FROM A PIXEL TO THE WORLD

ピクセルアーティスト・バウエルジゼル愛華は、小さな「ピクセル」で大きな世界をつなげる

弱冠16歳にして「SHIBUYA PIXEL ART」の優秀賞を受賞したアーティスト、バウエルジゼル愛華。モデルとしても活動する彼女は、テレビ番組のロゴデザインを手掛けるなど近年はさらに活動の幅を広げている。Z世代の彼女は、古くて新しいピクセルアートをどう捉え、どこに魅力を見出しているのか。森ビル 新領域企画部の杉山央が、その創作の根源にあるものや彼女が創作の先に見る未来を尋ねた。

interview by Ou Sugiyama
Text by Shunta Ishigami
Photo by Kaori Nishida

 

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5/5「SHIBUYA PIXEL ART 2021」の会場にて。

ブラジルから渋谷へ

——愛華さんは昨年開かれた「SHIBUYA PIXEL ART」というイベントで優秀賞を受賞されました。その際ぼくは審査員のひとりとしてたくさんの作品を見たのですが、ひときわ色彩が美しくて目を引いたのが愛華さんの作品でした。まず生い立ちから伺いたいのですが、愛華さんは小さいころブラジルに住んでいたんですよね?

バウエルジゼル愛華|Giselle Aika Bauer 高校2年生 ブラジル・ボネアリオ・カンブリウ出身。幼少期はブラジルで過ごし、小学4年生より日本在住。現在はモデル / アーティストとして活動中。将来の夢は、ファッションブランドとデザインコラボやゲームデザインをすること。

愛華 はい、10歳までブラジルに住んでいました。わたしが生まれたバウネアーリオ・コンボリウーというところは海がすごくきれいなところで、南米の人々が集まる観光地なんです。

——そのときに愛華さんの色彩感覚が培われたのかもしれないですね。当時から絵を描かれていたんですか?

愛華 絵を描くのは小さいころから大好きでした。小学生のときは誰にも負けたくなくて、暇さえあればずっと絵を描いていました。

——そのころはどんな絵を描かれていたんですか? 愛華さんの作品は現実の世界を描いているというより自分の中にある物語を描いているような印象があるんです。

愛華 当時は自分でキャラクターを考えて描いたりしていましたね。とにかく目立つ絵を描きたくて、カラフルな絵を描いていました。どんな色も好きなので全部の色を使えたらいいなと思っていて。

——でも、ピクセルアートは使える色に制約もありますし、だいぶ難しい気もします。なぜピクセルアートのようにデジタルな作品をつくるようになったんでしょうか。

愛華 もともと「マインクラフト」がすごく好きだったのでドット絵に親しみはありましたし、レゴやアイロンビーズのように小さなドットからオリジナルなものをつくれるのが面白いと思っていました。自分で作品をつくるきっかけとしては、2019年に「プログラミング少女」というYouTubeの番組に出演したときにドット絵やボクセルに触れてつくる楽しさを知ったんです。最初は粗い絵を描いていたのですが、描いているうちに楽しくなってきて、もっと上手くなりたいと思うようになって。番組で『はじめアルゴリズム』という漫画とのコラボでアプリゲームをつくることになったときも、わたしがドット絵でキャラクターをデザインしました。

——YouTubeの番組がきっかけだったんですね。そこから作品をつくるようになって「SHIBUYA PIXEL ART」にも応募された、と。

愛華 番組の企画が終わり、コロナウイルスの流行で学校も休みで夏休みもずっと家にいるしかなくて。修学旅行もなくなってしまって本当に悲しかったんですが、ある意味マイナスがチャンスになったというか。「SHIBUYA PIXEL ART」のことは以前から知っていて、自分はずっと観ている側だと思っていたんですが、作品を応募してみようと思ったんです。自分の好きなものやコロナ以前は毎日のように行っていた渋谷のイメージそのものを表現しながら、わたしのようにコロナ禍で苦しんでいる女の子の表情を描きました。

ピクセルアートから広がる世界

——受賞をきっかけにアートや作品との向き合い方も変わりましたか?

愛華 受賞したことでいろいろな方にお会いしたり展示会に行ったりする機会も増えて、世界が広がりました。国民的歌手のゆずさんの展示会に作品を出品させていただいたり、BS-TBSの音楽番組「Sound Inn S」のロゴを制作するきっかけをいただいたり。今回こうしてインタビューの機会をいただけたことにもすごくありがたいです。

——ほかのアーティストの作品から刺激を受ける機会も増えそうですね。

愛華 村上隆さんやタカノ綾さんの作品がすごく好きなんです。アニメも好きだしコスプレを見たりするのも大好きですし、バレエやクラシック音楽も好きで。『オペラ座の怪人』が好きで20回以上観ていますし、おばあちゃんが画家でバレエの先生もやっていたことも関係しているかもしれません。好きなものが多すぎるんですよね。

——最近行ったイベントで印象に残っているものは?

愛華 先日ニコニコ超会議にも行きました。コロナでオンライン開催が続いていたんですけど、今年は会場に行けて。そのときは絵文字の“神”、栗田(穣崇)さんにもお会いしました。ブラジルにいたころからお母さんの古いiPhoneをいじっていたので絵文字は身近なものだったんですが、海外でも絵文字は「emoji」と呼ばれていますよね。世界中の人が毎日使っている絵文字を日本人がつくっていたことは誇らしいです。

——たしかに愛華さんのようにデジタルネイティブな10代からすれば、iPhoneやiPadの方が絵の具よりも身近なのかもしれません。愛華さんはどういうふうに絵の描き方を学んだんですか?

愛華 いまはiPadを使って描いているんですが、誰かに教わったわけではなくて、ずっと自分のやり方で描いてます。

——なるほど、愛華さんの色使いには天性のセンスを感じていたんです。ぼくも「SHIBUYA PIXEL ART」では膨大な量の作品を見たんですが、やっぱり愛華さんの作品に目が止まる。誰かに教わって上手くなるようなものではないセンスを感じます。自分の中で培ってきたものが表現されているというか。

愛華 色合いはほかの人と被りたくないので、ぜんぜん違う色合いで描くこともあります。自分らしさについて考えたことはあまりなかったんですけど、とくに目を描き込むのが好きなので、目は特徴的かもしれないです。

たくさんの人を喜ばせるために

——愛華さんはどういうときに作品をつくろうと思うんですか?

愛華 何か思いついてパッと描き出すこともありますし、美術館で観た展示から影響されて描いてみることもあります。この前『宝石 地球がうみだすキセキ』(国立科学博物館)という展示を観に行ったあとは、ティアラを描いてみたり。上手くいくときは飽きずにずっと描いていられるし達成感もあるんですけど、よく描けていないときは途中で雑になっちゃうんです。

——ティアラや女の子や動物など、愛華さんは自分の好きなものを描いていることが多い気がします。愛を感じるんですよね。

愛華 そうですね、小さいころもずっと女の子の絵を描いてました。べつにシリーズごとに分けた作品をつくっているわけではなくて、一貫して好きなものを描くことが多いかもしれないです。

——他方で「Sound Inn S」のロゴのように、デザインの仕事は自分の作品をつくるときと感覚も変わりそうです。

愛華 最初は戸惑うこともあったんですが、勉強になりました。「Sound Inn S」のロゴは4日間くらいでつくったんですけど、自分が描きたいような雰囲気のものを描きつつ、多くの人が見やすいようなものにできるよう気をつけていました。

——人からどう見られるか意識するわけですね。

愛華 普段描いている作品も、つくったら人に見せたいんです。完成しているとは言えない状態で見せてしまうことも多いんですけど……。SNSで投稿すると反応がいいときと悪いときがあるので、どうすれば反応がよくなるのか考えながら描いていて。色合いでぜんぜん反応が変わるのが面白いです。

——たくさんの人に喜んでもらえるような作品をつくれる方が嬉しいですか?

愛華 喜んでもらえるのは嬉しいです。自分の実力はまだまだだと思うんですけど、喜んでもらえるとがんばれます。いつかは自分の展示もやってみたいんです。

——愛華さんはモデルとしても活動されていますし、以前はアイドルとしてステージに立っていたこともありますよね。自分の制作を追求していくだけではなくて、人前に立ったり人を喜ばせたりするのが好きなんですね。

愛華 もともとすごく緊張しやすいですし、人見知りなんですけど、人前に立つのは好きです。でも、まだまだ勉強ですね。小学生のころはほかの子と自分の絵を比べることもあったけれど、いまは自分より上手い人はたくさんいますし、ほかの人の作品を見てこういう描き方もあるのかと勉強することが多いです。

小さなピクセルから生まれる大きな価値

——愛華さんはピクセルアートのどんなところに魅力を感じますか?

愛華 小さなピクセルで表現できるものは限られているけれど、その限られたシンプルさがかわいいなと思います。ピクセルアートってもともとはゲームの粗いドットのイメージが強かったと思うんですけど、いまは「マインクラフト」もすごく流行っているし、無限の世界をつくっていけるのが面白いです。

——たしかに油絵や彫刻よりピクセルアートの方がシンプルですし、誰でも作品づくりに挑戦できるところがいいですよね。

愛華 いまはみんな自分のオリジナルな世界を広げるのが好きなんだと思います。「マインクラフト」も「あつ森(あつまれ どうぶつの森)」も自分のオリジナルな世界を広げて、ほかの人とつながっていくものですよね。ボカロも同じ感じだと思うんです。好きな推しがいて、ボカロPが作曲した曲が流行ると今度はべつの歌い手が「歌ってみた」動画で世界を広げて……いま注目されているメタバースはそういう広がりの“大人版”というか。ゲーム感覚で気軽に扱えるものになると、メタバースももっとたくさんの人が関われそうですよね。

——愛華さんの活動もこれからどんどん広がっていきそうです。今後やってみたいことはありますか?

愛華 いろいろありすぎてひとつに絞りきれないんです。服のデザインもゲームデザインもやってみたいし、まだ誰もやってないことにも挑戦してみたくて。

——まだ16歳ですし、可能性は無限大ですよね。

愛華 コロナの影響もあるので難しいかもしれませんが、ニューヨークで本場のアートも学んでみたいし、海外で活動してみたい気持ちもあるんです。

——ぜひいろいろなアートやクリエイティブに触れながら、アーティストとして活動を広げていただきたいです。

愛華 人それぞれ大切にしている価値は違うかもしれませんが、わたしは価値を生み出す人になりたいんです。ピクセルアートが小さなピクセルから大きな価値を生み出しているように、一人でもいいからほかの誰かを刺激できるような存在になっていきたいです。

 

杉山 央|Ou Sugiyama
2000年に森ビル株式会社へ入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。世界で最も優れた文化施設等におくられるTHEA Awards、日経優秀製品サービス賞 最優秀賞等を受賞。現在は新領域企画部にて2023年開業予定の美術館・文化発信施設の企画を担当。2025年大阪関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター。