ART GIFT SPECIAL

ギャラリストが厳選! ホリデーギフトにアートを贈ろう

大切な人への贈りもの、また、家族や自分へのプレゼントとして、ホリデーシーズンの特別なギフトのひとつに、今年はインテリアとしても楽しめるアートを贈ってみませんか。

PHOTO BY SATOSHI NAGARE
TEXT BY MASANOBU MATSUMOTO
EDIT BY AKANE MAEKAWA

美術館での鑑賞だけでなく、作品を購入して家で楽しむという人も増え、今、アートの楽しみ方が変わりつつあります。とはいえ、実際にはどんな作品が買えるの?と思う人もいるかもしれません。そこで今回はホリデーギフト企画として、日本の現代アートを牽引する六本木の人気ギャラリストに、今年のギフトとして贈りたい注目の作家&作品を紹介してもらいました。しかも、すべて100万円以下で購入可能な作品。気になる作家を見つけたら、ぜひギャラリーに足を運び、相談してみてください。日常の中でアートを楽しむ素敵なきっかけが、特別なギフトになればと思います。

❶ 佐藤翠 @小山登美夫ギャラリー

佐藤翠 Midori Sato《Closet in My Garden in April Ⅱ》2021, acrylic and oil on canvas, 97×130.3 cm, ¥880,000(税込)

作家のクローゼットからはじまる想像の世界

芥川賞作家・中村文則の小説『去年の冬、きみと別れ』の装画や、コスメブランド〈RMK〉とのコラボレーションワークなど、近年、活躍の場を広げている佐藤翠さん。彼女の中心的な画題は「クローゼット」だ。ギャラリストの小山さんは、「洋服やシューズなどを絵画のモチーフにしているのが新鮮。装飾的なディテールもそうですが、例えば、洋服がいくつも縦に並んだ時の線の表現。その抽象的で、ある種ミニマルな表現も魅力的なのです」と佐藤さんに注目した理由について話す。近年は、植物にも関心を寄せ、本作のようにクローゼットに草花が点在する、より空想的な作品も展開する。「花柄など洋服の絵柄は植物に由来しているものもあります。クローゼットと植物の出会いは、その点でも面白い」(小山さん)。そもそも佐藤さんがクローゼットを描くようになったのは、フランス留学時代、はじめて一人暮らしをした部屋の小さなクローゼットに「自分の世界」を見い出したことだという。私だけのスペース、秘密の場所。そんなに特別な場所を飾ってみるのもよさそうだ。

 

佐藤翠|Midori Sato 1984年愛知県生まれ。2008年名古屋芸術大学絵画科洋画コース卒業、2010年東京造形大学大学院造形学部修士課程を修了。近年の主な展覧会に「Floating Drapery – 浮遊するドレーパリー 」(小山登美夫ギャラリー、東京、2022)、「Diaphanous petals」(ポーラ美術館アトリウム ギャラリー、神奈川、2019)。2023年1月より、作家の守山友一朗とともにポーラ美術館での「部屋のみる夢 ― ボナールからティルマンス、現代の作家まで」に出展予定。

小山登美夫ギャラリー 1996年、開廊。当初からの海外アートフェアへ積極的に参加し、日本のアーティストを国内外に発信。日本における現代アートの基盤となる潮流を創出してきた。2016年、六本木に移転し、2022年、天王洲にもスペースをオープン。現在は菅 木志雄、杉戸洋、蜷川実花、リチャード・タトルなどのアーティストに加え、陶芸アーティストなど、国境やジャンルにとらわれず巨匠から新たな才能まで幅広い作品を紹介する。——開廊時間=11:00~19:00 休廊日=日月祝 問い合わせ:03-6434-7225

❷ さわひらき @オオタファインアーツ

さわひらき Hiraki Sawa《tower #1》 2020, acrylic on paper, collage, 113×77 cm, ¥660,000(税込、額装込)

世界中にファンをもつ、さわひらきさんのユニークなコラージュ作品

2002年に制作された、無数の模型の飛行機が部屋の中を飛び回る映像作品《dweling》で広く注目を集めた、さわひらきさん。映像作品を中心に、オブジェやアニメーション映像の元になったドローイングなども発表してきたが、こうしたアクリル絵の具を使った平面作品は珍しいという。三角錐のタワーにベールがかかった、さわさんらしい寓話的なイメージの作品だが、ベールの部分が実は金色の紙をコラージュしてつくられているのも面白い。その紙の端は画面から少し浮かび上がっており、ベールが風にはらりと揺れるようだ。オオタファインアーツのギャラリー広報の池田さん曰く「さわさんの作品の魅力は、デジタルな映像作品であっても、手触り感のようなものがあること。また作品の多くは、子ども時代の記憶や空想と結びついています。そうした空想はおそらく誰もが経験したことで、国籍、性別を問わず多くの人の心の琴線にふれるものがあると思います」。映像作品と違い、壁にかけられる作品だが、そこにはさわさんらしさがしっかりと感じられる。

 

さわひらき|Hiraki Sawa 1977年、石川県生まれ。2003年、ロンドン大学スレード校美術学校彫刻科修士課程修了。近年の主な展覧会に「flown」(Parafin、ロンドン、2022)、「/home」(オオタファインアーツ、東京、2021)、「MEMORIA PARALELA」(ナバーラ大学美術館、ナバーラ、2019)など。

オオタファインアーツ 1994年、開廊。現在は六本木に移転し、またシンガポール、上海にもスペースをもつ。開廊当時から、世界的アーティスト草間彌生を含む幅広い日本人アーティストを取り扱い、シンガポール、中国、インドネシア、インド、フィリピン等、アジア出身の新たな作家の紹介、若手作家の発掘にも力を注ぐ。——開廊時間=11:00~19:00 休廊日=日月祝 問い合わせ=03-6447-1123

❸ 中井波花 @TARO NASU

中井波花 Namika Nakai 《re ayakaru -co-》2022, porcelain clay, glaze, cobalt, 25×50×25cm, ¥275,000(税込)

陶芸を再解釈して生まれる、かたちと「青」の美しさ

近年アートシーンでも注目を集めている「陶芸」。中井波花さんは、その素材やかたち、また焼きものの制作過程で起こる「現象」に関心をよせ作品をつくる、新しいタイプの作り手だ。特徴のひとつは、土を指先で伸ばしていく「手捻り」の手法で成形された極限までに薄い、リボンのような曲線のフォルム。さらに釉薬によるひび割れや歪みが、独特の存在感を醸し出す。《re ayakaru -co-》は、彼女の新作のひとつだ。磁土に金属の「コバルト」を混ぜ込むことで、土自体の性質を変えると共に、 淡い青を発色させる。土とコバルトによる 「現象」を作品に落とし込んでいるそう。TARO NASUのディレクター、細井さんは「陶芸の既成概念にとらわれない瑞々しい感性に、新世代の現代美術家としてのパワーを感じます」と目を光らせる。過去、中井さんの個展では、こうした作品が和室の開いた空間に配置されていたのも印象的だった。「エントランスにも、リビングにもよいと思いますが、もし暖炉がある家ならば、その側に置き、円形の作品の真ん中から暖かい火を眺めてみるのも素敵ですね」(細井さん)

 

中井波花|Namika Nakai 1993年、北海道生まれ。2019年、多治見市陶磁器意匠研究所修了。2022年、金沢卯辰山工芸工房修了。近年の主な展覧会に「第5回金沢・世界工芸トリエンナーレ 工芸が想像するもの」(金沢21世紀美術館、金沢、2022)など。 2023年1月13日から2月10日まで、TARO NASUにて個展「浮かぶ」を開催予定。

TARO NASU 1998年、開廊。2019年、六本木に移転。ピエール・ユイグやライアン・ガンダーなど、新しい潮流のコンセプチュアルアーティストに注目し、写真家を含む国内外の作家を取り扱ってきた。その他の所属作家は秋吉風人、榎本耕一、サイモン・フジワラ、リアム・ギリック、ホンマタカシ、松江泰治、田島美加、ローレンス・ウィナーなど。——開廊時間=11:00~19:00 休廊日=日月祝 問い合わせ=03-5786-6900

❹ 髙畠依子 @シュウゴアーツ

髙畠依子 Yoriko Takabatake 《CAVE》 2022, stucco, pigment, PVA, acrylic, canvas, panel, 41×31.8cm, ¥440,000(税込)

「筆で描いていない絵画」という他にない独創性

髙畠依子さんの作品は、一言でいえば「筆を使わずに描かれた絵画」。絵の具を糸のように垂らし、縦へ横へと重ねながら織物のような図像をつくり上げたり、絵の具に砂鉄を混ぜ、キャンバスの裏側から磁石を当て、磁力を用いて描いたりと。風や水、火といった自然の力を取り入れた作品もある。最新シリーズ《CAVE》では、特殊加工をしたキャンバスを漆喰液に浸けるという工程を繰り返し、洞窟の表面のような絵画をつくるということに挑んでいる。今回紹介する作品は、その《CAVE》シリーズの作品で、漆喰のキャンバスをさらに「弁柄」と呼ばれる赤い金属系の天然顔料の液体に何度も浸して生み出したもの。その浸水時間と深さが、ストライプになって地層のように画面に表れている。「このような方法をとる作家は、世界中でおそらく髙畠さんだけ。その独創性が魅力」とシュウゴアーツのギャラリースタッフの山田さん。このストライプの作品は、自宅に飾りやすい小ぶりのサイズであることもポイントだ。小さい画面のなかに髙畠さんの実験性と独創性がぎっしりと凝縮されている。

 

髙畠依子|Yoriko Takabatake 1982年、福岡県生まれ。2016年、東京藝術大学大学院博士課程修了。近年の主な展覧会に「MARS」(Gana Art Nineone、ソウル、2022)、「MARS」(シュウゴアーツ、東京、2020)、「Project N 58 髙畠依子展」(東京オペラシティアートギャラリー、2014)など。現在、12月24日(土)までシュウゴアーツにて個展「CAVE」を開催中。

シュウゴアーツ 2000年より活動を開始し、2016年に六本木に移転。2022年1月には天王洲にビューイングスペースを兼ねた ShugoArts Studioもオープン。主な所属作家に千葉正也、藤本由紀夫、イケムラレイコ、小林正人、近藤亜樹、リー・キット、丸山直文、アンジュ・ミケーレ、三嶋りつ惠、森村泰昌、小野祐次、戸谷成雄、山本篤、米田知子など。——開廊時間=12:00~18:00 休廊日=日月祝 問い合わせ=03-6447-2234

※ 今回紹介した作品は、問い合わせ時に売約済みの可能性もあります。購入を希望される方は、まずは各ギャラリーに問い合わせをお願いいたします。