スマホシフトによってコンテンツのデジタルパーツ化が強まる中で、「グライダーアソシエイツ」がキュレーションアプリ「antenna*」を運営する真の狙いとは? インターネットリサーチ国内最大手「マクロミル」の創業者でもある杉本哲哉社長に聞いた。
TEXT BY Kazuko Takahashi
Main Photo by Koutaro Washizaki
スマートフォンマーケティングの先駆け
キュレーションアプリ「antenna*」を運営するグライダーアソシエイツ。約350の提携メディアから一日1,500近い記事や動画を受け、そのすべてに社内スタッフが目を通し、厳選したコンテンツを毎日配信している。ユーザー数は650万を突破。人気の理由は、「いま気になる」情報へのアクセスのしやすさだ。
「イメージしたのは、本屋での雑誌の立ち読み。面白い記事やビジュアルを次々拾い読みしていくあの楽しさです」
そう語る杉本哲哉さんは、インターネットリサーチ事業を展開するマクロミルの創業者。スマホの普及によりパソコン経由のアンケート回答が急減し、さらにクライアントがSNSを使ったマーケティングに自ら取り組み始めたことなどに時代の変化を感じ、現在の会社を設立した。
「企業や広告会社の課題は、消費者ニーズや興味・関心を把握した上でのプロモーションです。それをスマホで行うメディアがなく、ビジネスチャンスだと思いました。検証してみると、SNSではユーザーのソーシャルにおけるつながりは捉えられても、深い興味までは捉えきれない。万人の関心を集める時事ニュースもしかり。解決策を探る中で、趣味性の強いライフスタイルやカルチャー、エンタメといった情報を提供するようになりました」
良質なコンテンツ・マーケットプレイスの構築
antenna*は「woman/恋愛/man/暮らし/おでかけ/プレミアム/ワイドキャッチ」からなる7チャンネルで1日約300〜400の記事を展開。ビジュアルの洗練度の高さから、ラグジュアリーブランドの出稿も多い。
杉本さんがもう一つこだわったのは、プロの手によるコンテンツだ。
「テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった一次メディアのコンテンツがデジタルパーツ化され、分散配信され、ネット上でタダ読みされている。一方でアマチュアが安直に作ったコンテンツが収益を上げられる仕組みも生まれています。このままでは一次メディアの価値が希薄化し、優秀なジャーナリストやライター、フォトグラファーなどがどんどん消えてしまう。キュレーションメディアという形でコンテンツのマーケットプレイスを構築し、玉石混淆の玉と石を分けていきたい。しかもスマホを通じて。難易度は高いですが、挑戦の価値があると思います」
大学院の客員教授を務めた経験も持つ杉本さん。その視線は、日本の言論や教育の将来まで見据えている。
「日本が誇れる国であり続けるために何をすべきか。知的なコンテンツやカルチャーや自由に発言できる風土を保つことが、次世代への責任だと思っています」
グライダーは、動力なしで空を飛ぶ。
「いい天候と技術と運があれば、風に乗ってどこまででも飛べる。そこにあこがれて社名にした」と杉本さん。同社にとっての風は、良質なコンテンツ。アソシエイツ(仲間)は、一次メディアや広告主やアプリユーザーや社員たち。時代の風をとらえ、高く遠くへと滑空している。
株式会社グライダーアソシエイツ
杉本哲哉|Tetsuya Sugimoto株式会社グライダーアソシエイツ 代表取締役社長/1967年横浜市出身。リクルートを経て、2000年にネットを活用した市場調査を行なう「マクロミル」を創業。05年東証一部へ上場。同社はグループ社員数1,700名、世界13カ国34拠点で展開。12年に「グライダーアソシエイツ」を設立。
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