ロンドンを訪ねたことがあれば、迷路のような街中で行き先が分からず途方に暮れた経験は1度や2度ではないはず。そんな不満を解消したのがapplied wayfindingが手がけた歩行者用道案内システム「レジブル・ロンドン」だ。その工夫と効果とは? 開発を担当した道案内のエキスパートふたりに聞いた。
TEXT BY MEGUMI YAMASHITA
PHOTO BY HARUKO TOMIOKA
Image Courtesy of Applied Wayfinding
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——システム「レジブル(読みやすい)・ロンドン」を開発された経緯をお聞かせください。
ティム・フェンドリー 始まりは10年ほど前に遡ります。ロンドンには世界中から年間約2,700万人が訪れ、交通渋滞も深刻です。ならば歩行者フレンドリーであるかといえば、実際には中心エリアだけでも32種類の標識や地図がある上に、45%もの人が地下鉄路線図を頼りに街をナビゲートしていたんです。そこでわかりやすい歩行者用道案内システムの必要性を強く感じました。
リチャード・シモン 調査してみると人々の移動の55%は1マイル以下。つまり徒歩にして15分以内です。つい地下鉄などに乗ってしまいますが、運行所要時間が3分でも、駅構内を歩く時間や待ち時間を入れると実際には12.5分かかります。これなら歩いた方が早いですよね。
——こうしたデータを元に行政に陳情したと。
シモン ええ、2年以上かかりましたが。ちょうどオリンピックを控えていたので、世界一歩行者がナビゲートしやすい街にしよう!となって、交通局や市長などのバックアップを得ることができました。
フェンドリー リサーチや陳情は困難でしたが、デザイン作業自体はスムーズでした。実物大のプロトタイプを作って街角に立ち、通行人の反応を確認しながら、300回近く改善を重ねています。ほぼ妥協のないシステムを作り上げることができました。
——ロンドンは通りに名前があるので、日本に比べて地図で住所を探しやすいのでは?
フェンドリー 道の名前というのは案外覚えられないもので、それに代わって頭に入りやすいのは目立った建物などのランドマークです。これらは立体的なイラストで地図に入れています。徒歩5分圏を円で囲んだ狭域地図と、徒歩15分圏を円で囲んだ中域地図の二つを表示し、通りのインデックスや近くの主要施設への所要時間のリストも付けました。
シモン これを見て、なーんだ、こんなに近かったんだ!というユリイカ的発見をする人も多いんですよ。ついでに大英博物館にも寄っていこうといった具合に、ロンドンをより楽しんでもらうことも目的です。
——その他の工夫は?
フェンドリー この形式(ページトップの写真)の場合、今、南に向かって見ているので地図も上方が南です。裏側に立てば北に向かっているので、上方が北。つまり表と裏とで地図が180度回転しています。立った位置を中心にした案内地図ですね。
色はイエローとクロで統一して、バス停、レンタル自転車、駅などの標識にも同じシステムが導入されつつあります。各行政区でもこのシステムを使えばロンドン市が資金援助をする方針なので、少しずつ拡大中です。現在、この道案内標識だけでも約1,600箇所に設置されています。
——オリンピック会場周辺の案内図は?
シモン そちらはオリンピックのロゴなどグラフィックのテーマ色と統一して、ピンクを基調にしていますが、基本システムは同じです。
——2020年の東京オリンピックでも導入できるでしょうか?
シモン もちろん! バンクーバーやリオデジャネイロ、ソウルなど、世界各都市からも依頼があり、同様のシステムが導入されています。東京は外国人にはとくにナビゲートしにくい街ですからね。六本木ヒルズは見つけられても、そこからどうやって秋葉原に行ったらいいのか。結局タクシーに乗っちゃいましたよ。
今はスマホを手に歩く人も多いし、私たちもアプリを開発中なのですが、スマホを見ながらだと街の魅力に気付きにくい面もありますからね。
シモン ロンドンでこの標識システム導入した経済効果は、1ポンドの投資に対して7ポンドと算出されています。歩くことは環境にも健康にも良いだけでなく、街自体の活性化にもつながるんですよ。
applied wayfindingアプライド・ウェイファンディング|applied wayfinding
道案内のエキスパート、リチャード・シモン(左/プランニング・ディレクター)とティム・フェンドリー(右/クリエイティブ・ディクレクター)。撮影中も絶え間なくやってくる標識利用者に的確な道案内を指南する。同様のシステムを世界各都市に普及させていることが認められて、女王陛下よりエンタープライズ賞を授与されたばかり。
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