバスキュールの提供でお送りしています(笑)。1時間の番組枠を買うとCM枠が6分ついてくるんですが、ぼくはコンテンツをつくりたいだけなので「(CM枠を)返すので、その分、番組時間を増やすことはできますか?」と言ったらテレビ局の方がびっくりしていました。あくまでもメディアチャレンジを行ないたいだけでしたから。

——すごい。チャレンジではありつつ、同時にいたずら心も感じます。

 その番組でカンヌのゴールドをとりました。それまでのネット企業とテレビの関係といえば、ホリエモンや楽天がテレビを買収しようとして批判された時期でもあったんですが、ぼくはその反動なのかすごい褒めていただけて(笑)。その後は2014年にSXSWでテレビとネットをつなげるコネクテッドTVを展示し、2015年に日テレさんと新しい会社をつくりました。テレビって家庭内にある最大のディスプレイと捉えれば、その役割はもっと拡張できるはずだと考えてたんですよね。人々がスマホの虜になっているのはいつもつながっているからで、テレビも常にコネクト状態になっていれば新しい楽しみが生まれるんじゃないかと。例えば、家族一緒に紅白を見て年を越した瞬間に、テレビの画面に年賀状やお年玉が届くということも技術的にはできることですし、それぞれのお母さんの名前が入った、その家だけの母の日スペシャルCMもつくれるんです。

——テレビってまだまだたくさん可能性を秘めてるんですね、すごい。

 ぼくは野球が大好きなので、プロ野球中継も新しくできると思って「VR Real Data Baseball」というプロジェクトも立ち上げました。ただVRで観るだけじゃなくて、プロのピッチャーが投げた球をリアルタイムでお茶の間の人が“打てる”野球中継が実現するのではないかというチャレンジでした。日テレとの合弁会社(HAROiD)とともに、テレビがネットにつながるとどんなことができるのか試行錯誤を続けていて、結果、テレビ×ネットのベースとなるプラットフォーム一歩手前までたどりつきました。ただ、このシステムは非常にセンシティブな情報を扱うものでもあったんです。現在の視聴率の土台となる1万倍以上の視聴データをより詳細により速やかに取得できてしまうものでした。

——視聴率は“ブラックボックス”とも言われますからね。

 そんな影響力の大きなプラットフォームづくりにテレビ業界ではない小さな会社が関わるのは、あまり好ましくないという話になってしまったんです。簡単に言えば、バスキュールがいる限り、このプラットフォームは使わないと。スタッフたちが頑張ってたどり着いたシステムを無駄にすることだけは避けたかったので、通算7年くらい頑張ったテレビ関連事業を売却する決断をしました。結果、売却益が手元に入るわけですが、もともとこれまで存在しなかった新しいクリエイションの舞台を作るための投資だったので、次の創作の舞台をすぐに探し始めました。まだつながってない未開の場所です。そこで見つけたのが宇宙だったんです。地上波がダメなら、宇宙でインタラクティブな放送局をつくろうと。

宇宙から100年残るイベントをつくること

——ネットからスマホ、テレビときて、宇宙。スケールが大きいですよね(笑)。

 もちろん突然宇宙の話を始めたわけではなくて、2011年に「SPACE BALOON PROJECT」という企画を行なったことがありました。「GALAXY SⅡ」というスマートフォンのプロモーションで、世界最高峰の端末だから地球最高峰で実験しましょうとスマートフォンを上空3万メートルの成層圏まで打ち上げました。映像がリアルタイムで配信されて、端末の背景がどんどん変わっていく。端末にはみんなのツイートが表示されるんですが、まるでみんなが宇宙へ届く気球に乗っているような気分になったんですよね。そのときのつながっている感覚が忘れられなくて、また挑戦したいなと。

「SPACE BALLOON PROJECT」(SAMSUNG ELECTRONICS JAPAN / GALAXY) 2011

——これはまさにみんながつながるコンテンツでしたよね。

 この企画にはスターやタレントがいないんですよね。テレビの発信は一方向かつターゲットが広いので、どうしても才能のあるタレントやアスリートのパフォーマンスに頼る必要があるのですが、ネットコンテンツだからこそ、誰もが主人公となって、平等につながって楽しくなれるものをつくりたかったんです。

——具体的に宇宙では何をしようと考えているんでしょうか。

 JAXAが実施しているJ-SPARCという共創プロジェクトに参加して、
400キロメートル上空にあるISS(国際宇宙ステーション)の中に「KIBO宇宙放送局」という双方向配信スタジオをつくろうとしています。ISSにある「きぼう」という日本実験棟内に、地球を望む丸窓があるんですが、その隣に地上とリアルタイムにつながるディスプレイを設置します。地球を一望する人類史上最も高い場所にインタラクティブサイネージを設置するという感じですね。ISSに滞在する宇宙飛行士がカメラマンとなって、窓から見える地球とディスプレイを撮影し、地上に向けてリアルタイム中継します。ISSは90分で地球を一周するのですが、みんなで一緒にディスプレイに映し出される映像を演出しながら、「80日間世界一周」ならぬ「90分間地球一周」の旅に出かけよう。そんなイメージですね。

——リアルタイム中継って難しそうなイメージがあります。

 宇宙から地上へ配信するだけなら以前から何度も実施されている普通のことなんですが、双方向での映像のやりとりをオープンに配信するのは前例がないんですよね。セキュリティ対策も万全にしなければいけないですし。子供たちと宇宙飛行士がやりとりする映像を見たことがあると思いますが、詳しくは言えませんが、あれも厳密にはリアルタイムの双方向ではないんです。

——このプロジェクトはみんなも参加できるものになるんでしょうか?

 このプロジェクトの裏テーマは「宇宙の民主化」です。これまで青い地球を見ながらメッセージを発信するのは、人類のエリートともいえる宇宙飛行士の特権だったわけですが、それをすべての人々に開放したとき、どんなコンテンツが生まれるのか、ワクワクしながら試行錯誤しています。とくに、新型コロナウイルスの影響でソーシャルディスタンスが問題になっている今、「WE ARE ALL CREW」と地球規模での精神的つながりを感じてもらえるコンテンツを提供したいと思っています。その延長として、人類共通の行事として宇宙に思いを馳せる日みたいなものをつくれたらと妄想しています。21世紀をふと振り返ってみたときに、ぼくらは本当に大切な何かをつくれていたんだっけと。先人は社会のコミュニケーションのために、数百年続くお祭りを生みだしたわけです。コミュニケーション技術の急速な進化を遂げた21世紀に生きる人間として、ネット時代だからこそ生まれた、世紀をまたぐコミュニケーションイベントづくりに挑まないのはカッコ悪いかなと。

「コミュニケーション」のためのクリエイティブ

——朴さんのお仕事は誰もやったことのないことばかりなので、どの話も面白いんですよね(笑)。いろいろなお仕事をされてきたと思うんですが、企画するときや実施するときなど、朴さんが一番面白さを感じるのはどういうときなんですか? 

 両方楽しいですよ。人から“中毒”だと言われるんですが、ぼくはヒリヒリしないと嫌なんですよね。

——難しいことに挑戦していないと嫌ってことですね。

 いくら万全に準備しても、本番当日に予想だにしない事故が起きることがあってヒリヒリするんですよ。以前NHKと日テレの60周年特番に関わったときも、まさに放送日に事故が起きて。(明石家)さんまさんや(SMAPの)中居くんが出演し、視聴者からの「いいね」をどちらが集められるか60コーナー使って勝負する企画の基本システムをGoogleのクラウドを使ってつくっていたのですが、本番当日、全世界的にGoogleがダウンしてしまった。テレビ局に「(クラウドが落ちたら使えないのは)借りたスタジアムが火事になったら使えないのと一緒なのでしょうがないですね」と伝えたんですが、「ふざけんなよ」と(笑)。結局その日のうちにGoogleからAmazonのクラウドへ全システムを乗り換えたんです。言うなれば、東京ドームで行なうライブのために準備していたシステムをその日にすべて大阪ドームに移すようなものですよ。あれ以上のヒリヒリはなかなかないかもしれませんけどね(笑)

——本番があるイベントはやはりヒリヒリしますもんね。そこで生まれるアドレナリンを欲してしまうんでしょうね(笑)。宇宙に限らず、今後やっていきたいことは何かありますか?

 ぼくらは先人のおかげでいまの豊かな生活を送れているので、次の世代に残せるものをつくりたいなと思っています。たとえばクリスマスとかバレンタインなどの年中行事ってすごく素敵だと思うんですよね。その日のことを考えただけでエモーショナルな気持ちにさせてしまうなんて。ぼくはもともとデジタルクリエイティブを考えていたはずが、いまはコミュニケーションクリエイティブを考えているので、人々がその日が来るのを心待ちにするお祭りや行事づくりにトライしてみたいですね。でも、どうすればたどり着けるんでしょうね(笑)。いずれにしろ、これまで関わりのなかったモノゴトをつなげることで、新しい価値を生み出し、いろいろな人と一緒にワクワクしていきたいんです。

——ぼくらも街をつくる企業としてバスキュールさんとワクワクしたいですね。

 ぜひ! 一緒にヒリヒリを共有しましょう(笑)。

——いやあ、ヒリヒリは怖いなあ(笑)

杉山 央|Ou Sugiyama
森ビル株式会社 新領域企画部。学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品サービス賞 最優秀賞等を受賞。 現在は、新領域企画部にて未来の豊かな都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO 理事。

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