特集麻布台ヒルズ

NEW HERMÈS STORE

麻布台ヒルズでエルメスが実現する、ローカルに根ざした独立型ストア

ラグジュアリーの価値を再定義し続けてきた「エルメス」の、東京の路面店としては4店目となるブティックが麻布台ヒルズに2月29日(木)にオープンします。その土地の文化やお客様を大切にし、店舗ごとの独自の個性を追求しているメゾンが新たな環境で取り組む挑戦について、エルメス・インターナショナルのエグゼクティブ・バイスプレジデントであるフロリアン・クラエン氏が語ります。

TEXT BY HILLS LIFE DAILY
Portrait by Ryo Yoshiya
illustration by Geoff McFetridge

私たちは世界各地の店舗において、それぞれの地域に根差した文化とお客様とのつながりを大切にしてきました。各店舗の店長にはオブジェ(商品)を自由に選ぶ裁量が与えられており、どの店舗も、地域の文化やお客様に合わせた独自の品揃えを誇ります。エルメスのコレクションすべてを揃えている店舗はありません。その土地の文化にうまく調和することで、お客様一人ひとりに合った時間と体験をお届けできると信じているからです。

地域の文化やお客様を起点とした体験を

リヨン近郊ピエール・ベニットにあるシルクのアトリエでの作業風景 ©Maxime Verret

またそれぞれのオブジェは、創造性・クラフトマンシップ・上質な素材をもとにした、美しくクオリティの高いものであることを何より大切にしています。最高の製品を、職人の手仕事と高品質な素材によって創造することが、エルメスの哲学なのです。しかし、ただ高品質のバッグやスカーフといった製品をつくることだけが、使命ではありません。美しく上質なものを通して、その街の人々の暮らしに合った、真の豊かさや思いがけない喜びを届けるといった、より包括的な使命があると私は考えています。

21世紀における理想のダウンタウンの一員に

リヨン近郊ピエール・ベニットにあるシルクのアトリエでの作業風景 ©Maxime Verret

麻布台プロジェクトについて初めて聞いた時、こうしたエルメスの使命と重なる部分があり、心が動かされました。一番の驚きは、プロジェクトが建築的な野心あふれる街づくりの計画であるということ、つまり「都市の中に都市をつくる」というチャレンジングなものだったことです。ただビルをつくるのではなく、東京の街中にあたらしい都市をつくる。そのユニークなコンセプトに共感しました。

麻布台ヒルズは、ビルそのものが一つのコンパクトな街となり、その中では人々が思い思いに散策し、時には豊かな緑の中で休憩し、点在するアートや建造物を楽しめます。オフィスも住居も店舗も学校も美術館もあります。ここはある意味、21世紀における理想的なダウンタウンではないでしょうか。私は多くの都市を訪れてきましたが、他にはない街づくりのコンセプトに感銘を受けました。これほど大規模で包括的な開発スペースがあるところは、世界でもほとんど見られません。アジア諸外国では巨大なショッピングモールがいくつも建設されていますが、首都の中心地が再開発されることはほとんどありません。ここでは麻布台ヒルズという存在が生まれることで、都心がまったく異なる環境に変わっていく。東京の中心部にあたらしい活気がもたらされていく。その一員になれることが楽しみでなりません。地域に根差した店舗をめざしてきた私たちにとって、このプロジェクトには当社と共通するものを感じています。

麻布台をあたたかく照らす灯火のような存在に

銀座メゾンエルメス ©Nacása & Partners Inc.

印象的な店舗は街づくりにまで影響を与えます。例えば銀座のメゾンエルメスは、イタリア人建築家レンゾ・ピアノの設計による建物で、全面のガラスブロックが特徴的です。夜、外から眺めると、建物は照明を灯したランタンのように見え、銀座の街並みを美しく照らすのです。私たちは銀座メゾンエルメスを「エルメスのランタン」と呼んでいます。

麻布台ヒルズの店舗もガラスでできていますが、銀座の街に堂々とそびえたつランタンに対して、麻布台の店舗は、街をあたたかく照らすキャンドルになってほしいと願っています。このキャンドルの灯火とぬくもりを目指して、はるばる足を運んでくださるお客様に対して、ここでしか味わえない一対一の関係を丁寧に築く店になってほしい。新店は、世界中のエルメスの店舗同様、フランス人建築家ドゥニ・モンテル率いるRDAIが店舗デザイン及び内装設計を担っていますが、2フロアからなる独立した店舗で、店内にはお客様にくつろいでいただける広々としたスペースも備えています。2階フロアにつながる屋外テラスや、緑豊かな屋上庭園も設けています。いまだ計画中の部分もありますが、日々の暮らしを彩る、活気と愛にあふれた店舗になることはお約束したいと思います。

エルメス銀座店 ©Nacása & Partners Inc.

麻布台というこの土地は、地理的、経済的、そして社会的にも非常に魅力的なエリアです。確かに銀座のメゾンエルメスのように、多くのブランドが立ち並ぶエリアに象徴的な場所を持つことも必要ですが、一方でここのように、独立した店舗ながら控えめな存在感を発揮する場所も欠かせません。多くの人が行き交う繁華街に出店することももちろん重要ですが、私たちは来客数だけを求めているわけではないからです。お客様には居心地の良い洗練された店舗でくつろいでほしいと思っており、そのために非常に相応しい場所だと感じています。今回のように都心に独立型のブティックを構えることは珍しく、麻布台ヒルズへ出店する重要な決め手の一つになりました。

麻布台ヒルズの店舗は、その特性からより近隣のお客様を迎えることができるのではないかと期待しています。近くにお住まいの方々や麻布台ヒルズで仕事をされる方々に足を運んでいただくことも多いでしょう。また周辺にはホテルや大使館も多いので、外国人のお客様が多いだろうと予想しています。この土地のお客様や文化に合わせた、ここでしか味わえない体験や関係を、ぜひ楽しんでいただきたいです。

profile

フロリアン・クラエン|FLORIAN CRAEN
エルメス・インターナショナル エグゼクティブ・バイスプレジデント/エルメスエグゼクティブ・バイスプレジデント セールス&ディストリビューション担当。1997年にエルメス入社。2009年に北アジアのマネージング・ディレクターに就任。2013年、現職に就任すると同時にエルメスのエグゼクティブ・コミティーのメンバーとなる。