Technology for Education

EdTeckで学びはどう変わる?——Fresco Capital アリソン・バーム

教育分野ではいま、テクノロジーを革新的な形で活用して課題解決をはかる動きに注目が集まっています。そうした取り組みに挑む起業家たちに対して、アーリーステージでの投資を行うアリソン・バームさんに、テクノロジーが貢献できる教育上の課題を聞きました。

TEXT BY Tomonari Cotani
PHOTO BY Kikuko Usuyama

── 早速ですが、アリソンさんの日々の活動を簡単に教えていただけますか?

アリソン・バーム さまざまな国の教育現場において、どのような問題が起きているのかを理解すること。そしてそれらの課題に対して、テクノロジーが解決できることはなにかを考える、ということになるでしょうか。それを踏まえて、有望なスタートアップへ投資をおこなっています。拠点は日本ですが、アメリカ、香港、北京、バンコク、モスクワなど世界各地に出張する機会も多いです。

2015年北京で行われた「Binggo Cafe」にて、アジアにおけるEdTechの市場潜在力についてプレゼンテーションを行った。

2015年北京で行われた「Binggo Cafe」にて、アジアにおけるEdTechの市場潜在力についてプレゼンテーションを行った。

── いま世界の教育現場には、どのような問題があるのでしょうか?

バーム もちろん地域差はありますが、グローバルに捉えた場合、テクノロジーが貢献できる教育上の課題は、基本的に4つあると思います。

ひとつは、「教育が届けられる範囲が限られていること」です。テクノロジーを活用すれば、アクセスのできる人や地域を格段に増やすことができますし、質の高い教材を低いコストで提供できると考えています。ふたつめは、「学校運営の効率化」です。たとえば学校の先生はいま、さまざまな事務作業や雑務に忙殺され、本来の意味で、先生としてすべきことに時間が十分に割けていないといった課題があります。この点に関しても、テクノロジーで効率を上げることは可能だと思います。

3つめは、「すべての生徒が、同じ教材や学習スタイルで学ぶことが前提になっている点」です。テクノロジーの力で、学びのパーソナライズ化を促進させ、自分にあったやり方で学べるようにしていくことができると思います。そしてもうひとつは、「いま学校で学ぶ教科やスキルは、将来の仕事につながらないかもしれないこと」です。OECDによると、小学生のおよそ60%が、いまはまだ存在していない仕事に就くという統計もあります。つまり、大人になっても継続的に学んでいくことが大切で、その点においても、テクノロジーが貢献できることはたくさんあると考えています。

── 今後、寿命がますます伸びていくという試算もありますし、大人のパーソナライズド・ラーニングも、ますます重要な社会課題かもしれませんね。

バーム そうなんです。先日お会いした、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんは、「これから先、テクノロジーの進化によって、社会構造や価値観の変化はこれまで以上に早く大きくなるので、そういう時代に必要な学びはなにか、それをどう学べばいいのか、ということを学んでいくことが重要だ」と仰っていましたが、まったくその通りだと思います。学び方を学ぶことが、これからを生きていくうえでとても重要なスキルになるのではないでしょうか。

──ちなみに、日本の教育に関してはどのようなご意見をお持ちですか?

バーム 日本の学習というのは、まだまだ暗記や反復が主体だと思います。そこを変えていく必要があるのではないでしょうか。学びの場において大人が子どもに対して提供しているフレームワークを、変える時期にきていると感じます。

今年3月、東京ビッグサイトで開かれた世界最大級のスタートアップイベント「SLUSH TOKYO 2017」に参加。壇上から起業家や投資家との質疑に答える。

今年3月、東京ビッグサイトで開かれた世界最大級のスタートアップイベント「SLUSH TOKYO 2017」に参加。壇上から起業家や投資家との質疑に答える。

── アリソンさんご自身がいま注目されているテクノロジーを教えてください。

バーム とりわけ注目しているのは、やはりAI(人工知能)です。特に最近は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった視聴覚系の最新テクノロジーと掛け合わせることで、今後、まったく新しい学びの体験が生まれてくると思います。また、ビッグデータにも注目しています。社会の中でデータがどう使われ、どう機能していくかということを、私たち自身が学んでいく必要があると思います。

── 現在アリソンさんご自身が取り組まれている「学び」はありますか。

バーム ベンチャーキャピタリストという仕事自体、年間2,000件ほどの新しい技術や分野、アプリケーションに触れる機会があり、それ自体が学びの機会に溢れていると感じます。個人的には絵画や写真に興味を持っていて、いろいろな分野の学びがすべて互いにいい影響を及ぼし合うと信じています。あともちろん、日本語の勉強もがんばっていますよ。

★取材は虎ノ門ヒルズのすぐそば、アリソンさんが拠点にしている、海外企業の日本進出支援事業を展開する「アンカースター」のオフィスにて行われました。

Fresco Capital

profile

アリソン・バーム|Allison Baum
Fresco Capital マネージング・パートナー/アメリカ・シカゴ生まれ。ハーヴァード大学で経済学の学士号と映画研究の副学位を取得。ゴールドマン・サックスのエクイティ・デリバティブ部門で働いた後、Microlending Film Projectのアソシエイトプロデューサーとして活動。その後、ジェネラル・アッセンブリーのアジア地域ディレクターとして、香港のテクノロジー、ビジネスおよびデザインをめぐる教育プログラムの設立に従事。2015年に現職に就任し、特に教育テクノロジー部門を中心に投資と運用に携わる。