特集麻布台ヒルズ

HILLS HOUSE

ここから、クリエイティブで新しいワークスタイルが誕生しています

麻布台ヒルズの中核を担うビル〈森JPタワー〉の33〜34階に位置する〈ヒルズハウス〉。それは麻布台ヒルズという街に生まれた、新しい時代のためのワークプレイスだ。入居する企業と契約し、そこに勤める社員が使うことのできる施設として、眺望の良いカフェテリアやワークラウンジ、コミュニケーションスペースなどを用意し、ワーカーのウェルネスをサポートする。この施設に込められた思いを、プロジェクトを推進した森ビル オフィス事業部の稲原攝雄さんと設計を担当したジャモアソシエイツの高橋紀人さんに伺いました。

TEXT BY YOSHINAO YAMADA
EDIT BY KAZUMI YAMAMOTO
illustration by Geoff McFetridge



——〈ヒルズハウス〉を作るきっかけからお聞きします。2020年から始まったコロナ禍で、社会のあり方、働き方が激変していきました。この渦中に進められたプロジェクトですが、その影響はいかがでしたか。

ポスト・コロナで人が集う価値を再認識

ワークラウンジの一角で語り合う稲原さん(左)と高橋さん(右)。オフィス家具然としたものは排除したことで、リラックスした心地よい空間を構成している。photo by Masanori kaneshita

稲原 2017年ごろから麻布台ヒルズ内のプロジェクトとして入居いただく企業にお勤めのみなさんをターゲットとする〈ヒルズハウス〉の具体的な計画を始めました。当時は働き方改革を推進する風潮にありましたが、私たちは世界各国の新しい働き方に目を向けながら今後の動向を模索しました。そのなかで、ビジネスパーソンが必要とするものは昼夜で大きく変化することを踏まえ、余白のある仕掛けが必要だという結論に達しました。コロナ禍以前に考えの整理を終えていたので、コロナ禍を経た段階で当初のストーリーが崩れるかもしれないとの危惧はありました。しかし実際には、人が集えなくなったことで“人が集う価値”に目が向けられるようになったのです。リモートワークでは、密なコミュニケーションから生まれる新しいアイデアが得にくい。私たちも当初の考えのまま進めていいとの自信を得ることもできました。

稲原さんは学生時代に建築を学び、2004年森ビル入社。2010年より営業本部オフィス事業部の営業推進チームへ。オフィスのハード面、ソフト面のサービス企画、デジタル活用に至るまで、オフィスにまつわる商品や企画に全方位から携わってきた。photo by Masanori kaneshita

——空間の設計をジャモアソシエイツに依頼されたのはどういった経緯からでしょう?

稲原 企画の骨子を固めるなかで、日常的な個人の活動や食事、ミーティングの場に加え、レストランやバンケットの機能をもった幅広い用途を満たす場を目指すことになりました。同時にテック企業のカジュアルな食堂とも、ホテルのようなアッパーな空間とも違う方向性で、なおかつ居心地の良い空間を目指そうとも考えました。そのためには心に響く空間を作るデザイナーでなければならない。ジャモアソシエイツさんなら複雑な要素に対してもデザインでしっかりと構築してくれるのではないかという期待がありました。

街の中心にある公園のような存在を目指して

高橋さんは1996年金属造形を手がける〈エグジットメタルワークサプライ〉の立ち上げに参加。2000年にインテリアスタイリストの神林千夏さんとともに〈ジャモアソシエイツ〉設立。ブティック、飲食店、ホテル、住空間などの多岐にわたる分野で空間設計を行う。photo by Masanori kaneshita

高橋 はじめにお話しをいただいた時に、この規模かつ多用途な空間ですから、変更を繰り返しながら作っていくことになると理解をしていました。手探りでデザインを始めるなか、当時は仮称だった〈ヒルズハウス〉というネーミングをインスピレーションソースに考えを広げていったのです。要件を整理しつつ、それをどうやって現代的かつ上質なデザインに置き換えるかを検討しました。

稲原 麻布台ヒルズが街のコンセプトを〈グリーン&ウェルネス〉としたことで、私たちの考えていた働く場のテーマはより深まっていきました。我々はウェルビーイングを主軸に据えつつ、ライフスタイルとワークスタイルの関係性にフォーカスして空間の構築を進めました。働き方の軸となる施設でありながら、心身が健康になり、日々に刺激を与え、仲間が増えていくような豊かなコミュニケーションの場にしたいと考えたのです。

通常時はカフェであり、ワークスペースとしても利用できるパークラウンジだが、平日の夕方や週末には、ヨガやストレッチなどのプログラム、セミナーや会員限定のコミュニティイベントも開催する。眺望のいいカウンター席が心地いい。

高橋 それを踏まえ、私たちは〈ヒルズハウス〉が上下にオフィスをもつ中間の階層にあることに着目したのです。麻布台ヒルズを縦の街に見立てると、〈ヒルズハウス〉は街の中心にある公園のような存在。人が集まってコミュニケーションを図ることのできる場です。そこでまず、いわゆるオフィスで使うような白い壁を一切存在させない空間にすると決めました。超高層ビルのため内装の法規も厳しいのですが、すべての壁に自然素材を採用しています。目に入る素材が自然素材であることは精神的にもウェルネスな効果をもたらすでしょう。同時に席の距離感にも目を向けています。にぎわいはほしいけれど、近すぎると通常のオフィスと変わらなくなってしまう。適度な距離感が生まれる席を確保しつつ、密度のメリハリを意識しました。

稲原 高橋さんから街の中腹に人々が集う場をつくろうという考えを軸にした大きな骨組みと具体的な提案をいただいたので、それを元に細かな打ち合わせを繰り返すことになりました。当初から「ハウス」、つまり家の温かみみたいなものを強く意識されています。結果として奇をてらったデザインではなく、長い時間をかけて愛される色や素材の選定が行われたように思います。

ワークラウンジはタイプの異なる椅子を多数置き、その時々の気分で楽しめる。カラートーンは落ち着きあるグレージュにまとめられている。

夜になると照明の演出は変わり、ムードのある空間に。このために制作を依頼したオリジナルのアート作品も随所に。

高橋 さらに会議室エリア以外は一般的なオフィス家具を使用せず、ホームユースの家具をピックアップしています。我々としては自由に使っていただきたいとの思いもありながら、どこまでユーザーのみなさんに好き勝手に使っていただけるかは不安もありました。

稲原 結果として、開業後から想像を超えて自由に使っていただいている印象です。さまざまな空間があるので、それぞれに時間をすごされている。特に特徴的なのはクラブラウンジで、夜になるとバーのように使う方も見られ、働くだけではないシーンを見ることもできます。高橋さんの当初の狙い通り、新しい公共空間になっていると感じます。アメリカの代表的なテック企業では従業員のパフォーマンスを最大化するかを考えたワークスペースをコーポレートキャンパスとして実現しています。そこでは働くこと以外のいろいろな場面で充実したものとなるようにプログラムされている。同様に、日本でも働くスペースだけを充実させるのではなく、今後はライフとワークすべてを包み込み、サービスまで昇華できる環境が求められていくでしょう。我々はヒルズという街を作っているので、オフィスにとどまらず、街自体がキャンパスになればいいと思っています。街のアメニティやファシリティを、入居いただいている企業のみなさんに活用いただくことで誰もが成長できる環境としたい。つまり〈ヒルズハウス〉は、ヒルズ全体をキャンパスとして使ってもらうための一つのコアなのです。この活用で企業のオフィス戦略、成長戦略も変わってくるように思います。

偶発的な発見やコミュニケーションが生まれる場に

ワークラウンジ内のライブラリー。選書された本に囲まれた空間も開放されるワークスペースのひとつ。自分好みのスポットを見つけ、通い詰めるユーザーの姿も

——約1,000坪という巨大な空間ですが、どのようにレイアウトを行ったのでしょう。

高橋 ここでも「ハウス」というテーマを活かし、アメリカの邸宅を意識したゾーニングを行っています。受付を玄関アプローチに見立て、母屋や離れをテラスでつなぐ空間とすることでシーンの変化を行っています。〈ヒルズハウス〉内の随所に外を感じさせるスペースを意図的に設けることで、高いビル内に戸建てのような感覚を持ち込みました。いまはどこでも働くことができる時代ですが、なぜ僕らは空間を作るのか。それはやはり、そこには人が空間に高揚感を求めるからだと思うのです。

大邸宅をイメージして、各部屋がゾーニングされている。大小の空間を連続させながら、超高層ビルのワンフロアでありつつ、住宅のような素材感と空間性を意識した。photo by Masanori kaneshita

稲原 近年は「行きたくなるオフィスを作る」と発言される経営者も増えています。誰かを連れてきたい、誰かに会いたい、という場への根源的な欲求は変わらずにあります。私たちはそこに機能を与えることで、自らそこに行きたいという思いを促す場にしました。柔軟性のあるリモートワークをもちろん否定するつもりはありませんが、自宅で働く方が楽だという方が増えるなかで、ここでしか得られない偶発的なコミュニケーションが生まれる場に育てていきたい。

ワークラウンジからパークラウンジに向かう廊下は個室ブースが並び、奥には祈祷室も。壁や天井に木材を用い、住宅のような親密さを表現している。photo by Masanori kaneshita

——麻布台ヒルズの〈グリーン&ウェルネス〉というテーマに応えるように、かなりのグリーンが室内に置かれていますね。

高橋 広い空間なのでそこまで感じないのですが、かなりの植物の数を置いています。メンテナンスも大変ですが、室内でも生育する樹種を選定しています。植物は生きものなのでかなり早めから選定を行い、理想通りの大ぶりなものを用意することができました。かつてのオフィスでは植物が排除される傾向にあったのですが、近年はむしろ強く求められるように感じます。

稲原 空間とともに、ソフト面でもウェルネスを意識しています。たとえば提供する食事は徹底して健康志向を取り入れ、食器類なども持続可能な製品を採用しています。最近は会員に向けて、ヨガやピラティスなどの身体を動かすきっかけとなるプログラムの充実を図っています。さらに麻布台ヒルズでは多国籍な方々が働いていることから、多用な文化背景をもつ方々にも不便を感じることのない施設づくりを進めました。その一環として祈祷室を設け、食事面でも厳密なビーガンメニューも用意しています。たとえ食事の時間であっても誰かが遠慮する状況をつくらず、楽しく同じ時間を共有できる環境を用意すること。こうした仕掛けが相互理解を深めるきっかけになってほしいと考えています。

全体にあえてデザイン性を抑えた空間で居心地を重視しているが、クラブラウンジの天井造作は空調などを収めつつ意匠性にもこだわった。

「ヒルズハウス」内のグランビストロ「Dining 33」は「Dining 33 Pâtisserie à la Maison」を併設する。三國清三シェフが語った深い森のようなイメージにあわせてグリーンのタイルを採用した。

——先ほども指摘がありましたが、一企業が自社だけで対応することが難しい部分を〈ヒルズハウス〉が応えていると言えそうです。

稲原 麻布台ヒルズは人々の個々の幸せやパフォーマンスを高める街づくりを進めています。本来のパフォーマンスが出せる環境があって、人ははじめてクリエイティブになれます。これからはより、働く環境そのものがフォーカスされる時代になるでしょう。働き方改革は効率性の見直しが強く、結果として労働時間の短縮ばかりに目が向けられました。しかし本質的な生産性とは、クリエイティブにものを考え、アウトプットを最大化することにあります。麻布台ヒルズの立地と環境は、そのための大きなポテンシャルを持っています。だからこそ働くだけの環境ではなく、生活すべてを支える環境が重要になるのです。〈ヒルズハウス〉は学びや刺激が得られるコミュニティとなりたい。それこそが次の時代に求められるワークプレイスだと思うのです。

Hills House


住所=東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ 森JPタワー 33F・34F

個人メンバーシップを2024年7月よりスタート

「ヒルズハウス麻布台」は開業以来、法人を対象とした会員制度のみ受け付けておりましたが、個人を対象とした会員制度を新たに開設することとなりました。詳細はこちらより!