WHAT’S INSIDE HIS WORLD?

17歳のエンジニア・会田寅次郎が語る、テクノロジー・アート・ビジネス

弱冠17歳にして文化庁メディア芸術祭アート部門で新人賞を受賞し、スタートアップ企業でブロックチェーンにも取り組む若きエンジニア、会田寅次郎。現代美術家・会田誠の実子としても知られる彼は、幼いころから多様な才能に囲まれて育ってきた。以前から彼に注目していた森ビル・杉山 央がその才能の秘密に迫る、連載「GAME CHANGERS」の第1回。

Interview by Ou Sugiyama
Text by Shunta Ishigami
Photo by Kaori Nishida

テクノロジーへの興味、表現のめざめ

──今日はよろしくお願いします! 寅次郎くんは最近注目の若手としてメディアで取り上げられる機会が増えてますが、まだかなり若いですよね。いまいくつでしたっけ?

寅次郎 17歳ですね、高校3年生です。

──17歳にもかかわらず、コンピューターを使った表現に積極的に取り組んでいるのがすごいなと。そもそもコンピューターに興味をもったのはいつから?

寅次郎 小学1年生くらいにはもうPCを使ってましたね。両親(会田誠さん、岡田裕子さん)がアーティストで、特にお母さんは映像作品をよくつくっているので、編集作業を見かける機会が多かったんです。だから親近感が湧いたのかなと思います。

──最初にPCを使って遊ぼうと思ったきっかけはあるんですか?

寅次郎 8歳の誕生日プレゼントにAdobe Flashを買ってもらって、Flashでゲームを作って遊ぶようになったんです。DSを買ってもらうんじゃなくてFlashを買ってもらうっていう(笑)。

会田寅次郎|Torajiro Aida 2001年東京生まれ、開成高校3年生。ブロックチェーン、AI、関数型言語を自在に操る。PyCon JP 2014で「The Esperanto Generator」を発表、セキュリティ・キャンプ全国大会 2015参加、2015年東京都現代美術館「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展に会田家として参加。第21回(2018年)文化庁メディア芸術祭 アート部門 新人賞受賞。2018年度未踏IT人材発掘・育成事業採択。現在、スタートバーン株式会社にてブロックチェーン・エンジニアとしてアルバイトをしている。

──面白いね。いま寅次郎くんはプログラムやブロックチェーンの研究をしているけれど、自分がつくり出したものを人に見せるようになったのはいつごろからなんですか?

寅次郎 いつごろだろう……昔から家で開かれた飲み会に来た大人に自分がつくったプログラムを見せたりはしてましたね。中学生になると「GitHub」のような、コードを共有できるサイトの存在を知って。それからはインターネットでコードを書き始めました。

──じゃあ、寅次郎くんがコンピューターを使って表現しているのは自分の意志で決めていった感じなんだね。子どものころの趣味が膨らんでいったというか。

寅次郎 そうですね。思いかえすと、子どものころは「鍵」とか「証明書」が好きで。自分でコンピューターで使われる暗号の証明書をつくったりしてたんです。なんだろう、あんまり言葉にするのは難しいけど、論理的なものが昔から好きだったなと。

──そもそも小学生のころからそういうものに興味があったんだね。以前インタビューで、テクノロジーで新しい世界をつくりたいと話していたけれど、ブロックチェーンや人工知能(AI)のどこに惹かれたの?

寅次郎 ブロックチェーンはブロックをつなげる考え方とか暗号の使い方とか、ブロックをつなげていくことで論理的に整合性をとっていくのが面白いなと思ったんですよね。公開鍵暗号の仕組みも使われていて、自分の趣味とも合っていたし。AIは中学生のころからアルゴリズムに興味があって、適当にデータを突っ込むだけで機械学習が可能になってるのはすごいと思ったんです。

周囲の環境がもたらすもの

──でも、寅次郎くんは何からテクノロジーのことを学んでいたの? 小学生だとそういうことを話せる友だちもまわりにいなさそうだよね。

寅次郎 雑誌の「Newton」が大好きで。宇宙の構造とか分子・原子の話とか、自分がふだん見ているものとはまったく別の世界があることがすごく面白いんですよね。そういうことを話せる友だちはあんまりいなかったですけど、家に遊びに来た大人に話したりするとウケはよかったですね。

──いま寅次郎くんは有名な進学校に通っているけれど、学校のなかではどんな存在なの?

寅次郎 変人枠、ですかね……でも、変な人が多い学校なのでそもそも「変人枠」が存在しないというか。結構まわりも渋い人ばっかだから、いまどきの若者みたいなのがつかめなくて。この前もみんなで遊びに行くことになって、ローカル線で沼津まで行って海鮮を食べてきたんです。ほんとに17歳かなこの人たち、みたいな(笑)。時代が逆行してるっていうか。

──いいね。寅次郎くんから見て同世代の若者ってどういうふうに見えてるんだろう。

寅次郎 よく「若者はクリエイティビティがない」とか「いまの若者は」とかいわれるけど、そんなことないと思うんですけどね。そういわれていることに対する疑問はありますね。

──寅次郎くんの場合、学校で友だちと会うだけじゃなくて、家にchim↑pomのメンバーが来るとか、小さいころからたくさんの芸術家に会ってたわけだよね。どういうふうにそういう大人たちのことを見てたのかな?

寅次郎 ぼくにとっては最初からいた人たちなので、ふつうというか……(笑)。でも、ものをつくるうえでは影響を受けたと思います。なんでぼくはアートじゃなくてテクノロジーのほうに行っちゃったんだって感じですけど(笑)。

──ぼくからするとすごい芸術家の人たちばかりだけど、寅次郎くんからするとそれが日常なんだもんね(笑)。ちなみに、お父さんのことを有名な芸術家だと認識したのはいつから? ふだんから寅次郎くんのやってることについて話したりしてるのかな。

寅次郎 いまでもそんなに芸術家としては意識してないですけどね(笑)。それに、自分のつくっているものについてはあまり話さないですね。雑談のなかで面白い技術を紹介することはあるんですけど。ただ、目標にはしたいなと思ってます。ぼく自身もサラリーマンみたいな生き方は合ってないだろうなと思っていて、短期間にすごく働いてしばらく休んでを繰り返すみたいな生き方のほうが合ってるなと思います。プログラミングの研究者になって、でも遊べる、みたいなポジションにいきたいなと。

ビットコインから抽象絵画まで

──寅次郎くんはいま何に一番興味があるんですか?

寅次郎 最近はビットコインにまた興味をが出てきて遊んでいたり、音とAIを使って何かつくれないか考えていたり。ふつうデジタルだとなんでもできちゃうけれど、ビットコインはシステムが難しくて制限されながら取り組んでいくのがおもしろいです。あとはゲームをつくることにも興味があります。

──ゲームといえば、2018年に文化庁メディア芸術祭で新人賞をとったことで寅次郎くんはかなり話題になったよね。今後そういう活動もつづけるのかな。

寅次郎 未定ですけど、モノ自体はつくってるのでできたら発表する感じですね。

──ぼくは7年前から「Media Ambition Tokyo」というイベントを六本木ヒルズで行なっているんだけど、そこに参加してもらっているチームラボやライゾマティクス、落合陽一さんなど、テクノロジーとアートをかけ合わせて表現しているアーティストが最近活躍していますよね。彼らの活動は刺激になったりしますか?

寅次郎 そうですね、刺激になってます。ただ、自分は最初から「人に見せる」というゴールがあるわけじゃないので、「作品」って分け方が難しいなとも思うんですけど。

──寅次郎くんのやってることはエンタメというより問題提起だもんね。ほかにも寅次郎くんはアナログな創作活動をしてるって聞きました。

寅次郎 最近は抽象画を描くのが好きなんです。結構ぼくが作品をつくるうえで刺激になっているのって、アナログなものが多いかなと思っていて。絵自体は中学生のころから美術部だったのでずっと描いてます。

──抽象画っていうのは自分の心のなかにある風景みたいな感じですか?

寅次郎 実際はそこまで抽象って感じでもないんですけど、イメージ的には「システム」みたいなものを描いてるのかもしれません。タワーみたいなものを描いたりリングが回っている様子を描いたり。

──表現をするうえでデジタルとアナログは別物?

寅次郎 いや、境界線は引いていないですね。プログラムのように自分が「神」になるような世界なのか、絵のように自分でコントロールできない世界なのかという違いはありますけど。絵の具の色合いを自分の思うようにつくれなかったりするんですけど、描いてみたら意外といい感じになったりするのが面白いです。

──寅次郎くんが描いている絵の世界観もそうだけど、いろいろなものから影響を受けているのかなと感じます。作品をつくるうえで何からインスピレーションを得ていますか?

寅次郎 ほかには映画も観るし、小説も読みます。あとは両親に美術館へ連れて行かれたり。この前はお母さんが出展していた「恵比寿映像祭」に行ったんですが、面白かったです。あとは最近はウェブ小説が結構好きで、なかにはかなりインスピレーションになるものもありますね。

──へえ、ウェブ小説! たとえばどんな作品?

寅次郎 「Richard Roe」というひとの「チート魔術……っていうか科学なんですけど」がよかったです。魔術とアルゴリズムの融合が描かれていて面白いです。

新しい「システム」を求めて

──寅次郎くんの話を聞いていると、よく「システム」って言葉が出てくるよね。以前インタビューで、「世の中を変える可能性があるテクノロジーで新しい世界をつくることに興味がある」と話していたけれど、それと関係しているのかな?

寅次郎 そうですね。昔から、銀行とか経済のシステムを考えるのが好きだったんです。世の中の仕組みを想像するみたいな感覚で。もしかしたらシステムを考えること自体が好きなのかな。

──システムに興味があるっていうのは面白いね。寅次郎くんのなかで「システム」ってどういうイメージとしてあるんだろう?

寅次郎 たとえば「経済」だったり、たくさんの人を動かしているものがシステムというイメージがあります。具体なイメージとしては鍵とか契約みたいなものを思い浮かべてます。

──さっき抽象画で「システム」を描いていると言っていたけど、具体的にはどんなイメージなんだろう。

寅次郎 単純に言うと「仕組み」って感じですね。工場とかで延々にモノが製造されてるみたいな。最近は生物の仕組みに興味があって、DNAとかRNAとかつくるときの仕組みに影響を受けて絵画を描いてますね。ブロックチェーンと生物って仕組みがすごく似ていて、例えばDNAの複製の時、わざわざ作ったDNAを破壊しながら合成していくんですよね。ブロックチェーンでも一旦繋がったブロックが破壊されて、前の状態に戻ることがあるんです。

──これから寅次郎くんが新しい世界をつくるために活動していくうえで、アートとビジネス、どっちの領域に興味があるんだろう?

寅次郎 多分ビジネスにはあまり興味がなくて。テクノロジーが好きなんだけど、テクノロジーとアートって似たようなところがあると思うんです。そもそもぼくにとっては世界のシステムをつくること自体が「アート」でもあるというか。

──なるほど、テクノロジーも新たな時代を切り開いているし、アートも世の中に問いを投げかけているし、相性はいいかもね。ちなみに、寅次郎くんが尊敬している人って誰なんでしょうか。

寅次郎 テクノロジーもアート的な面があるものだけじゃないと思うんですけど、問いかけがあるのが素敵だなって。尊敬している人……オープンソフトウェアのGNUをつくったリチャード・ストールマンとか、ウィキペディアをつくったジミー・ウェールズとかですかね。

──プログラム関係の人が多いね。たしかにプログラムも思想家に近いもんね。

寅次郎 プログラム、思想、アートみたいな交わりが面白いなと思うんですよね。

──お話を聞いていて、寅次郎くんが今後どうなっていくのかますます興味が湧きました。今後はどんな活動をしていくんですか? たとえば海外に行きたい、とか。

寅次郎 海外には興味あります。ただ、いまはまだあんまり勉強をがんばってないので、まずは卒業するためにがんばらないといけないなと思っています。先のことは数日後くらいまでしかイメージできていないので、どうなるかはぜんぜんわからないですけどね(笑)

杉山 央|Ou Sugiyama
2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て、森アーツセンターでは六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。18年6月に開業した「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」の企画運営室長。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO理事。