
数々のコラボレーションを展開し、常に話題を呼ぶ藤原ヒロシによる〈fragment design〉。その彼が、森美術館とタッグを組み、 “MORIBI”のオリジナルアイテムをディレクションした。展開するのは、フーディ、Tシャツ、コーチジャケット。モノトーンをベースとしたアイテムは、美術館のオリジナルグッズの範疇を超えたデザインに。そのアイデアは、どのようにして生まれ、どのようにデザインされたのか。森美術館のユニークなアーティストグッズを手掛けてきた開発担当者の松久壽子に、〈fragment design〉とのコラボアイテムができるまでの誕生秘話や製作の裏側ついて話を聞いた。
PHOTO BY SHIN KIMURA
EDIT & TEXT BY AKANE MAEKAWA

森美術館のミュージアムグッズの開発を担当する松久さん。〈fragment design〉とのコラボレーションで今回誕生したアイテムは、フーディ、Tシャツ、コーチジャケットの全3型7種類。
——藤原さんと一緒にミュージアムグッズを開発するに至ったいきさつを教えてください。
松久 はじまりは、HILLS LIFE DAILYの連載取材中の何気ない会話からです。海外の多くのミュージアムショップではオリジナルのフーディがグッズとして展開され、それがスタンダードになりつつあるけれど、森美術館では作らないの?という話題が持ち上がったそうで。これまで森美術館にはアパレル製品が無かったので、この機会にぜひという流れで相談に行き、プロジェクトが始まりました。
——フーディを作るということから始まったのですね。
松久 まずはフーディからでした。そこから、Tシャツに発展し、藤原さんからコーチジャケットも提案していただき、ある程度のボリュームになっていきました。展覧会のグッズとしてTシャツなどは作っていましたが、これだけのアイテム数をミュージアムのオリジナルとして作ったのは初めてのことです。
——デザインにあたって、美術館からのリクエストはあったのですか?
松久 話し合いの中からアイテムは決まっていきましたが、デザインに関しては特にリクエストはしていません。あえていうなら、S、M、L、XLのサイズ展開が欲しいということだけですね。アーティストとミュージアムグッズを開発するときに心がけていることは、自分が欲しいかどうかや、好きかどうかを一番の基準にしないようにしています。作家や、今回の場合ですと、藤原さんが伝えたいことを、届くような形に変えることが、自分の役割だと思い携わっています。森美術館は、海外からのお客さんも多く、美術館に来た思い出のひとつとしてグッズを買われる方もいます。ですが、せっかくアパレル商品を作るのなら、美術館のお土産として以上に、実際に着てもらいたいですし、着たくなるものにしたい。私たちが見ている森美術館のグッズではなく、美術館をよく観ていただいている藤原さんの視点で商品を作っていただけたら面白いのではないかと思いました。だからこそ、藤原さんには、思いっきりやっていただこうと。

藤原ヒロシによる〈fragment design〉が手がけた「MORIBI」のオリジナルロゴ入りフーディ。¥9,900
既存のものを別視点で見ることで呼び起こす新鮮さ
——藤原さんとはデザインをどのように詰めていったのですか?
松久 最初にアイデアが固まったのは、〈MAM〉のロゴデザインのフーディでした。森美術館は、英語表記では〈MORI ART MUSEUM〉。略して〈MAM〉と呼んでいます。これを使い、デザインをおこすことから始まったのですが、その話し合いの中で、「でも、〈MAM〉というより、一般的にはみんな略して“森美(モリビ)”と呼んでいるよね」と、ふと藤原さんが発言したことがありました。そして、次にあがってきたデザインをみると、そこには「MORIBI」というロゴができていたんです。
——そういわれると、“森美(モリビ)”と普通に呼んでしまっていますね。
松久 すごくシンプルなことですが、私たちでは全く思いつかないアイデアでした。私たちの中では森美術館や〈MAM〉が当たり前のことで、 “森美(モリビ)”という言葉を使ったことがなかったんです。おそらく自分たちでデザインをしていたら、ロゴのところに〈MORI ART MUSEUM〉と普通に入れてしまいます。「MORIBI」は絶対にできないことでしたね。
——「MORI BIJUTSUKAN」というロゴもありますね。
松久 そうなんです。さらにある日、「MORI BIJUTSUKAN」が出てきて驚きました。すっと馴染みながら異なる視点が見えてくる、藤原さんらしい遊びの効いたデザインです。ただ、これまでロゴを崩すことがなかったので、「MORI BIJUTSUKAN」とプリントしていいのか、「MORIBI」と自分たちで呼んでしまっていいのかドキドキしました。でも、同時にそのデザインにワクワクもしましたね。

Tシャツのバックサイドには「MORI BIJUTSUKAN」と〈fragment design〉のロゴ。

シンプルなコーチジャケット。美術館スタッフ用ではないが、スタッフも着たい!という要望もあるとか。コーチジャケット¥8,800
ストイックなデザインに込められたさりげない遊び
——フーディのバックサイドには、花のプリントがありますが、これは?
松久 「ハナミズキ」です。これも、ある話し合いの後、ふと送られてきたデザインでした。私たちがミュージアムグッズを作るときは森美術館やヒルズにちなんだ事柄を絵におこすことにこだわったりするとか、海外からのお客さんも多いのでその方たちにも響くようなアイテムができないかとか、そんな話をしていた時がありました。話の流れのなかで、六本木ヒルズの花や木の話題も出てきたのですが、その時は特に何もなく。ですが、その直後に突然「ハナミズキ」のデザインが送られてきたんです。

黄色のロゴをあしらった白のフーディの背中には、ハナミズキのデザイン。フーディ¥9,900
——ハナミズキには、何か意味が?
松久 六本木ヒルズ内に植えられている木の一種ですが、ハナミズキは六本木ヒルズが位置する「港区の木」でもあります。東京市からワシントン市に贈った桜のお返しとして大正4年に渡来し、国際交流の橋渡しになった木で、港区には街路樹として多く植えられているそうです。実は、私は知らなくて、藤原さんに教えていただきました(笑)。このデザインには、森美術館が港区にあることを伝え、国際交流の発信地であってほしい、そんな気持ちが込められているようです。直球ではなく、さりげなく意味を込めてきたところに、唸らされました。

藤原さんからふと送られてくるデザインに、様々な気づきがあり楽しんで製作に挑めたと話す松久さん。
——話し合いの中から、いつの間にかデザインへと発展させていくのですね。
松久 打合せの現場でデザインがどうこうということはなく、その話を受け、後からすっとデザインが送られてくる感じです。〈fragment design〉と〈MAM〉をミックスしたパッチも、ある時見たら、袖口に付けられていたり。サイズ展開の話をしたら、その次には、襟元のタグに、大きくS、M、L、XLの表記がデザインされていました。この時も驚きましたね。おそらく、私たちだったら、襟元のタグには美術館のロゴをいれてしまうかもしれません。しかも、シンボルカラーの赤を使っていたかもです。藤原さんとの作業は様々な気づきがあり、楽しかったです。仕上がりはとても藤原さんらしいストイックでミニマルなデザインですが、タグひとつにもこだわり、遊び心をくすぐるアイデアがさりげなく詰まっています。ちなみに、森美術館の正式ロゴも裾の裏側にさりげなく入っているんですよ(笑)

〈fragment design〉と〈MAM〉が合体したオリジナルパッチ。袖口にさりげなくあしらわれている。

襟元のタグには、シンプルにかつ大胆にあしらわれたサイズ表記が。

裾の裏側に付けられた森美術館の正式ロゴ。表にはステッチが施され、そこに何かがあることを示唆するひねりのデザインに。
——今後もアイテムは増えていくのでしょうか?
松久 まだローンチしたばかりなので、先のことは未定ですが、シリーズとして次の展開もできたらとは思います。
〈fragment design〉✕〈MORI ART MUSEM〉
今回制作されたオリジナルアイテムは、2023年6月21日より森美術館オンラインショップにて先行発売。7月半ばより森美術館ショップ(ウェストウォーク3階)店頭にて販売を開始予定。

これまで手掛けた奈良美智などのアーティストグッズを前にする松久さん。森美術館ショップ(ウィエストウォーク3階)にて。
藤原ヒロシ|Hiroshi Fujiwara
1964年三重県生まれ。DJ、音楽プロデューサー、ファッションクリエイター。fragment design名義でファッションをはじめさまざまなジャンルのクリエイティブ・ディレクションを行い、ストリートカルチャーに多大な影響を与えている。
松久壽子|Hiroko Matsuhisa
森美術館の開館当時よりミュージアムグッズの企画開発を担当。展覧会関連のグッズだけでなく、草間彌生や奈良美智など、アーティストとともに作ったオリジナルグッズも多数手がける。
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