六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリーにて絶賛開催中の「創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.1 創刊〜1980年代、伝説のはじまり」。3回にわたって創刊から現在までの歴史を回顧する同展に合わせ、開発者・川田十夢(AR三兄弟・長男)が「私的ジャンプ論」を展開。第一回目となる今回は、VOL.1のテーマに合わせた「創刊から1980年代」の連載作品が社会に与えた影響について検証する。
TEXT BY TOM KAWADA
PHOTO BY TOMONARI COTANI
昭和51年生まれ。ずばり76世代にとっての「週刊少年ジャンプ」は、価値の総体である。1日でも早くジャンプを手に入れて、人気タイトルの世界観と方向性をいち早く把握。ごっこ遊びのルールを定め、ゲームマスターとして振る舞うのが小学校6年間の僕の仕事だった。せっかくの休み時間なのに、緻密な準備が必要だった。毎日のように締め切りがあった。やけに忙しかった。
いまだに物語に没入するための糸口を現実に実装することを仕事にしている。あの漫画の主人公みたいに最初から強くなったり賢くなったりできないものか。ノートに書いた通りのデザインで翼を広げて空を飛びまわれないものか。夢みたいに美しい情景がスマホから飛び出してこないものか。誰かの経験を尾行するみたいに再生できないものか。価値の総体としての「週刊少年ジャンプ」が、僕のなかで脈々と機能し続けている。
この感覚は、僕ひとりで完結するものではない。社会に与えた影響も計り知れない。これから2000字ほどのボリュームで、まずは創刊から1980年代の「週刊少年ジャンプ」について、書き起こしておきたい。
影が響くと書いて影響、自覚なき社会単位のジャンプ感覚
影響を受けたと自覚して言葉にできる範囲のものは、本当の影響とは言えない。個人単位ではなく社会という単位で捉えてみると、それは如実である。2005年に阿寒湖周辺で賛否両論とともに爆誕したまりもっこり、特にアナウンスされていないが『ついでにとんちんかん』と『シティハンター』から影響されていることは明らかだ。
フランス代表の主将まで務めたサッカー選手、ジダンは『キャプテン翼』の影響でサッカーを始めたとインタビューに答えたことがある。千原ジュニアの芸名の由来は『キャプテン』で、スピードワゴンのコンビ名の由来は『ジョジョの奇妙な冒険』、メイプル超合金のカズレーザーは『コブラ』の影響で金髪+赤い服というスタイルを貫く。
『聖闘士星矢』の影響を受けたと豪語する映画監督にタイタンの戦いのルイ・レテリエ監督がいる。確かにゼウス役のリーアム・ニーソンは白銀聖衣(シルバークロス)のような甲冑を身に付けている。
性別を越えていい影を落とす、個人単位のジャンプ感覚
結婚式の余興で、カラフルな腰巻とレオタード姿で妖気(陽気ではない)に踊る中年女性集団を見たことがあるだろうか。ミステリアスに感じるパッションフルーツ(若い人)たちも多いことだろう。補足しておく。あれも「週刊少年ジャンプ」で連載されていた『キャッツ♥アイ』という漫画の影響だ。謎の女怪盗集団キャッツアイを追いかける刑事が、また逃げられたと恋人に愚痴る。その愚痴った恋人は美人三姉妹の次女で、三人は女怪盗集団とまったく同じ名前の喫茶店を経営している。同じ名前なのに、刑事はまったく気がつかない。そんなミステリアスな展開に、少年だけではなく少女まで熱狂した。杏里が歌ったアニメの主題歌が流れると、あの頃の熱狂がダンスとともに呼び覚まされる。まだその現象を目の当たりにしていない人は、YouTubeで“余興”“キャッツアイ”と検索すれば確認できる。
ジャンプによって研ぎ澄まされた国際感覚
「週刊少年ジャンプ」が与えてくれた国際色は、カラー巻頭ページのように豊かである。なかでも『キン肉マン』の超人のフォルムと国籍は絶妙で、そこで培われた国際感覚によって助けられた場面がいくつもある。
たとえばドイツ出身のブロッケンJr.は、軍服を着ている。深々と被った帽子、ハーケンクロイツの刺青、父ブロッケンマンに対する尊敬はどこか国家への忠誠心のようなものを感じた。ラーメンマンは中国出身で、マスクマンとして復帰するときにはモンゴルマンとして登場。ウォーズマンはロシア(当時はソビエト連邦)出身で、ラーメンマンに致命傷を与えた張本人。外モンゴルが帝政ロシアの援助を受けて独立したという歴史を知るずっと前から、なんとなく関係があることを知っていたのは大きい。最近、イギリスとロシアの関係が悪化しているというニュースを見るたびに、頭に袋を被った若きウォーズマンを鞭打つバラクーダ(ロビンマスク)のことを思い出す。
メーカー勤務時代、多くの国々の担当者と片言の英語を介してやりとりした。会話に詰まると、決まってその国が生んだ超人の話をした。ブロッケンJr.は元気でやってるか。バッファローマンの折れた角は生えてきたか。タイルマンはさすがフランス出身だけあってシンプルな造形だな。ベンキマンが古代インカ出身という設定は秀逸。テリーマンとスペシャルマンとペンタゴンを生み出したアメリカは、いつだって正しいけど少しダサいよな。日本語圏でも通じないようなコアな話題でも、国際的な場所では良い方向に機能した。
やがてスタンドの時代を迎えるジャンプ
ここですでに1938文字を使ってしまった。いまの僕は現実を拡張する開発者を生業としているが、大人になってからの仕事の影響まで書くことができなかった。『ウイングマン』のドリムノートはコンパイル前のソースコードみたい。AR三兄弟のデビュー作は『ど根性ガエル』と同じTシャツネタだったことを前置きして、『ジョジョの奇妙な冒険』でスタンドが本格的に登場する1990年代に話題が及ぶ前に、この連載の筆をいったん置くことにする。先生の次回作にご期待ください。
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創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.1 創刊〜1980年代、伝説のはじまり
期間 〜10月15日(日) 時間 10:00〜20:00(平日/最終入館19:30)、9:00〜21:00(土日祝および8月18日(金)/最終入館20:30) ※9月30日(土)は「六本木アートナイト2017」開催に伴い、22:00まで開館時間延長(最終入館21:30) 料金 一般/学生 ¥2,000、高校生/中学生 ¥1,500 など 会場 森アーツセンターギャラリー 公式HP shonenjump-ten.com
川田十夢|Tom Kawada
1976年生まれの開発者。公私ともに長男。基本月曜日が発売日の「週刊少年ジャンプ」、となり町の酒屋で金曜日に発売しているのを発見。いち早く物語の続きを知って、調布第二小学校のごっこ遊びにインストール。その甲斐あって、ゲームマスターとして君臨。「週刊少年ジャンプ」で『ドラゴンクエストⅢ』の懸賞に当たったこともあり、そのときも発売日前からゲームをやり込んでクリア。発売日に友達に譲って伝説となる。やがて通りすがりの天才と名乗り、毎週金曜日22時からJ-WAVE「INNOVATION WORLD」を放送、「WIRED」日本版と「TVBros.」で連載を続けることになる。
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