Neue Fruchtige Tanzmusik

フルーツが奏でるメメントモリ|輪廻転生——毛利悠子 個展@YKG

レディメイド、ファウンドオブジェ、自作の仕掛け。それらを使って毛利悠子はときに痛々しいほどのアナログで、ときに取りすましたデジタルで独自の運動体をインスタレーションしてきた。今秋Yutaka Kikutake Galleryで行われた個展では、実物のフルーツの目に見えない微細な変化を音として抽出する。朽ちていくフルーツが諭すのは生命や永遠や輪廻転生か——。本人に話を聞いた。

TEXT BY Yoshio Suzuki
Photo by Osamu Sakamoto
Courtesy the artist, Yutaka Kikutake Gallery, Tokyo,
Project Fulfill Art Space, Taipei
and mother’s tankstation, Dublin/London.

「20年くらい前、大阪在住のアーティストの梅田哲也さんに声をかけられて、大阪の日本橋という、東京でいえば秋葉原のような電気街で『テクノポリタン・ミュージアム』という電気をテーマにした展覧会に参加したことがありました。ジャンクになった電子パーツをタダ同然で使わせてもらったのですが、私はその中でも抵抗器に着目して。抵抗器って、それぞれの抵抗値をカラーバーで表していてカラフルなんです。その彩りがフルーツと通じるな、フォルムが野菜に近いな、なんて思って、野菜の抵抗値を測って抵抗器のようにカラーテープで数値を示し、電子パーツ屋で野菜を売るという作品をつくったことがありました。そもそものアイディアはその頃から変わっていません」

毛利悠子 “Neue Fruchtige Tanzmusik” 展示風景

「フルーツは静物画の代表的なモチーフです。それは肖像画のモチーフである生身の人間と対比すると、一見静止しているように見えるけれど、電気的な数値を測ってみると実はゆっくりと変化している。腐っていってるし、乾燥で水分量が変わっているので、電流を流せば抵抗値が驚くほど止まらない、安定しない物体なんです。

私は普段、インスタレーションを現地に行ってつくるタイプの作家なのですが、コロナ禍でほとんどの展覧会が中止やオンライン展になってしまって、さてこれからどうしたものかとなったときに、香港の大館當代美術館(タイクン・コンテンポラリー)という美術館のキュレーターに『悠子、リモートで作品つくって』と言われて。

自分で現場に行って完成させる作品ばかり制作していたから難しい注文だったけれど、生きている自分の代わりにせめて何か生きているものを……と考えて。フルーツだったら世界中どこでも手に入るから、これを自分の身代わりにしてインスタレーションをつくれないかということで、作品のアイディアを思いついたんです。

世界がコロナ禍に見舞われる直前、ものすごく忙しい時期が続いていて、この1年無事に乗り切れるかとまわりから心配されるほどでした。そんな中、突然すべての時間が止まってしまって、自分が今、興味があるものはなんだろうってあらためて考えたんです。自分のアートプラクティスのルールを変えなきゃいけないな、と。展覧会が無くなったら作品はつくらないの? そんな理由でつくらないのはアーティストとして変だし、締め切りがあるから作品をつくるというのも違うよね、という感じになった」

毛利悠子 “Decomposition” 2022(部分)

「そこで、自分の生活圏の中から作品をつくるということに意識を入れ替えました。コロナ禍になってすぐに琵琶湖北部の山小屋に避難していたので、湖畔の音をフィールドレコーディングしたり、鳥のさえずりを音声変換で文字に変換する実験をしたりしてました。そんなふうにしていくつかの新作ができあがって。

そもそも私がアートをやりたいと思いはじめた2000年前後は、どちらかというとコンテンポラリーアートよりも、エクスペリメンタルミュージックなどが流行っていて。ちょうどデジタル化で機材が安くなって、みんな手軽に録音・編集してユニークな音楽表現がたくさん生まれた時代。それと同時に、出身が神奈川県藤沢なので、近所の神奈川県立近代美術館で澁澤龍彦や瀧口修造の作品、小杉武久さんの展覧会を見たり。それだからなのか、自分の中で一番親近感があるアートというのは、サウンドアートとか実験的表現みたいなところなんです。

今年、久しぶりにヨーロッパに3カ月ほど滞在していたのですが、そのあいだBluetoothスピーカーやiPodでしか音楽が聴けない状況が続いて、なんかもう飽き飽きして途中からほとんど音楽を聴かなくなっちゃったんです。聴く音楽もApple Musicの配信で、好きな音楽を好きな状況で聴けるのはたしかに便利だけれど、私はなんでいつの間にかこんなにカリフォルニアに身を委ねてしまっているんだ、と」

LP作品 “Neue Fruchtige Tanzmusik(vinyl)”, 2022 展示スペース内のターンテーブルで実際に音を流してもらうこともできる

「昔はCDとかレコードをめちゃくちゃ買っていて、そういうふうに、もう一度自分のセレクションで音楽を聴きたいという欲求が高まって。帰国してから、オーディオアンプやスピーカーをあらためて揃えたんです。自分のスタジオで大音量で音を流すのと、配信された音楽をBluetoothで聴くのとは、やっぱり全然違う体験でした。今回展示している作品もそんなオーディオ収穫物のひとつだったりします。

でもこれ、自分では単純なアナログ回帰ではないと思っていて。だって時代は進んでいるでしょう? どちらかというと、今この時代にアナログの電気の感触をどうやって感じられるか。友だちから『毛利さんってオーディオ好きだけど、音楽を聴くときってどんな感覚なの?』と聞かれて、『正直なところ、私、電気を聴いてる』って答えたんです。電気の音を聴きたくて音楽を乗せている、という感覚」

毛利悠子 “Decomposition” 2022

「今回の展示で、ヴィンテージのオーディオを使ってやりたかったことは、普通には見えてこない電気の揺らぎ——フルーツだって電気が通っているわけで、その電気の揺らぎを見たかったし、聴きたかったんだなと。それが一番やりたいことでした」

毛利悠子 “Decomposition” 2022

「仕組みとしては、フルーツに電極を2本刺して電気を流します。で、電極がつながっているマイクロコンピューターから常に抵抗値を計測する指令が出ていて、コンデンサーに蓄電していって、そこにある程度溜まったら、放電して音に変換する。バナナに差してみると……こういう音がします。ブドウの粒に差すと、めっちゃ高い音が出る。抵抗値が高いと高い音程が鳴るんです。つまり、バナナよりもブドウのほうが抵抗値が高いんだと思います。バナナは房のどこに電極を刺しても電気が通るけど、ブドウは同じ粒に電極を2本とも刺さないと電気が通じない。枝の部分の抵抗値が高すぎるんでしょうね」

毛利悠子 “Decomposition” 2022

「今年、しばらくパリに滞在していたので、セザンヌの絵をけっこう見に行ったんです。あらためて見ていて、あれれ、これきっと腐ってる果物の色だよなって気づいた。フルーツ盛りといえばフレッシュで美味しそうなものと思い込んでいたけど、静物画のフルーツだって決していつでもフレッシュな状態なわけではないよな、と。そういえば日本の仏画には、人間が死んで屋外に捨てられた死体が朽ちていく様子を描いた『九相図』ってのもあるな、なんて連想をしたりしました」

 

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1/2毛利悠子 “Neue Fruchtige Tanzmusik (photo) #1” 2022
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2/2毛利悠子 “Neue Fruchtige Tanzmusik (photo) #2” 2022
 

「『九相図』を参照しているといっても、“末期の眼”で眺めたこの世の美しさとか、“歴史の終わり”の視点から生の尊さを表現したいのではないし、そこに静物画を対置して“芸術として永遠の生を勝ち得る”みたいなことを言いたいわけでもない。私の場合、あらゆる事物は変化するという『事象』に関心があるんです。アート作品でも、そのときどきでアーティストが表現を変えていくことにライブ感をおぼえるし、そういう展開がある作品に影響されています。結局、私がずっと興味をもっているのは、動きとかエネルギーの変化みたいな……大きなテーマとしては流動性なんです」

毛利悠子「Neue Fruchtige Tanzmusik」

毛利悠子 “Neue Fruchtige Tanzmusik” 展示風景
会期=2022年11月2日(水)〜12月3日(土)※会期終了
会場=Yutaka Kikutake Gallery(ピラミデ 2F)
 
毛利悠子|Yuko Mohri
1980年生まれ。現在は東京を拠点に活動。近年の主な個展に「Parade(a Drip, a Drop, the End of the Tale)」(ジャパンハウス サンパウロ、2021年)「SP. by yuko mohri」(Ginza Sony Park、東京、2020年)「Voluta」(カムデン・アーツ・センター、ロンドン、2018年)「毛利悠子:ただし抵抗はあるものとする」(十和田市現代美術館、青森、2018年)があるほか、「第23回シドニー・ビエンナーレ」(シドニー)「第34回サンパウロ・ビエンナーレ」(サンパウロ)「ヨコハマトリエンナーレ2014」(神奈川)など国内外の多数の展覧会に参加。作品は、東京都現代美術館(東京)、⾦沢21世紀美術館(⽯川)、京都国⽴近代美術館(京都)、クイーンズランド州⽴近代美術館(ブリスベン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、M+(⾹港)、アシュモレアン・ミュージアム(オックスフォード)などに収蔵されている。2015年に日産アートアワードグランプリ、2017年に第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

profile

鈴木芳雄|Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。明治学院大学非常勤講師。雑誌「ブルータス」元・副編集長(フクヘン)。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。雑誌「ブルータス」「婦人画報」「ハーパーズバザー」などに寄稿。