Eras Converge in Daniel Arsham’s Vision of Pokémon at Roppongi Hills
ダニエル・アーシャムが制作したポケモンが、六本木ヒルズに出現!
ダニエル・アーシャム x ポケモン《 Pokémon of Future Past / ポケモン: 未来の過去》が、ついに六本木ヒルズの66プラザへやってきた。1000年先へとタイムワープし、未来の考古学博物館で出会う「歴史的遺物」としてのポケモンは、私たちに一体何を伝えるのだろう? ダニエル・アーシャムに話を聞いた。
INTERVIEW BY David G. Imber
TEXT BY Mika Yoshida
EDITOR Kazumi Yamamoto
ALL PHOTOS ©️Pokemon
66プラザにズラリ並んだ、ブロンズ製の巨大なポケモン6匹。《Pokémon of Future Past / ポケモン: 未来の過去》は、都内5か所で現在開催中の《A Ripple in Time / 時の波紋》プロジェクトの中で唯一の屋外パブリックアートだ。
アーティストのダニエル・アーシャムと株式会社ポケモンがタッグを組んだアートプロジェクトは、この《A Ripple in Time / 時の波紋》が3度目となる。初回は2020年夏、東京のNANZUKAギャラリーとパルコ・ミュージアム・トーキョーで連続開催した2つの展覧会《Relics of Kanto Through Time》。2021年1月にNYのペロタン・ギャラリーで催された個展《Time Dilation》を経て、再び東京を舞台とした第三弾を、アーシャムは「これまでの集大成」と語る。
「ポケモンをモチーフに制作してきた作品群を、複数の会場で展示することで、株式会社ポケモンやNANZUKAと何年も積み重ねてきたコラボレーションのさまざまな側面を、そのロケーションと合致させた形で確認できます。ドローイングだけの展示もあれば、立体作品とペインティングを組み合わせた展示、また《時の波紋》というアニメーション作品の公開も。66プラザに選んだのは、当然ながら大型の屋外彫刻でした」
——貴方の立体作品には火山灰や土、水晶などの地質学的な素材が多く使われます。この《ポケモン: 未来の過去》にブロンズを選んだ理由は?
「西洋美術の歴史を象徴する素材ともいうべきブロンズは、見る者に自然と長い歳月を感じさせますね。先ほど挙げたアニメーション《時の波紋》の中で、サトシとピカチュウは未来へタイムスリップするんです。そこで巨像に出会うのですが、私はブロンズ像こそがふさわしいと考えました。1000年先の未来で発掘される「太古の文化遺物」としてのポケモンという設定を表現できる素材、ブロンズで《ポケモン: 未来の過去》を制作したのです」
アーシャムは私たちにとって見慣れた品々を、地球の年齢を連想させる素材で創り上げる。たとえば今から1000年を経る間に朽ち果て、結晶化した姿で未来の人々によって発見され、未来の考古博物館に展示された「Future Relics(未来の遺物)」という想定の作品たち。それを現代人の私たちが今、目の当たりにする。壮大に歪み、混在する時空へと誘う「Fictional Archeology(フィクションとしての考古学)」シリーズは、「もうひとつの世界」であるポケモンの世界観とも通底する。
——そもそもポケモンとのコラボはどのように始まったのでしょう?
「十代の頃からポケモンファンでした。まずはアニメに親しみ、やがてポケモンカードに夢中になりましたね。その後何年かは遠ざかっていましたが、ある日ポケモンこそが、“あり得るかもしれない未来”と現在とをつなぐ最適なブリッジだ!とひらめいたのです」
実はコラボレーションの始まる何年も前から、ポケモンのモチーフで作品を作っていたという。未発表だったが、株式会社ポケモンに話が伝わり、彼が所属するNANZUKAに連絡が入ったという。「大きな企画を一緒にやりませんか?」と。
今回の《ポケモン: 未来の過去》ブロンズ像は、ポケモン選びから始まった。株式会社ポケモンから送られてきた資料から3Dモデルを作り、3Dプリンターで立体化。クレイで肉付けをして型を取り、ブロンズに鋳造したという。緻密な作業を重ねながら生み出された巨大彫刻なのである。
「人気ポケモンの中でも、特に個人的な思い入れの強いポケモンをセレクトしました」とアーシャム。
アーシャムが前述したアニメ作品《時の波紋》は、湯山邦彦氏とのコラボレーションにより、およそ2年をかけて制作された。ポケモン初期からのアニメーション制作監督にして、現在もクリエイティブ・スーパーバーザーとして後進の取り組みを見守る湯山氏とタッグを組んだとは!
「湯山さんとの協働は、私にとって大変かけがえのない経験でした。初期段階の構想から仕上げまで、湯山さんとZOOMミーティングを綿密に繰り返し、無数のスケッチやドローイング、メモを交わしあうプロセスを経て、まさしく理想の作品が完成しました。プロットはサトシとピカチュウがポケモンバトルをしている最中、セレビィが迷い込んできて、セレビィの力で未来へタイムスリップするというもの。サトシたちが飛び込んだのは、文明が廃れて廃墟と化し、植物に一面覆い尽くされた未来都市だったのです」
——ちなみに貴方をモチーフにしたようなトレーナーもアニメに登場しますね?
「うちのまだ小さい息子は2人とも熱烈なポケモンファンなんです。私に似たポケモントレーナーが登場するこのアニメを、子供たちと一緒に観た時はさすがに感無量でしたね(笑)」
アーシャムといえば、毎朝9時にスタジオに出社し、退社はきっかり午後6時。オン・オフを厳格なまでに切り替えるアーティストとしても知られていたが、コロナ禍のリモートワークによってルーティーンの調整を余儀なくされたという。
——コロナ禍で他に変化したことは?
「ペインティングをまた描くようになった事です。元々アートの入り口が絵画で、大学でも最初の専攻がペインティングでしたが、長らく絵筆から離れていました。これは明らかにコロナ禍がもたらしたポジティブな影響です」
チームが能力を持ち寄っては集団制作する立体作品やフィルムに対し、シンプルでどこでも一人で手軽にできるペインティングの良さを再発見したという。またアクリル絵の具ではなく、ガッシュ(不透明水彩絵の具)を用いることで、ウルトラマットな表面を生み出せるのも発見だった。アーシャムには先天的な色覚障害があるため、色彩は濃淡のグラデーションによって知覚する。まるでベルベットのようにマットなガッシュは彼の目にとって最適な質感だったそうで、夢中になって日々描き続けたという。
アーシャム作品に一貫したテーマの一つが“破壊と再生”だ。1992年、地元マイアミを襲った未曾有の大型ハリケーンに自宅を奪われたのは、まだ12才の時のこと。壊滅し、建て直されていく都市を目撃しながら彼は成長する。地球環境が調和を失い、形あるものが崩れ、再建されてはまた朽ちていく。流転の中にテーマを見出す彼の創作は、少年時代の体験に根ざしている。
「私が描く未来都市の光景は、建物は朽ち果て、人影はなく植物が支配する。だがこれは必ずしもダークでも悲観的でもない。たった今作ったものだって、ずっと無傷じゃないし古くなる。それでも100年後、きっと誰かの目に留まるんじゃないだろうか? 1000年後の未来に、このオブジェが“発掘”される世界はいったいどれほど私たちの想像を超えていることだろう? 何かが滅んで再生が始まり、やがてまた朽ちるのは決して悲しいことではありません。ただ“inevitability(そういうもの)”なのです」
©Daniel Arsham Courtesy of NANZUKA
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Special Thanks to ArigaHitoshi and Kotobukiya Co., LTD.
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