特集虎ノ門ヒルズ ステーションタワー

WHAT WILL YOU MAKE FOR DINNER TONIGHT?

虎ノ門ヒルズで購入できる食材で何作る? 料理家、渡辺康啓さんに教えてもらいました

仕事終わりや外出帰りに買った食材で、帰宅後パパッとおいしい料理が作れたら。そんな声に応えてくれたのは、人気料理家の渡辺康啓さん。〈虎ノ門ヒルズ〉のフードマーケットで旬の野菜や調味料を購入し、素材の味を生かした5つの料理を考案。どのレシピもすぐ真似したくなること請け合いです。

RECIPE BY YASUHIRO WATANABE
PHOTO BY NORIO KIDERA
TEXT BY MASAE WAKO
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Adrian Johnson


「時間をかけずシンプルに作る時こそ、頼りたいのは調味料。オリーブオイルや塩、醤油といった基本の調味料をちょっと変えるだけで、普段のレシピが特別なものに変わります」

渡辺さんが最初に訪れたのは、東京メトロ日比谷線・虎ノ門ヒルズ駅を降りてエスカレーターを上がったB1にある店〈cask〉。93年の歴史をもつ〈信濃屋食品〉と、青山のワインレストラン〈W〉による複合型フードマーケットだ。日本各地の生産者から仕入れる良質な食材のほか、伝統的な木桶仕込みによる醤油など、オリジナル調味料も充実。生産者の背景や商品特徴について書かれたポップがまた楽しくて、読んだ端から買いたくなってしまう店だ。

メトロ直結のフードマーケットで調味料&食材選び

虎ノ門ヒルズ ステーションタワー地下1階の〈cask〉。店内の食材を使った総菜も人気。

〈cask〉のすぐに食べられる調理品も大人気。低温調理で仕上げたオリジナルの焼き豚を手に、レシピを考え中。

たとえば完熟胡椒、クリスマス島の結晶塩、木桶醤油入りのマスターネ、わかめふりかけなど、名前を聞いただけでおいしそうなものが次々と。そんな中、渡辺さんが手に取ったのはスペイン産の燻製オリーブオイル。「燻製塩はよく見かけるけど、燻製オイルは珍しいな。これで1品作りましょう」

〈cask〉で購入したもの — A

❶「完熟胡椒 ライプペッパー」。カンボジアの農園で自然農法によって栽培。20g 1,296円 ❷「マスターネ 木桶仕込み醤油」。福岡の木桶仕込み醤油と木桶仕込み酢を加えた粒マスタード。120g 970円 ❸「低温調理で仕上げた国産豚の自家製焼豚」。100gあたり539円 ❹「わかめふりかけ」。鳴門産の肉厚わかめと奥能登海水塩を使用。化学調味料無添加。50g 810円 ❺「フィンカ・ラ・バルカ 燻製オリーブオイル」。アルバキーナ種のオリーブオイルを、スペインの熟錬燻製職人が香りづけ。年間約15,000本のみの限定生産品。100ml 2,297円 ❻「クリスマス島の塩」。キリバス共和国産。世界最大のサンゴ礁から成るクリスマス島で、自然に結晶化した天日海水塩。100g 538円

日本各地から届くフレッシュな生鮮食品も

東京メトロ銀座線・虎ノ門駅から徒歩5分。虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー地下1階の〈福島屋 虎ノ門店〉。併設の食堂では、店内の食材や調味料を使った料理を味わえる。

創作意欲を刺激する調味料が揃ったところで、次はビジネスタワーにある〈福島屋〉へ。お目当ては日本全国から届く朝採れ野菜や肉、魚などの生鮮食品だ。旬の胡瓜やトウモロコシからオリジナルの卵までが並び、ビジネス街のど真ん中なのに、まるで〝道の駅〟のようにワクワクする。

豆腐や油揚げ、味噌や米など日々の献立の基本となる食材にも力を入れている〈福島屋〉。「この油揚げをパリッと焼いて、さっき買ったわかめふりかけと合わせようかな」

「この新鮮さと品揃え、スーパーマーケットの概念が変わりますね。完全な無添加食品だけでなく、買いやすくて生産者に負担をかけない食材も並んでいて、日常使いできる店としてのバランスがすごくいい」と渡辺さん。自分が住む町や通勤駅にこんなお店があったらいいのに……と購入した食材を抱え、いざ自身のキッチンスタジオへ。

〈福島屋〉で購入したもの — B

野菜はすべて硝酸態窒素を計測。硝酸態窒素が低く味のバランスが良い農産物を販売している。❶パプリカ398円 ❷トウモロコシ250円 ❸ズッキーニ198円 ❹胡瓜194円 ❺茄子298円 ❻トマト100gあたり105円 ❼「オホーツクおこっぺ発酵バター・有塩」。サロマ湖の天然海水を窯で炊き上げた〝つららの塩〟を使用。125g 1,210円 ❽「丸和のきぬ豆腐」。国産丸大豆、沖縄の海水にがり100%使用。176円 ❾福島屋オリジナルの放し飼い有精卵。6個648円 ❿「丸和の油揚げ」。圧縮一番搾りの菜種油を使った肉厚の油揚げ。消泡剤無添加。3枚入り195円 ⓫「きあげ醤油二段仕込み」。もろみを搾ったままの〝きあげ醤油〟に、再度麹を仕込んで熟成させた福島屋オリジナル。360ml 621円

新鮮野菜と厳選調味料で作る
スペシャルな夏レシピ5品


1|粒々の“マスターネ”が味の決め手 ——「パプリカのマスターネ蒸し煮」

最初の1品は旬のパプリカで作る「マスターネ蒸し煮」。「マスターネは粒々の〝タネ〟が入ったマスタードです。大切なのはパプリカの切り方で、くたくたになりすぎないようやや大ぶりに切っておくと、食感がほどよく残ってマスターネの粒々ともよく合います」と渡辺さん。

蒸し上がったパプリカは少し冷ましてテーブルへ。ほどよくとろみのついたマスターネソースと絡めれば、肉厚パプリカのふくよかな甘みに、ほんのり酸っぱいマスタードの粒々が重なって、この洒落た味がテクニック要らずでできるなんて!とうれしくなる。「マスターネにあらかじめ木桶醤油が入っているので、これだけで味が決まるんです。カリフラワーや芽キャベツで作るのもいいですね」。

[材料]
パプリカ=2個 (B-❶)、にんにく=1片、マスターネ=大さじ2 (A-❷)、水=大さじ2、オリーブオイル=大さじ1、結晶塩=適量(A-❻)

[作り方]
① パプリカを縦半分に切り、タネとワタ、ヘタを取り除く。さらに縦4等分に切り(1つのパプリカを8等分に切る)、蓋のできる鍋に入れる。
② にんにくは皮を剥いて半分に切り、芽を取り除いて包丁の背で潰す。鍋に入れてオリーブオイルを回しかけ、塩をふたつまみ振り入れる。
③ 中火にかけ、かき混ぜながら炒める。パプリカから水が出てきたら、マスターネ、水を入れてかき混ぜ、蓋をしてパプリカがくったりとするまで蒸し煮にする。途中でかき混ぜ、焦げそうなら水を足す。約30分。
④ パプリカがとろんとしたら、火を止め、味見をして足りなければ塩を加える。そのまま鍋の中で冷まし、常温で食べる。

[ポイント]
・弱火でじっくり火を通す。
・仕上がりの目安は、くたっと柔らかく、でもほんのり歯ごたえが残るくらい。
・熱々より少し冷めたほうがおいしい。

パプリカは、やや大ぶりにカットすることで、「くたくたトロトロなのにシャクシャク感もほんのり残る」仕上がりに。

プチプチしたマスタードの種をまるごと生かした“マスターネ”。木桶仕込みの醤油が入っているので、これだけで旨味や風味が出る。

2|香ばしくてパリパリ。おつまみにも ——「胡瓜と油揚げ、わかめふりかけの和物」

2品目は、サッと簡単に作れてお酒のつまみにもいい和え物だ。「胡瓜とわかめの酢の物という〝みんなが知ってるおいしさ〟を、少しだけバージョンアップしてみました」。いつもの味に、油揚げの香ばしさとコクが加わって、パリパリ、サクサク、箸が止まらない。「塩味と旨味のあるわかめふりかけは調味料としても優秀。旨味を出したい時に粉末の昆布茶を使うことがありますが、それと同じ感覚です」

[材料]
胡瓜=2本 (B-❹)、油揚げ=1枚 (B-❿)、わかめふりかけ=小さじ2 (A-❹)、米酢=大さじ1、水=大さじ1

[作り方]
① 胡瓜は表面のイボを包丁の背でこそげとる。両端を切り落とし、一口大の乱切りにする。ボウルに入れて塩ひとつまみを振り、混ぜておく。
② 油揚げは魚焼きグリルなどで表面を香ばしく焼き、一口大に切る。
③ 胡瓜のボウルに油揚げ、わかめふりかけを入れる。
④ 米酢、水を加えてかき混ぜ、30分ほど置いておく。器に盛り付ける。

[ポイント]
・味付けは〝ふりかけ〟と米酢だけ。
・まんべんなく味がからむよう、ボウルの中でよく混ぜる。

油揚げは両面に焦げ目がついてパリッとなるくらいに焼いてから、サクサクと切る。

米酢の代わりに黒酢やレモン汁でも。レンゲなどでしっかり混ぜて味をなじませるのがコツ。

3|極旨スープとふわふわ豆腐 ——「トマト豆腐」

渡辺さんの定番レシピを〝きあげ醤油〟でアレンジした豆腐料理。「きあげ醤油は塩味が控えめでとてもまろやか。器に盛り付けたまま蒸すため、見た目が崩れないのもポイントです。豆腐とトマトから出るスープがとてもおいしいので、汁ものの代わりにもなりますね」。蒸したてのアツアツをいただけば、醤油ソースがかかったトマトはじゅわりと甘く、豆腐はふわっふわ。器の中には透き通ったスープがたっぷりで、ごくりと飲み干さずにいられない。暑くて食欲がわかない日にもよさそうな、滋味深いひと皿だ。

[材料]
豆腐=1/2丁 (B-❽)、トマト=1個 (B-❻)、きあげ醤油=小さじ1 (B-⓫)、オリーブオイル=小さじ1、結晶塩=ひとつまみ

[作り方]
① 豆腐を器に入れる。トマトを乱切りにして豆腐の上に乗せる。
② 鍋に湯を沸かし、セイロなどで器ごと蒸す。約10分。
③ きあげ醤油とオリーブオイルをかき混ぜておく。
④ 蒸しあがったらセイロから取り出し、③の醤油ソースをかける。結晶塩をふる。

[ポイント]
・トマトは10分で火が通るよう、大きく切りすぎない。
・セイロがない場合は、深めのフライパンに水を入れて布巾を敷いた上に、器ごと置いて蓋をすればOK。
・アスパラやそら豆、トウモロコシ、スナップえんどうなど、季節の野菜でアレンジしても。

トマトは短時間で火がしっかり通るよう、一口大にカット。

器ごと蒸すのがポイント。「セイロは大きいものが断然便利」と渡辺さん。飲茶サイズの小さなセイロより、7寸(21cm)や8寸(24cm)のお皿が入るサイズのほうが使い勝手がいい。「蒸し板」と呼ばれるドーナツ型の受け板があれば、合わせる鍋は小さくてもOK。

4|燻製オイルを使った ——「焼き野菜の燻製バルサミコソース」

人を招く日にもぴったりのオーブン料理。「新鮮な野菜を焼くだけ。野菜がおいしければオリーブオイルと塩だけで十分ですが、そこに燻製の香りでひとひねり加えました」と渡辺さん。これはもう〝燻製バルサミコソース〟の圧勝! 燻製の香りがしっかりついたソースがホクホク野菜の甘みを引き立てて、やみつきになること間違いなし。

[材料]
ズッキーニ=1本 (B-❸)、トウモロコシ=1本 (B-❷)、茄子=2本 (B-❺)、オリーブオイル=大さじ2、燻製オリーブオイル=大さじ1(A-❺)、バルサミコ=大さじ1、塩=適量、結晶塩=適量(A-❻)

[作り方]
① ズッキーニ、茄子は大ぶりの乱切りにする。トウモロコシは皮を剥き、4cm長さの輪切りにする。
② ボウルに野菜を入れてオリーブオイルを回しかける。塩をふってかき混ぜ、全体になじませる。
③ オーブン皿などに野菜を入れ、200℃に予熱したオーブンで40~50分焼く。全体に香ばしい焼き色が全体についたら取り出す。
④ 燻製オリーブオイルとバルサミコを混ぜ合わせる。結晶塩を野菜にふる。

[ポイント]
・オーブンに入れて30分ほどしたところでいったん取り出し、焦げ具合を見ながら野菜の向きを変えておく。
・燻製バルサミコソースは食べる直前にかける。

オーブンに入れて30分ほどしたら焼き加減をチェック。まんべんなく焼けるよう野菜の向きを変えたら、さらに10~20分。

渡辺さんの仕事を紳士的に見守っているのは愛犬のジーノ。3歳になるラブラドールレトリバー。

5|ほんのり甘味を加えた ——「焼き豚カルボナーラ」

最後に紹介するのは、ベーコンの代わりに焼き豚を使うカルボナーラ。「味の濃いクリームソースには、太くて歯ごたえのあるショートパスタが合うと思います」。
おなじみのカルボナーラに、焼き豚の甘さと胡椒のフレッシュな辛みが加わって、新鮮なのにどこか懐かしい味わい。少量でも満足感のある、ぜいたくな逸品だ。

[材料]
焼き豚=50g (A-❸)、ペコリーノロマーノ=20g、発酵バター=5g (B-❼)、全卵=1個(B-❾)、リガトーニ=適量(ロングパスタを使う場合、約70g)、粒胡椒=小さじ1/2(A-❶)

[作り方]
① 焼き豚を一口大に切っておく。粒胡椒をキッチンペーパーで包み、叩き潰す。ペコリーノロマーノはすりおろしておく。発酵バターを湯煎、または電子レンジなどで溶かす。
② ボウルに卵を入れて溶き、焼き豚、潰した胡椒の半量、ペコリーノロマーノ、溶かしたバターを合わせ、かき混ぜておく。
③ 鍋にお湯を沸かし、塩を入れてほんのりとした味をつける。リガトーニを入れて、アルデンテに茹でる。
④ パスタを茹でている鍋の上に②のボウルをのせ、木ベラでかき混ぜてソースにとろみをつける。
⑤ パスタを網ですくって②のボウルに入れる。再び鍋の上で温めながらかき混ぜ、パスタにソースがとろりと絡みついたら器に盛り付ける。残り半量の胡椒をふりかける。

[ポイント]
・チーズはクラッシュタイプのチーズを砕いてもOK。パルミジャーノでもおいしい。

胡椒はホールのままキッチンペーパーなどにはさみ、瓶の底などで叩いてつぶす。「口の中で噛めるくらい粗めにしておくと、香りがはじけていきいきします」

小鍋に湯を沸かし、ボウルの底を湯気にあてながらかき混ぜる。「ボウルごと湯に浸けるのではなく、湯気でゆるやかに温めるのが本来の湯煎なんです」と渡辺さん。湯の中でボウルがひっくり返ったり、熱で卵液やチーズが固まってしまったりする心配もない。

さて、和え物や蒸し物からパスタまで、難しいテクニックは必要なし。とはいえ、覚えておくと良いことも。「たとえば、醤油やバルサミコとオリーブオイルを合わせる時は、とろっと乳化するまでよく混ぜる。〝だいたいこのくらいかな〝と思うよりも長くしっかり混ぜることで、おいしさが変わります。あるいは、胡椒はホールのまま買って、使う直前に叩いてつぶす。それだけで香りに存在感が出るんです。簡単なレシピだからこそ、小さな手間で味も仕上がりもぐんとよくなりますよ」

profile

渡辺康啓|Yasuhiro Watanabe
1980年鳥取県生まれ。2007年に料理家として独立。イタリア料理をメインとした料理教室や企業へのレシピ提供などで活躍中。2020年から始めたYouTube「せせチャンネル」は少ない材料とシンプルなレシピで意外なほどおいしい料理ができると話題。著書に『果物料理』(平凡社)『春夏秋冬 毎日のごちそう』(マガジンハウス)など。2024年には、食材と調理道具の店〈Cibo e Gino〉を東京・四谷にオープン。

cask 住所 東京都港区虎ノ門2-6-1 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー B1F 電話 03-6811-1381 営業時間 8:00~22:00 ※無休

福島屋 住所 東京都港区虎ノ門2-6-1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー B1F 電話 03-6273-3978 営業時間 平日8:00~20:00、土・日10:00~20:00 ※日曜定休