ロングセラーの栄養食品「SOYJOY」などのデザインを手がける広告会社アサツーディ・ケイ(ADK)のクリエイティブディレクター、阿字地 睦さん。日常と非日常を行き来するそのアイデアの源泉とは?
TEXT BY KAZUKO TAKAHASHI
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI
商品パッケージは強力なメディア
「短期間に最大の効果を狙う広告キャンペーンを手がける一方で、永続性を追求するブランド構築にも携わっています」
例えば大塚製薬の「SOYJOY」。10年に及ぶロングセラーで、阿字地さんの手がけたデザインは、アジアや欧米にも展開される。
「店頭で商品に遭遇した瞬間から、レジを経て、カバンのポケットや職場の引き出し、家の食卓などで繰り返し手に取られ、ゴミになるまで生活者の目に触れる。ロングセラーになれば、その営みが何十年と続く。パッケージを強力なメディアと捉え、ブランドを凝縮したデザイン、10年先20年先、さらにその先を見すえた時間の経過に耐えうるデザインを検証し、カタチにしています」
ホーユーのヘアケア製品「hoyu 3210」の独創的なパッケージは、カンヌ国際広告賞で銀賞、世界のパッケージデザインの最高賞といわれるペントアワードのダイアモンド賞を受賞した。
「ホーユーさんは、ヘアカラーではトップシェアですが、ヘアオイルやワックスでは後発でした。プロ使用の商品なので、感度の高いヘアスタイリストが面白がってくれるようなフォルムを意識しました」
昨年オープンした東急プラザ銀座の開業キャンペーンでは、「伝統と革新」をテーマに、銀座の駅周辺に掲出される広告やフラッグ、館内で使用されるフォントや映像などをトータルにディレクションした。
デザインの力で課題解決を
「どんな仕事においても、単にきれい、カッコいい、だけじゃなく、周りの人に伝えたくなったり、思わず笑顔になってしまう“体験”をデザインしていきたい」
虎ノ門ヒルズにあるADK本社オフィスも、阿字地さんが手がけた。コンセプトは、「パワー・アイデア・キャンプ」。
「キャンプは“非日常”。普段言えないことも、星空を見ながら、火を囲みながら、言えたりする。部署や役職を忘れてワイワイとアイデアを交換できるような、煮詰まった頭がほぐれるような空間を、オフィスの各所で実現しました」
そして、阿字地さんのアイデアの源泉は、“日常”の中にもあるという。
「クライアントは様々ですが、訴求先が人であることは共通しています。人の喜怒哀楽など根源的な感情は、日々の暮らしの中にある。街を歩く時も、電車の中でも、人間観察が楽しい。目にするすべての人がアイデアの源です。夫婦ゲンカでさえもヒントになります(笑)」
これまでは、新聞広告やパッケージデザインなど、リアルな世界に直結した仕事が多かった阿字地さん。最近はデジタル領域の仕事も増えているという。
「デザインの力で世の中の課題解決に寄与できることはたくさんある。販路を新たに切り拓いたり、今までなかった商品を世に問うたり、健常者にも障がい者にもやさしい商品や空間を提案したり。これまで通り、手触りのある仕事を大切にしながらも、ジャンルを問わず新しいことに挑戦し続けていきたいですね」
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