SHINTORA-DORI MURAL ART

HITOTZUKIによる「新虎通りCORE」ミューラルアート制作秘話

虎ノ門ヒルズへと連なる「新虎通り」にこの冬、シンボリックな巨大ミューラル(壁画)アートが出現した。アーティストユニット「HITOTZUKI」による、約1カ月に及ぶ公開制作時のエピソードから、街の人々に向けた深遠なるメッセージまで。完成記念イベントで語られた制作秘話をここに公開する。

Edit & Text by KEITA FUKASAWA

「新虎通りCORE」1階の「THE CORE KITCHEN / SPACE」(ミューラル完成記念イベントにて、新虎通りから撮影)

虎ノ門と新橋を結ぶ、東京の新たなシンボルストリート「新虎通り」。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際に選手村とスタジアムを結ぶこの通りのほぼ中央、日比谷通りとの交差点に2018年10月、インキュベーションオフィスやレストランが入居する複合施設「新虎通りCORE」が開業した。街のにぎわいと交流の創出拠点としてのビジョンを描く、地域の新たなランドマーク。その1階に昨年末、巨大な「ミューラル(壁画)アート」(※)が誕生した。

作品のキャンバスとなったのは、カフェ・ダイニングと大型イベントスペースが融合したクリエイターズ・ハブ「THE CORE KITCHEN / SPACE」。約1カ月もの期間をかけて、ランチやお茶、打ち合わせなど思い思いの時間を過ごす人々の目の前で公開制作が行われ、満を持しての完成となった。新虎通りの新たなシンボルとなるこの作品はいかにして描かれ、未来に向けていかなるメッセージを放っていくのか。さる12月22日に行われた、完成記念イベントの模様をここに公開する。

※ 「ミューラル(mural)」…ストリートアートから発展し、既存の建造物やその壁面に描かれる公共アートのこと。新虎通りでは沿道をミューラルアートで彩る「TOKYO MURAL PROJECT」が進められている。

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1/3「THE CORE KITCHEN / SPACE」の壁面に描かれたHITOTZUKIの作品『PERFECT/Imperfection』(部分)
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2/3「THE CORE KITCHEN / SPACE」の壁面に描かれたHITOTZUKIの作品『PERFECT/Imperfection』(部分)
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3/3「THE CORE KITCHEN / SPACE」の壁面に描かれたHITOTZUKIの作品『PERFECT/Imperfection』(部分)

人々と一期一会の時間を紡ぐ、公開制作の試み

「THE CORE KITCHEN / SPACE」の壁面に登場した、幅14.3メートル×高さ4.5メートルもの巨大なミューラルアート作品『PERFECT/Imperfection』。国内外のストリートアートに精通するプロデューサー、ゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッド(以下、ゲンスラー)飯⽥昭雄⽒のキュレーションの下、日本を代表するストリートアートユニット「HITOTZUKI(ヒトツキ)」が、11月29日から12月21日にかけて公開制作を行ってきた、迫真の作品だ。

その完成を記念して12月22日に行われたイベントでは、飯田氏と、HITOTZUKIのKAMI氏とSASU氏、計3名によるトークショーを開催。作品コンセプトから表現に託したメッセージまで、数々の制作秘話が語られた。

飯田 新虎通りという、これからカルチャーを育んでいく街のためにミューラルアートを制作するにあたって僕が考えたのは、とにかく一番いいもの、間違いないものにしたいということでした。それが、日本におけるストリートアートのパイオニアとして活躍しているHITOTZUKIのお二人にお願いをした理由です。その一方で、この作品を見て「これまでのHITOTZUKIとは何かが違う」と思っている方もいるかもしれません。

KAMI そうですよね、最近は形や線をきれいに仕上げるケースが多くて、絵の具の滴りをそのまま残すような描き方はしていなかったんですが……2003〜5年頃にインプロビゼーション、いわゆる即興的な手法をやっていたことがあって、今回この場所を見たときに、かつて実験していたような即興的なやり方と、これまでの20年で培ってきたスタイルの両方を表現したいと考えました。

SASU 当時は自分たちが一度築き上げた線や形のスタイルを壊したいという思いがあり、絵の具で二人とも真っ黒になるようなライブペインティングをやっていました。見た目だけでなく裏側にある心意を伝えたかったのですが、なかなか着地点が見つからず、自分たちが残したいと思うものをしっかり描こうという結論に至ったわけです。でも、この機会にまた即興の表現に挑戦してみたいということで、ほうきや雑巾を使って描くなど、自由に遊ばせてもらいました。

ミューラル完成記念イベントで行われたトークショーより、左からHITOTZUKIのSASU氏とKAMI氏、プロデューサーの飯⽥昭雄⽒(ゲンスラー)

飯田 僕としても、これまでに見たことのないアクションが展開されて、そのプロセスがとても面白かった。とはいえ、3週間にわたる公開制作ということで、ご飯を食べたりお茶を飲んだりしている人たちにずっと見られながらの制作はどんな感じでしたか?

KAMI 決してやりやすくはなかったけれど、そういう状況だからこそ、面白い空間が生まれていると感じましたね。新虎通りというビジネスエリアで、デジタル関連の仕事をされている方も多く、描いている真横でミーティングが始まったりする一方で、こちらは体を使って線をうまく引けるかどうかに神経を注いでいる……そういう“瞬間”を大事にしようと思って取り組みました。

SASU 二人でやる以上、それぞれに完成のイメージがある一方で、半分は即興の部分があるから、描いていく中で「ここはもう少しこうしよう」とか、お互いに自分の主張はしつつも、話し合ってバランスを取りながら進めていった感じですね。

“不完全な美”に込められた、人間性への切なる想い

飯田 これまでのようなきれいなベタ塗りではなく、塗り重ねた下の色が透けていたり、さらにドリッピングなどのアクションや動きが加わっている。そこが新鮮かつ躍動感のある印象につながっていますが、最初からそうしようと決めていたんですか?

SASU 2人ともペンキを塗っている時間が好きで、ずっと塗り続けられるくらい。でも今回は即興性を活かすということで、それをあえて我慢しました。

その中で感じたことですが、今の時代はデジタル主導で完璧に物事が進むようになり、私たちも“完璧にできる自分”が理想になってしまって、その理想と現実のギャップに落ち込んでしまったりする。だからこそバーチャルで完全な世界だけでなく、人間がもともと持っている不完全な部分を見つめていかないといけない、という想いを込めて、作品のタイトルを『PERFECT/Imperfection』(「完全/不完全」の意)と名付けました。

飯田 この新虎エリアという起業精神があふれる街の中で、完璧さを求めて仕事に打ち込んでいる人たちにそうしたメッセージをはじめ、何かを感じてもらえるのであれば、それはとても意味のあることだと思います。

SASU そうですね。ドリッピングのように、汗や息づかいを感じさせる表現を入れ込むことで、自分たちが人間という“不完全な動物”であることを少しでも思い出してくれたらいいな……と。

KAMI これまでと違う要素を入れ込みながら、その場に居合わせた人だったり、色と色の奇跡的な混じり合いだったり、そこで起きたことすべてが複製不可能な状況になっていく。それぞれに今という時を生きていて、いろいろな人生の状況にある人々を交差させたいという思いを、壁画の筆跡という形で現在のタイムラインの中に刻むことができたらと考えました。

飯田 つまり……このドリッピング一つとってもそこにはプロセスがあり、意味がある。それこそが、今の街にあふれている“なんとなく見た目がいい”アートとの違いですね。この作品がきっかけになって、新しいものの見方につながったらと思いますし、癒やされたり、やる気が湧いたり、それぞれに自由な感じ方をしてもらえたらと思います。……ただ、じつはこの作品は、まだ100%完成されていないんです。

KAMI そうなんです。ダルマに目を入れるような感じで、最後にモチーフの中心部分を描いて完成としたいと思います。

ミューラル完成記念イベントにて、作品へ“最後の一筆”を描き込むSASU氏

SASU この後はパーティなので、みなさん弾けたいですよね! 「pop」という言葉には海外では炭酸飲料という意味がありますが、気が抜けた炭酸飲料は美味しくないから、弾けるために気を入れて、最後に丸を描き入れたいと思います!……って、すごく緊張しますね。壁画は誰もいないところで完成させることがほとんどだから。

飯田 まさに貴重な瞬間ですね。……完成です! みなさん、お二人に盛大な拍手をお願いします。本日はどうもありがとうございました。

新虎通りCORE ミューラル作品 概要
タイトル 『PERFECT/Imperfection』
主催 森ビル株式会社
制作場所 「THE CORE KITCHEN / SPACE」
住所 東京都港区新橋4-1-1新虎通りCORE1階
制作日程 2018年11月29日(木)~12月21日(金)
プロデュース 飯⽥昭雄(ゲンスラー)
アーティスト HITOTZUKI(ヒトツキ)

profile

飯田昭雄|Akio Iida
プロデューサー。美大生時代、勅使川原三郎氏のダンスカンパニー「KARAS」の立ち上げメンバーとして、山口小夜子とともに国内外で活躍。「Wieden+Kennedy Tokyo」にてアートバイヤーとして活動する中、東日本大震災後、宮城県石巻市において一般社団法人ISHINOMAKI2.0 を仲間とともに立ち上げる。現在は、建築、インテリア、マスタープランニング及び戦略的コンサルティング業務においてグローバルに展開している世界最大規模のデザイン事務所、ゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッドにクリエイティブプロデューサーとして在籍。

profile

ヒトツキ |HITOTZUKI
互いに独立したアーティストであり、夫婦でもあるKAMIとSASUによるアートユニット。1999年から共同制作を開始し、日本のストリートアートをネクストレベルへと押し上げたパイオニア的存在として、壁画制作を中心に世界で活動。“HITOTZUKI”の名には「日と月」、太陽と月を意味し、男と女、+と-、陰と陽など、相反する二つが調和して一つの世界を創るという意が込められ、この二人でしか表現できない唯一無二の世界観を生み出している。