特集虎ノ門ヒルズ ステーションタワー

CONNECTED WITH LIGHT ART

〈TORANOMON LIGHT ART〉がつくりだす、街とアートの新たなつながり

光のアート作品「ライトアート」を巡って街歩きを楽しむイベント「TORANOMON LIGHT ART」が2023年11月13日から開催されている。今年から始まったこのイベントは、世界最大級のライトアートフェスティバルであるオランダ・アムステルダムの“Amsterdam Light Festival”より生まれた「Light Art Collection」とパートナーシップを結ぶことで実現したもの。果たしてライトアートは虎ノ門エリアにどのような体験をもたらすのか——Light Art Collectionのディレクターを務めるアルバート・デルトゥア氏にお話を伺います。

TEXT BY Shunta Ishigami
illustration by Adrian Johnson

 
——Light Art Collection財団とはどんな組織なのでしょう?

Aftermovie Amsterdam Light Festival 2022-2023

 

デルトゥア Light Art Collectionは、Amsterdam Light Festivalの兄弟団体として立ち上がった財団です。2012年に始まったAmsterdam Light Festivalは毎年20〜30点のライトアート作品を発表しています。Light Art Collectionは2016年に設立され、Amsterdam Light Festivalで過去に展示された作品や、それ以外のすばらしいライトアートを国際展開する独立したプラットフォームとして活動しています。私たちもアーティストをサポートしながら、全世界でライトアートにまつわるイベントやフェスティバルのキュレーションに携わっています。

アムステルダム発・ライトアートの専門組織

アルバート・デルトゥア氏、虎ノ門ヒルズ オーバル広場に設置されたFirefly Fieldの前にて。

——Amsterdam Light Festivalはアムステルダムでも大きな催しになっているそうですね。

デルトゥア 世界で最も有名なライトアートフェスティバルで、毎年75〜100万人が訪れています。毎年世界中のアーティストから作品が応募され、20〜30点ほどの作品が選出されていますね。

——どれくらいの数の作品が送られてくるものなのでしょうか。

デルトゥア 今年は、130カ国から750組の応募が集まりました。選ばれた作品に対してはAmsterdam Light Festivalが制作資金を提供していますし、アーティストと議論しながらともに作品をつくっています。また、たとえばAmsterdam Light Festivalに採用されなくても、Light Art Collectionが個別にアーティストをサポートすることもあります。

——アーティストにとっても貴重な制作の機会となるわけですね。

デルトゥア Light Art Collectionには法務や輸送のプロフェッショナルもいますし、アーティストは制作に専念できるためアーティスト側からパートナーシップを組みたいと相談されることも多いですね。もちろん私たちからアーティストへアプローチすることもありますし、毎年20以上の都市で取り組みを展開しているので、各国を訪れた際に新たなアーティストと出会うこともあります。

——アーティストの方々は普段からライトアートを制作されているのでしょうか。

デルトゥア 必ずしもそうではありません。ライトアートは絵画や彫刻と比べればメジャーなものではありませんし、世界的に有名なアーティストは数えるほどしかいません。だからこそ、普段は絵画や映像をつくられている方がライトアートをつくることもありますし、挑戦したい方に対してはLight Art Collectionとしても積極的にサポートしていきたいと考えています。

東京では初の開催となるライトアートイベント

デルトゥア氏、虎ノ門ヒルズ マウンテンに設置されたNestとともに。

——Light Art CollectionはAmsterdam Light Festivalで展示された作品などの保管・管理を行いながら、全世界でイベントを展開されています。現在はどんな活動を行われているのでしょうか。

デルトゥア 今年だけでも26のプロジェクトが世界中で進行しており、欧米だけでなくアジアやアフリカ圏にも進出しています。私たちは単にアートイベントを開催したいわけではなく、都市と継続的な関係性を構築したいんです。だからただ作品を展示するのではなく、それぞれの都市が自身の価値を高められることが重要ですし、現地のパートナーとは何度もディスカッションを重ねるようにしています。場所が変わればやりたいことも変わりますし、大規模なフェスティバルを行うこともあれば、エリアを限定したイベントを行うときもあります。

——今年から始まった「TORANOMON LIGHT ART」はLight Art Collectionにとって東京での初の取り組みとなるそうですね。東京にはどんな印象を抱かれていましたか?

デルトゥア 東京はすごく混み合っていて忙しいイメージがあったのですが、今回実際に訪れてみて大きく印象が変わりました。ここまで規律のとれた人々は見たことがありませんし、誰もがフレンドリーで親切です。明確なビジョンをもって都市のあり方が考えられていると感じましたし、専門知識に溢れた人々もたくさんいる。今回のプロジェクトでも細かい点まで配慮いただけて非常にいい経験になりました。

——虎ノ門というエリアについてはいかがでしょうか。

デルトゥア ビジネスエリアは世界中にありますが、虎ノ門の街には特別な印象を抱きました。すべてがフィットしていて人やモノの流れも非常に自然です。レストランも単に食事をする場所ではなくてスターが来ていてもおかしくないようなお店がたくさんありますよね。

今回は虎ノ門エリアに滞在していたのですが、夜中にパブを通りがかった際も自然と若い方々とお話する機会が生まれました。森ビルさんとライトアートのイベントを行うことを伝えたら、みんな「観に行ってみたい」と言ってくれたんです。こうしたつながりがすぐ生まれるところも魅力的ですよね。

——今回のプロジェクトはどんな経緯で立ち上がったのでしょうか?

デルトゥア 駐日オランダ大使館とアムステルダム市当局から森ビルさんを紹介いただきました。まずは森ビルの方々とオープンなディスカッションを行った上で、アムステルダムにもご招待しAmsterdam Light Festivalを視察いただきましたし、ロンドンなどほかの都市での活動にもご招待しながら理解を深めていただきました。

通常なら、ライトアートを体験いただいたうえで私たちからイベントのプランを提案するのですが、今回は森ビルさんとの関係も深まったため、常に対話をベースにしながら検討を進めていました。とくに作品を展開する場所の背景やレガシーも重要な要素ですから、対話を重ねることは非常に重要です。

虎ノ門エリアをつなげるべく6つの作品を選出

Absorbed by Light Gali May Lucas / UK 展示場所=新虎通り

——今回は計6点の作品がLight Art Collectionから展示されています。作品はどのように決まったものなんでしょうか?

デルトゥア 私たちがトップダウンで作品を選んでいるのではなく、いただいたブリーフィングに沿ってまず候補を提案し、どの作品ならイベントや場所のコンセプトに合うのか議論しながら候補を絞り込んでいきます。今回もまず森ビルさんから企画の趣旨を説明いただき、虎ノ門エリアの4つのタワーを歩行者デッキでつないでいくことが重要だと伺っていました。作品について森ビルの方々が事前に詳しく調べてくださっていたのも非常に嬉しかったですね。

Tornado UxU Studio / Taiwan 展示場所=西桜公園

Firefly Field Studio Toer / Netherland 展示場所=虎ノ門ヒルズ オーバル広場

——アーティストの知名度や作品単体の良し悪しではなく、作品のメッセージが場所と合致することが重要なわけですね。

デルトゥア まずは作品のメッセージや意味が重要です。そのうえで、実際にその場所に置くとどう見えるのか考えなければいけません。意味合いは合致していても場所の性質によって見え方が変わってしまうこともありますから、展示する場所をよく知っている方々と話すことは必要不可欠です。

On the Wings of Freedom Aether & Hemera / Italy 展示場所=虎ノ門ヒルズ ステップガーデン

たとえば今回なら、Light Art Collectionが所蔵している数百点の作品から、それぞれの場所に対してまず20〜30点の作品を提案させていただきました。今回企画の趣旨としては街の「軸」をつくりたいということで、虎ノ門ヒルズステーションタワーのコンセプトでもある「アクティビティバンド」を体現するようにして、各施設だけではなく新虎通りまでつづいていくような体験をつくろうと考えていきました。

私たちが所蔵している作品は非常に多様で、表現もサイズもさまざまです。森ビルの方々とディスカッションしていくなかで、作品の点数も絞られていきましたね。

ライトアートが人と場所をつなげていく

My Light is Your Light Alaa Minawi / Lebanon 展示場所=虎ノ門ヒルズ Tデッキ

——場所ごとに異なる雰囲気の作品を体験できるのは面白いですね。

デルトゥア たとえば、虎ノ門ヒルズのオーバル広場に展示されるStudio Toerの《Firefly Field》は、無数の光の点がホタルの浮遊を模倣するかのように広がっていくものです。オーバル広場にはジャウメ・プレンサ の《ルーツ》という大きな作品が常設されていますので、この場所にふさわしい作品として、大型の作品ではなく、ホタルが浮遊するようなインスタレーション作品が選ばれたわけです。

そのほかにも数百匹もの光り輝く蝶々が舞っていくようなAether & Hemeraの《On the Wings of Freedom》など、6つの作品は個性豊かです。台湾やレバノン、インドなど、さまざまな国のアーティストによる作品が集まっています。

Five Stars OMA NY/Shohei Shigematsu / US 展示場所=虎ノ門ヒルズ ステーションタワー B2F

Nest Vikas Patil & Santosh Gujar / India 展示場所=虎ノ門ヒルズ マウンテン

——スマートフォンに釘付けとなった現代の人々を描き出すようなGali May Lucasの《Absorbed by Light》など、作品のコンセプトも面白いものばかりですね。アルバートさんはどんなところにライトアートの魅力があると思われますか?

デルトゥア ライトアートが人と人、人と場所のつながりを生み出すという点です。もちろん美術館で絵画を観るときも同じような体験がもたらされるわけですが、人々がアートを発見する新しい形態を提示していると感じます。私たちとしても、ライトアートを通じて人々と場所をつなげたいと思っています。実際にイベントを行うと繰り返し訪れてくれる方もたくさんいらっしゃいますし、それまでにはないつながりを生み出せている実感がありますね。

——ライトアートを展開していくうえで注意していることはありますか?

デルトゥア できるかぎりサステナブルであるよう心がけています。世界各地に作品を輸送する際も飛行機ではなく船舶を使っていますし、電力においても産業界と連携しながら消費量を抑えられるよう常にチャレンジを続けています。

——ライトアートはテクノロジーの発展とも密接につながっているわけですね。アルバートさんは「TORANOMON LIGHT ART」の未来にどんなことを期待されるでしょうか。

デルトゥア 私たちとしても今回をきっかけに長年のコラボレーションにつなげていきたいですし、虎ノ門とともに成長しながら、このエリアの美しさを多くの方々に感じていただきたいです。

TORANOMON LIGHT ART

期間=開催中〜2024年1月8日(月) 実施場所=虎ノ門ヒルズエリア、新虎通りエリア