麻布台ヒルズの敷地には、驚くほどたくさんの樹木や草花、果樹や緑地があります。日頃から切り花を扱いながらも、実は「木が大好き」と語るフラワースタイリストの平井かずみさんと歩きました。
TEXT BY MARI MATSUBARA
PHOTO BY KENYA ABE
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Geoff McFetridge
五感に訴える麻布台のみどり
案内してくれたのは、森ビル設計部で外構を担当する清水一史さん。
清水 麻布台ヒルズのコンセプトの一つである「グリーン&ウェルネス」をもとに、敷地面積8.1ヘクタールのうち2.4ヘクタールを緑地として整備しています。グリーンを目で眺めるだけでなく、香りのするハーブがあったり、じかに座ることのできる芝生の広場があったり、鳥やカエルの啼き声を聞いたり、味わうことができる果樹が植えられていたり、五感に訴えるみどりが特徴です。
平井 私の好きなチカラシバがあそこにありますね! 野っ原に生えているような素朴な野草は、よくブーケにも入れるんですよ。
清水 よく気づかれましたね! チカラシバはイネ科の植物で、言ってみれば雑草の一種なのですが、元々の土地の在来種を植栽に取り入れることも方針にしていて、全体の約7割を占めています。このあたりは昔「我善坊谷(がぜんぼうだに)」と呼ばれた谷地でした。開発前の土地に自生していた植物を調べた結果、在来のチガヤ、ミズキ、モミジなどを積極的に植えています。
この地に生えていた在来種が約7割
平井 ケヤキ、クロモジ、ヤマボウシ……背の高い木もたくさん植えたのですね。
清水 3m以上の高木だけで約1,000本を、一本一本、関東近郊の圃場(木の畑)に見に行って選びました。一般的な都市開発では、落葉樹は管理が大変なので敬遠されるのですが、ここでは新緑の時期、紅葉の時期、葉を落とした時期と変わる姿を楽しめるよう、落葉樹を多く取り入れています。同じ発想から、花の咲いた一年草を次々と植え替えるのではなく、宿根草をたくさん植えて、冬は冬枯れの景色を味わう。それが自然の姿だと考えるからです。
平井 桜田通り側のエントランスにはサクラの木もありましたね。
清水 ソメイヨシノばかりでなく、2月ぐらいから咲き始める河津桜をはじめ山桜、5月に咲く八重系の関山桜など、開花時期が異なる樹種を選び、長い期間、花を楽しめるよう配慮しました。
平井 先ほどから気になっていた、あのみかんの木がある丘へ行ってみたいです!
建築の傾斜屋根を活かした果樹の段々畑
清水 ここは「果樹園」と呼んでいますが、ちょうど麻布台ヒルズマーケットが入る建物の屋根の傾斜を利用した段々畑になっています。みかんやレモン、ハッサクなどさまざまな柑橘類や、アンズやスモモ、ブルーベリーなどの果樹が植えられています。ちょうど収穫どきを迎えた温州みかんを、ぜひ味見してみてください。
平井 いいんですか? わっ、ちゃんと甘くて美味しいです。
清水 この場所は一番日当たりが良いので、よく育ちます。丘の上のほうは安全上、柵を設けて一般の方の立ち入りをご遠慮いただいていますが、オープンデーなどを設定して、多くの方に楽しんでいただけたらいいなと思っています。
平井 私は若い頃に一度、造園の会社に勤めたことがあり、あまりの重労働に耐えられずすぐ辞めてしまったのですが、その時に樹木には根っこがあり、草花は種子や球根から芽生えるのだという当たり前のことを身をもって勉強させていただきました。なので、こんなに多種多様な木々と草花を植えられたことに感動を覚えます。そして異常気象など過酷な環境ではあるけれど、「ちゃんと根付いてね」「頑張って育ってね」と願わずにはいられません。
清水 私たちもまったく同じ気持ちです。2023年の酷暑の時期に植え付けなければならない木々も多かったので心配しましたが、今のところよく育ってくれています。それに、我々が予想もしなかった、まったく別の種類の草が茂りはじめたりして、自然の力に驚かされます。
都市と自然のパワーが溶け合う未来を
平井 エノコログサなどは勝手に種が飛んできて生えたりするのでしょうね。でも、人工的に手入れが行き届くばかりでなく、居心地の良い場所を選んで育つ植物の勝手に任せるという粗放さもあっていいのではないでしょうか? 人間と自然の共栄共存で、この麻布台ヒルズのグリーンがモリモリと生い茂っていく様子を見守りたいです。
清水 そう言っていただけると嬉しいです。季節が巡るごとに花を愛でたり、実が熟したり、葉っぱが色づいたり、枯木立になったり。そして何年か後には木々が大きく育ち、枝を広げ、建物の屋上に植えられた草が生い茂り、全体が緑のランドスケープになる、そんな未来を想定しています。麻布台ヒルズで働く方、暮らす方、通りがかる近隣にお住まいの方、買い物に来る方、たくさんの方にとって訪れるたびに発見と驚きがあるような場所になればと願っています。
平井 花の咲く時だけ、実がなる時だけを楽しむのではなく、地域の方々が日頃から植物の手入れをする機会を設けたりしても良いかもしれませんね。そうすることで自分の庭のように愛着が持てるのではないでしょうか。これだけの大規模なグリーンの管理・維持にはきっとご苦労も多いことと思いますが、それだけに、ここが成功例となって他の都市開発のお手本になれば素晴らしいですよね。期待しています!
平井かずみ|Kazumi Hirai
フラワースタイリスト。東京を拠点に花の教室「木曜会」や、全国でワークショップを開催。草花を身近に感じられる「日常花」を提案している。雑誌やCMでのスタイリング、TV/ラジオにも出演。写真・文を自ら手がけた花のタブロイド「seed of life」を発行。
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