FUTURE CITY, FUTURE INTELLIGENCE

伊藤穰一 MITメディアラボ所長 学習する“機械知性”は僕たちに何をもたらすのか?

昨今、人工知能の研究が飛躍的に進んでいる。そのテクノロジーは、今後どのような進化の道筋をたどり、都市にいかなる変化を及ぼすのか。Innovative City Forum(ICF)のコミッティーを務めるMITメディアラボの伊藤穰一所長に訊いた。

TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY SHIN-ICHI YOKOYAMA

2つの人工知能

人工知能について考えるとき、意識しなければならないことがあります。それは、「人工知能は大きく2種類に分けられる」という点です。ひとつは、映画『2001年宇宙の旅』に登場するHAL2000や『ターミネーター』のような、自立したロボット的存在。もうひとつは、Google DeepMindのような機械学習です。この2つの「知能」は別ものであり、それぞれ区別して捉えなければなりません。

ひとつ目の「人間と戦うロボットのような人工知能」は、可能性としてなくはないけれど、いつできるのか、そもそも作る必要があるのかという点において僕は懐疑的です。一方で機械学習は、例えばGoogleの検索やFacebookのレコメンドといったかたちで、既に僕たちの日常に組み込まれています。

ここで重要なのは、「機械学習は、プログラミングとは異なる」ということです。プログラミングとは「ルール」を書くことにほかなりませんが、機械学習は、データとトレーニングの方法を与えると、そこから「独自に判断力を上げていく」ので、たとえ機械学習のソフトを見ても、なにをするのかわかりません。脳みそをバラしても、人間の中身がわからないのと同じです。

こうした機械学習が、今後、都市においていかなる影響を及ぼすのかに思いを巡らせてみたとき、浮かび上がってくるのが「職」と「文化」というキーワードです。

「文化の醸成」が急務な理由

この先、機械学習が進化することによって、repetitive tasks(繰り返しの作業)はロボットや人工知能に置き換わっていくことになるでしょう。人間はもはや、働かなくて済むようになる、という予測すらあります。そんな時代が訪れたとき、都市、あるいは社会には、例えばお金のためではなく、自分の内なる欲求のために働いたりするような、新しい文化や価値観のあり方が必要になってくるはずです。

実際、ドバイやドーハといった産油国の都市では、心身ともに不健康でアンハッピーな若者がたくさんいると言われています。働かなくてもよくなった途端、人生の意味が薄れてしまったのです。そのような事態を避けるためには、都市をより豊かな環境へと育み、人生に意味を見いだすような文化や価値観を醸成していく必要があるはずです。

海外の主要都市と比べて東京は、人口の減少や高齢化といった点において先行しています。つまり、人工知能やロボットによるオートメーション化がいち早く望まれている状況です。だとするならば、まだ経済的に余裕があるうちに、さまざまな角度から議論を積み重ねていくことが重要です。

ICFの存在価値

この先、僕たちの社会に大きな影響を及ぼすであろう人工知能、あるいは遺伝子工学といった先端分野がどのように発達していくのか。それを予測するのは非常に困難です。例えば体外受精は、30年前にはフランケンシュタインのように思われていましたが、いまは保険できてしまう時代です。今後は、ガンも完治できる時代になるでしょう。

そのようにして生命観や倫理観が変化していったとき、都市や経済や文化にどのような変化が起こるのか。そしてその変化によって、どの技術がどのような指標によって社会に受け入れられていくのか。その道筋を、できるだけ深く多角的に議論するのがICFという場です。都市やテクノロジーのみならず、アートや文化の担い手たちが集う、世界的にも珍しい会議であるICFから、今年はどのような議論が沸き起こるのか。ぜひ、ご注目ください。

profile

伊藤穰一|JOI ITO
MITメディアラボ所長。MIT Media Arts and Science 実務教授。PSINet Japan、デジタルガレージ、Infoseek Japanなど多数のインターネット企業の創業に携わるほか、エンジェル投資家としてこれまでに、 Twitter, Wikia, Flickr, Kickstarter, Path, littleBits, Formlabs などをはじめとする有望ネットベンチャー企業を支援している。

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ICF|Innovative City Forum
森ビル株式会社が運営する森美術館、アカデミーヒルズ、森記念財団都市戦略研究所が毎年秋に開催している国際会議。「先端技術」「都市開発」「アート&クリエイティブ」の3つの分野から世界のオピニオンリーダーが集い、都市の未来を考えるための新たな視点を提示する。