特集虎ノ門ヒルズ ステーションタワー

TOKYO NODE IS THE FUTURE OF TOKYO

建築家・重松象平と写真家・蜷川実花が、虎ノ門ヒルズから見渡す“東京”の未来

今秋10月6日(金)に開業する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの最上部には、まったく新しい情報発信拠点「TOKYO NODE」がオープンする。実はこの施設、ビルの設計を担当した建築家の重松象平の提案をきっかけに、森ビル側が一丸となって企画を詰め、両者で幾度となくセッションを重ねるなかでついに実現したものだという。世界中で数多くのプロジェクトを手掛けてきた重松は、なぜ高層ビルの上部に情報発信拠点を据えようと考えたのか。TOKYO NODEで自身の個展を予定している写真家・蜷川実花と同施設をプロデュースする森ビル 新領域企画部の杉山央とともに、虎ノ門から東京の未来を考える。

TEXT BY Shunta Ishigami
PHOTO BY Mie Morimoto
illustration by Adrian Johnson

杉山 今日は10月6日(金)に開業する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーと、その最上部にオープンする情報発信拠点「TOKYO NODE」についておふたりとお話できたらと思っています。早速なのですが、今日蜷川さんは間違えて六本木ヒルズに行ってしまったらしいですね(笑)

蜷川 すいません! 森ビルさんの取材と聞いてなぜか六本木ヒルズだと思いこんでしまったみたいで……(笑)

杉山 まさにこの出来事が今日のテーマともつながると思っています。虎ノ門は、これまでビジネス以外の方にはあまりなじみのない街だったかもしれませんが、ぼくたちは虎ノ門ヒルズ ステーションタワーを通じて街のイメージを変えていきたいんですよね。

重松 象徴的なエピソードになりましたね(笑)

虎ノ門に「東京」を象徴する場をつくる

重松象平|Shohei Shigematsu Office for Metropolitan Architecture(OMA)パートナー/NY事務所代表。代表的なプロジェクトに中国中央電視台(CCTV)新社屋、コーネル大学建築芸術学部・新校舎、ファエナ・アーツ・センター、サザビーズNY、ニューミュージアム新館、ケベック国立美術館新館ほか。先頃は東京都現代美術館「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の空間設計が大きな話題に。

杉山 まずはTOKYO NODEの構想について重松さんとお話したときのことから振り返ろうと思います。最初に重松さんとこのプロジェクトについて話したのが2015年だったので、もう8年も前ですね。その時に虎ノ門ヒルズ ステーションタワーのデザイン案を伺って、ワクワクしたことを覚えています。

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1/6重松象平+OMA NYの代表作 ❶「Tiffany Landmark」(2023)Photo by floto+warner
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2/6重松象平+OMA NYの代表作 ❷「Audrey Irmas Pavilion」(2022)Photo by Jason O'Rear
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3/6重松象平+OMA NYの代表作 ❸「Christian Dior Designer of Dreams at MOT」(2022)Photography by Daici Ano Courtesy Dior
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4/6重松象平+OMA NYの代表作 ❹「Buffalo AKG Art Museum」(ONGOING) Photo by Marco Cappelletti
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5/6重松象平+OMA NYの代表作 ❺「Pierre Lassonde Pavilion」(2016) Photo by Iwan Baan
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6/6重松象平+OMA NYの代表作 ❻「121 East 22nd Street」(2016) Photo by Laurian Ghinitoiu

重松 虎ノ門ヒルズ ステーションタワーのコンペについてお話をいただく前から、高層ビルのあり方については考えていました。商業施設だけでなく美術館などさまざまな機能が3次元的に積み上がっていく六本木ヒルズのような大規模複合施設は、高層ビルの理想を体現していますが、他方で一度六本木ヒルズのようなモデルができると同じような建物ばかり増えてしまう。同じような建物が増えると、同じような体験しか得られない街になってしまいます。再開発を通じてどうやってエリアの特徴を表現できるのか、建築家としてはデザイン力だけでなく企画力が求められると思っていました。TOKYO NODEの当初の企画では「メディアテーク」という言葉を使っていたのですが、商業やアートだけでなく、テクノロジーやビジネス、メディアが混じり合うような施設を提案していました。

蜷川 その空間自体が「東京」を象徴する場所になりそうですよね。

重松 虎ノ門ならば政府系の方々も来るし、ビジネスやテックの人も集まる。TED TOKYOを行うならここしかないとみんなが思うような場所になってほしくて。虎ノ門というエリアにはまだ強烈なアイデンティティがなかったこともあり、そんな場所があった方が面白いのではないかと思ったんです。

「消費」ではなく「創造」を加速させる

蜷川実花|Mika Ninagawa 写真家、映画監督。写真を中心として、映画、映像、空間インスタレーションも多く手掛ける。木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。2010年Rizzoli N.Y.から写真集を出版。『ヘルタースケルター』(2012)『Diner ダイナー』(2019)はじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』を監督。最新写真集に『花、瞬く光』。クリエイティブチーム「EiM:Eternity in a Moment」の一員としても活動している。

蜷川 TOKYO NODEがアイデンティティをつくっていくと面白いですよね。個人的にもこれまで虎ノ門とは接点がなかったんですが、このビルができあがることで多くの人が街に参加してくれるようになるんじゃないかな、と。六本木のイメージも六本木ヒルズを通じて大きく変わりましたよね。

杉山 たしかに六本木って昔は賑やかな“夜”の街でしたが、六本木ヒルズができてアートの街になりファミリーがより暮しやすい街にもなりましたよね。

蜷川 当時は人が住むエリアというイメージはありませんでしたし、外国の方が多くて中高生が来る街ではなかった。でも20年経って大きく街のイメージが変わったわけで、同じように虎ノ門が変わっていくのかと思うとドキドキします。

桜田通りを挟んで建設中の虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(奥)とグラスロック(手前)。両者をT-デッキが結ぶ。

杉山 虎ノ門に限らず、森ビルはコンパクトシティをひとつの理想としています。ひとつのエリアに働く場所や住む場所、楽しむ場所がまとまっている状態が豊かな生活をつくると考えているわけです。重松さんが言うとおり、虎ノ門はビジネス街のイメージが強いですが、そこにエンターテインメントやホテル、ショッピングなど複合的な機能を加えていきたいですね。それだけでなく、都市はコミュニケーションプラットフォームであるべきだと思っています。さまざまな人々と交流しながらアイデアや発想力を生み出せる場所をつくっていくことが重要なんです。

重松 商業ビルって消費のための空間というイメージが強くて、そこからイノベーションやアイデア、交流が生まれるとは思えません。消費を促すだけでコンテンツを生み出したり発信したりする機能がないと、建物も廃れてしまうでしょう。

蜷川 消費だけだと空間が閉じてしまいますよね。用事がある人しか来なくなってしまう。

重松 もっとも、高層ビル、とくに高層階を街へ開いていくのはロジスティクスの面で難しい点が多いことも事実です。今回の企画を提案したのは、森ビルさんならこの問題意識や意図をわかってくれるし、実現できる力があると信じていたからでした。

杉山 以前重松さんとも話したのですが、TOKYO NODEを通じて都市の中へ新鮮さを提供したいんです。たとえば情報発信拠点があっていろいろなイベントが日・月ごとに入れ替わっていけば、都市のイメージも新鮮に保たれていくと思っていて。

蜷川 ビルの新陳代謝を上げるのって難しいですよね。規模が大きいとなかなか変わりづらい部分もありますし、特に高層ビルって女性からすると自分たちとは関係のない空間のようにも思えてしまう。でもTOKYO NODEのような規模なら私もワクワクしてくるし、そんな場所を実際につくってしまうのが森ビルさんの底力でもあるのかな。

日常の中の非日常空間が生み出す交流

虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの全景。

杉山 具体的な施設の中身についてもお話できたらと思います。1月の発表以降たくさんの反響をいただいているのですが、驚かれるのは、高層階にホールやエキシビションスペースがあって屋上にプールとガーデンがあるなど、さまざまな用途の空間が集まっていることです。重松さんはどんな意図で空間の機能を考えていったんですか?

重松 世界中のさまざまな事例をリサーチするなかで、エキシビションスペースとイベントスペースと交流スペースの3つがあるとカンファレンスも実施しやすいし需要も大きいことがわかりました。その3つを配置することで、トライエフェクトを起こせるのではないか、と。こうしたスペースをひとつのイベントで使えるだけでなく同時に多様なイベントが起きてる状態もつくれるなど、フレキシビリティが高い施設って意外と少ないんです。

蜷川 屋上にプールやガーデンがあるのも楽しそうです。昔のデパートの屋上って観覧車があったりしてワクワクしましたけど、最近は楽しい屋上のイメージが少なくて。

重松 以前から、高層ビルの屋上空間がきちんと活用されていないと思っていたんです。しばしばシンガポールやニューヨーク、LAと異なり日本人はルーフトッププールなんて使わないと言われることもありますが、たとえ泳がなかったとしても交流の場があって水と緑があれば、ワクワク感や非日常性を高められるはず。インフィニティプールに入って皇居を見下ろすのは日本っぽくないかもしれませんが、新鮮な体験になると思います。

杉山 屋上にインフィニティプールをつくるのは技術的にもめちゃくちゃ大変でしたね……。

重松 地震が起きた際に水が揺れを助長してしまう可能性もあるし、こぼれた水が下に落ちて事故につながる可能性もありますからね。何度も諦めかけましたが、森ビルさんが実現しようと言ってくださったのは心強かったです。

杉山 お金もかかるし安全性のハードルも高くて。でも、このプールはたとえ時間が経っても色褪せないと思ったんです。しかも高層ビルという日常空間の中にインフィニティプールという非日常空間があって、そのまわりにアイデアや専門性をもった人々が集まるのはTOKYO NODEを象徴する景色にもなるはずだと思っていました。

東京とは掴みどころのない都市

杉山央|Ou Sugiyama 森ビル株式会社 新領域企画部。学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社へ入社。2018年「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」室長を経て、現在は2023年に開業する文化発信施設の企画を担当している。一般社団法人Media Ambition Tokyo理事。2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター。祖父は日本画家・杉山寧と建築家・谷口吉郎、伯父は三島由紀夫。

杉山 まさに今さまざまなプロジェクトが並行して進んでいる状態なので、バタバタではありますがとにかく刺激的です。

重松 忙しいのはいいことですけどね。杉山さんが忙しいと東京で面白いことが起きると思っています。杉山さんはリトマス試験紙だから(笑)

蜷川 軽やかだよね。でもこんな大きなものを軽やかにつくっていけるって素晴らしいですよ。

杉山 重松さんからのご提案を受けて実現する大きなプロジェクトだと思うので一緒にがんばりたいです。

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1/5タワーの高層階に誕生する、イベントホール、ギャラリー、レストラン、屋上ガーデンなどが複合するまったく新しい情報発信拠点。ビジネス、アート、テクノロジー、エンターテインメントなどの領域を超え、リアルとデジタルの垣根を超えた発信ができる舞台となる。
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2/546階にあるメインホール「TOKYO NODE HALL」。皇居を臨む東京の眺望を背景に、全世界に向けた発信ができる。リアルの会場とヴァーチャル配信をハイブリッドで行うようなXR時代を想定した最新のホールとなる。
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3/5GALLERY 360度の没入感を演出できるドーム型天井の「ギャラリーA」、1,000㎡を超える大空間の「ギャラリーB」、天高12mの「ギャラリーC」など、それぞれのギャラリーの特徴を活用することでアートの展示から体験型展示まで幅広いイベントに対応することができる。
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4/5SKY GARDEN & POOL 地上250mという都内随一の高さにあるオープンエアガーデンとインフィニティプール、世界トップレベルのシェフが手がける2つのレストランを配する屋上では、ファッションショーやパーティなど様々なイベント開催が可能です。東京を見渡せる、唯一無二の環境を提供する。
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5/5TOKYO NODE LAB クリエイターとの研究・共創の場として開設されるラボ。XRライブ配信が可能なボリュメトリックスタジオを備え、新たな都市体験やコンテンツを創出するプロジェクトが計画されている。TOKYO NODEは単なる施設ではなく新しいものを生み出す「組織」であり「活動体」でもある。©Canon Inc.

重松 最大級のプロジェクトですよ(笑)。もちろんぼくの代表作のひとつになると思っています。

蜷川 素朴すぎる質問なんですが、こんなに大きなものをつくるってどういう感覚なんですか? 高層ビルや大きな複合施設ってめちゃくちゃ多くの人が関わっているし、責任も重大じゃないですか。

重松 都市のコンテクストや与えられた条件をうまく整理することが重要で、形態的なデザインはあくまでも最後の方に問われるものだと思っています。もちろん責任を意識すると怖くなってしまうこともありますが、何千人という人々が関わっているということは、ぼくが少し間違っても修正してくれる人がいることでもある。自分としては気負わず取り組めていると思います。

蜷川 大きなプロジェクトになればなるほどそうですよね。重松さんにとって東京や都市の面白さってどこにあるんですか?

重松 ぼくは福岡の大学を出てオランダに渡ったので、これまで東京に住んだことがないんですよね。だからこそ客観的に見られる部分もある。そんな立場からすると、東京の面白さって3次元的な体験にあると思います。いろいろなスケールのものが混在しているし、時代も入り混じっていて、ニューヨークよりも3次元的だなと。何度来ても新しい発見があるような、何十年住んでも理解できない懐の深さを感じますね。

蜷川 私は逆に東京にしか住んだことがないんですけど、たしかに東京には掴みきれない何かがある気がします。ミクロとマクロで見えるものが違うし、ヌルヌル移り変わっていく。東京の面白さを聞かれてうまく応えられないのも、その掴みどころのなさに要因があるのかも。

杉山 ヌルヌルと時代や社会が移り変わっていくなかで、TOKYO NODEをこれからの東京を代表するような場所にしていきたいですね。今後もおふたりとはどんどんコラボレーションしていけたらいいなと思います。

TOKYO NODE 開館記念企画 第二弾
“蜷川実花展 : Eternity in a Moment”

 
写真家・映画監督の蜷川実花がクリエイティブチームEiMとして挑む、圧倒的スケールの空間体験型の展覧会。
 
開催期間=2023年12月5日(火)〜2024年2月25日(日)
開催場所=TOKYO NODE 45F GALLERY A/B/C
主催=TOKYO NODE