TOWARDS A BAZAAR PARANOIA

ユナイテッドアローズ 新生の舞台裏 対談|鴨志田康人 × 片山正通

この秋、六本木ヒルズに、過去最大規模の面積を誇る新旗艦店をオープンしたユナイテッドアローズ。クリエイティブディレクターの鴨志田康人は、今までにないショップを作るため、店舗の内装ディレクションを片山正通に依頼した。店舗づくりを知り尽くす2人が見すえた、「わざわざ足を運びたくなるショップ」とは?

TEXT BY SHIGEO KANNO
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI
EDIT BY AKANE MAEKAWA

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強烈な個性が競い合う店

鴨志田康人 今回のユナイテッドアローズ六本木店は、売り場面積の広さも過去最大で、商品も特別な旗艦店という位置付けです。いろいろなものが入り混じってこそのセレクトショップですから、来店する度にワクワクする感じが欲しかったんです。だから、片山さんにお願いしました。

片山正通 「ユナイテッドアローズ26年の歴史を決して簡単に紐解くことは出来ない!」、今回の依頼を受けた時、真っ先にこの感情が頭をよぎりました。歴史があるお店を手掛けるというのは、非常に難しいものでした。売り場が広いということもそうですが、お店の作りが複雑なんです。そういう意味でも、面白くて難しいものでした。もちろん依頼を頂いた時には二つ返事でOKでしたよ。

鴨志田 通常、こういう仕事は、片山さんに基本お任せするスタイルが普通なんです。ですが、今回は、本当にがっぷり四つでお仕事ができました。僕も任せられない性格なもので(苦笑)。

片山 深夜のミーティングも何度かしましたしね(笑)。砕けた表現で言うと、僕のなかでは、例えるなら、ユナイテッドアローズの家をデザインするような感じだったんです。そこで、試行錯誤を繰り返して、今回のコンセプトを提案させていただきました。イメージしたのが、謎めいたマラケシュのバザールや、匂い立つイスラエルのアーケードでした。一つ一つの売り場が強烈に個性を持ち競い合い、シズル感を漂わせる。掲げたコンセプトは、『Bazaar Paranoia—妄想のバザール—』です。

鴨志田康人|YASUTO KAMOSHITA 1957年生まれ。ユナイテッドアローズ創業時からのメンバーであり、クリエイティブディレクターとしてバイイングから商品企画、店舗の監修まで幅広い役割を担う。自身の名を冠したレーベル「Camoshita UNITED ARROWS」は、2013年のピッティ・イマージネ・ウォモ賞を受賞。

鴨志田康人|YASUTO KAMOSHITA
1957年生まれ。ユナイテッドアローズの創業時からのメンバーであり、クリエイティブディレクターとして、バイイングから商品企画、店舗の監修まで幅広い役割を担う。自身の名を冠したレーベル「Camoshita UNITED ARROWS」は、2013年のピッティ・イマージネ・ウォモ賞を受賞。

訪れる度に発見のある面白さを表現

鴨志田 まさにそのバザールなんですね。そこでのカオスをお店の中にどう作るかというのがポイントでした。従来のお店作りでは、例えば、販売スタッフがお客様から見えやすいようにとか、レジ機能の利便性とか、サービスしやすい環境を優先して作ることが当たり前だったのですが、その手法だと店の作りがある程度フォーマット化されてしまうんですね。そうすると大概似たような店になってしまうんです。だから、今回は、従来の考え方を0に戻して新しいコンセプトのものにしました。極端に言えばお客様が店内で迷ってしまうぐらいの面白さを表現したかったんです。

片山 今はインターネットも発達していてわざわざお店に足を運んでいただくことが尊いですよね。だから、買い物という体験で楽しんでもらいたかったんです。

鴨志田 デザイナーズブランドの1ブランドのお店とはまったく意味合いが違いますからね。いろいろなブランドや要素があってそれを上手に調合してユナイテッドアローズという色にする。そのバランス感覚が大事ですね。

片山 すごく実験的な作りになっています。一度来店しただけでは把握できない面白さがあると思いますよ。

鴨志田 片山さんもおっしゃってましたが、バザールの面白さって一つ一つのローカルな魅力だと思うんです。例えばロンドンのアーケードのごちゃごちゃした感じは楽しいですよね。買い物をしに来たという貴重な体験ができると思うんです。それに、このお店は、オープンした時が完成ではないんです。あとからもいろいろ動けるようにもしてもらってますしね。

片山 ほんとそうですね。有意義な無駄みたいな場所もあえて作っています。抜けた壁なんかは、アートを飾るためだったりします。それが豊かさだと思うんです。本来は売り場効率なんかを意識するのですが、あえてアートを飾るだけのスペースにすることで、ユナイテッドアローズのアイデンティティが垣間見られると思うんです。

片山正通|MASAMICHI KATAYAMA インテリアデザイナー。ワンダーウォール代表、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。今年8月に、デザインのインスピレーションからプロセスまで多面的にプロジェクトを掘り下げた作品集『Wonderwall Casa Studies』がドイツから刊行された。www.wonder-wall.com

片山正通|MASAMICHI KATAYAMA
インテリアデザイナー。ワンダーウォール代表、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。今年8月に、デザインのインスピレーションからプロセスまで多面的にプロジェクトを掘り下げた作品集『Wonderwall Casa Studies』がドイツから刊行された。

文化を生み、発信するショップ

鴨志田 六本木は、六本木ヒルズができたことで、今までの六本木というイメージが変わってきていて、青山や表参道の魅力とも違った東京の中心という魅力が備わっています。ファッションも食も映画も揃っていて、消費者からも便利な街ですよね。大人から見てもすごくコンビニエンスな場所。うちのお店から見てもポテンシャルが十分に備わっています。

片山 そうですね。昔の雰囲気とはちょっと違って来ていて、観光スポットという感じだけではなくて、ナチュラルにインターナショナルな街ですよね。そういうゆとりのある人たちが行き交っているイメージ。目が肥えた人が多くて、逆に言えば商売をする意味ではすごくハードルが高くてプレッシャーもかかりますね。

鴨志田 ギラギラしたイメージではないんですよね。文化レベルも実は高いんです。これは、僕自身も体感していることです。お店が街を変えるという現象はよくありますよね。例えば、ローカルな場所にひとつのカフェができて、そこからカルチャーが広まったり。そういうことってすごく素敵ですし、このお店もそんな役割を担えたらいいなと思います。

時には、深夜までデザインミーティングが続いたこともあったという鴨志田さんと片山さん。最終段階のディテールまで妥協を許さない2人のこだわりが、ショップ全体に張り巡らされている。

時には、深夜までデザインミーティングが続いたこともあったという鴨志田と片山。最終段階のディテールまで妥協を許さない2人のこだわりが、ショップ全体に張り巡らされている。

〜対談を終えて〜

2フロアで構成された総売り場面積140平方メートルを超えるユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店には、世界中のメンズ、ウィメンズのブランドが揃う。ウィメンズフロアの京都の甘味処「ぎおん 徳屋」や、メンズフロアの「心斎橋リフォーム」など、このショップならではのスポットも充実し、来店するお客様をワクワクさせる買い物体験をさせてくれることだろう。4年後の東京オリンピックを控え、東京の街もさまざまな場所で様変わりしているが、このショップが、新しい六本木ヒルズの名所になることは疑う余地もない。街の魅力と共に買い物の楽しさを改めて思い起こさせてくれるショップにぜひ足を運んでほしい。

ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店