神谷町駅から麻布台ヒルズに足を踏み入れてすぐ目につくのが、建物を形作る格子状フレームの起点を囲んだ吹き抜けの庭。その庭を延長するかのようにグリーンで覆われた店が〈Sta.麻布台(エスティーエー)〉だ。空間のコンセプトはズバリ「一軒家の中庭」。
TEXT BY YOSHINAO YAMADA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Geoff McFetridge
神谷町駅から麻布台ヒルズ ガーデンプラザの駅前広場を吹き抜け方向に向かうと、豊かな緑に覆われた〈Sta.麻布台〉が人々を出迎える。ここは家庭料理をベースに、調理師、管理栄養士、フードスタイリストといった食のプロフェッショナルが工夫を加えたメニューを揃えるダイニングカフェだ。身体にやさしい食事を提供するため、無添加にこだわった食材で調味料まで日々仕込むというこだわりをもつ。
店内には麻布台ヒルズ内の植物と同種を配置
これまで〈Sta.〉は、渋谷で人が暮らしていた住居を、神田でレンガ造の歴史ある高架下を、日本橋でオフィス街の半地下にある駐車場をユニークに再生してきた。しかし麻布台では初めて一から空間を作り上げた。麻布台ヒルズのコンセプト「グリーン&ウェルネス」への共感が出店のきっかけだという。麻布台店のストアマネジャーはここで「グリーン&ウェルネス」との親和性が高い空間を実現しようと、図面と同時に植栽のリストを用意してもらったと振り返る。エントランスの他は通路側にガラスを配し、そのガラスも多数の植物で覆われて内部をうかがい知ることは難しい。これら植物は、いずれも麻布台ヒルズ内に植えられているいずれかの植物と同種を選んだそうだ。通路に対して開かれたショップが並ぶことで街のような風景をつくりだすガーデンプラザ。しかし〈Sta.〉は独立性の高い場所を選び、あえて店の奥を閉鎖的な空間に。タワープラザに続く動線にあるため人通りは多いが、そのなかでも肩の力がふっと抜けるような空間を目指した。
「中庭に面した区画にあることから、今回は一軒家の中庭にお邪魔したようなイメージをつくろうと考えました。店内の壁は日本の住宅でよく見られる掻き落とし仕上げにしています。これは時を経るごとに割れが出てくるような仕上げで、商業施設内でパリッとしすぎない空間を目指しています。実はどの店にも共通するテーマが“その場に馴染むこと”。麻布台ヒルズでも共用部の素材などを参照しながら店内の素材の組み合わせを検討しました。街や建物に馴染ませるという考えは路面店も商業施設でも変わりません」
先行して完成したガーデンプラザの仕上げから木材などの素材も検討。エントランスの大きな木製カウンターがアイコンとなり、人々の目を引く。一方でどの店にも共通するのが、高い天井からテーブルまで吊り下げた照明だ。このペンダントライトは一号店の渋谷から続くオリジナルで、食卓に焦点をあてる存在として象徴的に吊される。客席のテーブルはやや低く抑えているが、これも共用部を歩く人の目線とぶつからない高さに調整したもの。客席に座ると目線も低く、植物が多いこともあって往来の多いガーデンプラザの通路に面しているとは思えない落ち着きがある。
「グリーン&ウェルネス」を空間と食で提供する
〈Sta.〉は多くの人に受け入れやすく満足感が得られる料理を提供したいとの思いから始まった。特定のジャンルではなく家庭料理とすることで、幅広い層に届くことを目指す。だからこそ華やかな空間よりも喧騒の中で落ち着く時間を通じ、「グリーン&ウェルネス」を提供したいという。「昼は食堂に近いけれども夜はより食卓になっていきます」というように、夜は照度を落とし、音楽のテンポもゆっくりとなって1日の疲れを癒す空間へ。ガーデンプラザは専門店、あるいは専門に特化した飲食店が多く、オールデイダイニングは限られている。朝昼夜で空間の質を変えながら、力の抜ける場所とした。
「管理栄養士の資格を持つスタッフも多いので、ウェルネスというコンセプトは私たちにとっても大きな意欲に繋がります。毎朝調味料から仕込んでいるので、余計なものが入っていない食事は毎日食べていただきたい料理。また店舗ごとに料理や器に個性があって、そのエリアにゆかりあるもの、料理長の出身地の食材などを利用しています。麻布台ヒルズの場合はフードマーケットの食材がそれにあたり、ここでしか得られない食材がメニューに反映されます」
店の名はステーションの略語で、仕事帰りの人も記念日を祝う人もここでの時間、そして次の日、次の時間がより活力あふれるものになることを願ったものだ。まさに麻布台ヒルズにおける大切な憩いの場として、人々の日々を支えている。
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