特集麻布台ヒルズ

“TERAJIMA” EGGPLANT

〈Dining33〉が大事にするローカル食材。「寺島ナス」を求めて東京・小金井へ。

麻布台ヒルズのレストラン〈Dining33〉では、東京近郊でつくられた食材をなるべく取り入れています。連載の第2回目以降は、それらの食材が生まれる現場を訪ねるシリーズ。今回は東京・小金井市で伝統的な江戸東京野菜の一つ「寺島ナス」を栽培する畑におじゃましました。

PHOTO BY YOICHI NAGANO
TEXT BY MARI MATSUBARA
SPECIAL THANKS TO MICHISHIGE OTAKE
illustration by Geoff McFetridge



食材を輸送するトラックのCO2排出量削減と、ローカルの生産者支援を目的として、以前から地産地消を提唱している三國シェフ。2009年に東京・丸の内に〈ミクニマルノウチ〉を開店する際、東京産の食材を取り入れて以来、その方針は〈Dining33〉にも受け継がれています。

江戸東京野菜との出会い

アパートや民家が立ち並ぶ住宅街の一角にポツンとある萩原さんの畑。大竹道茂さん(右)と今年の出来について語り合う。大竹さんはブログ「江戸東京野菜通信」を毎日更新中。

三國シェフが当時参考にしたのは現在、NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会代表理事を務める大竹道茂氏の著書。そこで紹介されている農家に一軒一軒コンタクトをとり、野菜を仕入れてきたのです。大竹氏は長年、東京産の伝統野菜復活に尽力し、2005年頃に「江戸東京野菜」と名づけて運動を普及させてきました。当時は15品目ほどでしたが、現在では52品目までに増えています。例を挙げると亀戸ダイコン、谷中ショウガ、城南小松菜、千住ネギ、滝野川ゴボウ、内藤カボチャ、東京ウドなどなど。そのうち「寺島ナス」を小金井市で栽培している萩原英幸さんの畑を訪ねました。

「自分が育てたものは店頭で一目で見分けがつく」と語る生産者の萩原さん。寺島ナスの購入については小金井ファーマーズ・マーケット(tel.042-385-3281)へお問い合わせを。

寺島ナスの栽培が復活

普通のナス(右)と比べると小さい寺島ナス(左)。味が濃い。

「寺島ナスとは、江戸時代に東京の寺島村、現在の墨田区東向島一帯で作られていたナスです。鶏卵ぐらいの小ぶりのサイズで、皮は硬めで煮崩れしにくく、加熱するとトロリとした食感になり、味が濃いのが特徴です。関東大震災以降、宅地化が進み、生産が完全に途切れてしまいました。それを2009年から、まずは向島の小学校の協力を得て栽培してもらい、徐々に増やしていきました。萩原さんは小金井市で江戸時代から続く農家の末裔で、近年、寺島ナスの栽培に取り組まれています」(大竹さん)

蔓が細い品種なので、大風に揺れると葉や枝がこすれてナスに傷がつくこともある。

「寺島ナスは『蔓細千成(つるぼそせんなり)』という品種で、枝が細く、普通のナスよりも背丈が低いです。私は5〜6年前から栽培を始めて、昨年は約2,000個の収穫がありました。地元の学校での需要があるほか、近くの直売所でほとんど売れてしまうので、わざわざ都内から買いにいらっしゃる方もいます。小ぶりで丸みがあり、艶があるものを育てたいのですが、品種改良された野菜よりも抵抗力が弱いので、育てるのは難しいです。さらに近年の猛暑のせいで、花が付いても落ちてしまうことが多く、収穫量を保つのが本当に大変です。薬剤を撒こうにも、あまり暑いと薬害が出るので撒けません。フェロモン剤を支柱に設置して虫の交配を防いだりしていますが、とにかく気候変動による影響は、我々農家にとって深刻な問題です」(萩原さん)

収穫した寺島ナスを袋詰めにして出荷。萩原さんのおすすめの食べ方は揚げびたし。半割にした寺島ナスを揚げて出汁に浸し、素麺とともにいただくと美味。

現在、小金井市で寺島ナスを栽培しているのは萩原さんを含め3軒ほどの農家しかない。貴重な寺島ナスを〈Dining33〉では8月の夜のメニューのアミューズに使っている。

8月のディナーコースのアミューズ「キャビア・ド・オーベルジーヌ」。タピオカとパルメザンの四角いガレットの上に、ソテーして粒状にした寺島ナスをキャビアに見立ててのせ、寺島ナスのチップスを飾る。

江戸東京野菜の魅力とは?

〈Dining33〉をプロデュースする三國清三シェフ。

江戸東京野菜の特徴を三國シェフはこう語ってくれた。

「東京の土壌は富士山の火山灰に覆われた砂地と、その下に赤土があり、水はけがよく野菜栽培に理想的です。江戸時代から代々続く農家が多く、宅地化が進んで畑の面積が減少してもなお、プライドを持って少数品種の野菜を育てています。東京で野菜作り?! と驚かれますが、実は東京都には1万軒ほどの農家があるんですよ。短時間で火が通るよう効率化を優先して品種改良を重ねた今の野菜は、軽くて柔らかく、苦味もなく、野菜本来の味わいが消え失せています。江戸東京野菜はそれらとは大違いです。栽培には手間も余計にかかりますが、本来の味が見直され始めています」(三國)

Dining 33


住所=東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ 森JPタワー 33F 電話=03-4232-5801(予約受付時間11:00〜22:00) 営業時間=11:00〜15:00(L.O.14:00)、18:00〜23:00(L.O.22:00) 不定休 ランチコース¥6,600(税込、別途サービス料12%)、ディナーコース¥11,000(税込、別途サービス料12%)